ここでは**「社会復帰」という語を使わずに、しかも現実的に制度と折り合いをつけながら書く支援計画**を、思想→構造→具体表現の順で整理します。
1. なぜ「社会復帰」を書かないのか(前提の明確化)
「社会復帰」という語は、支援計画の中ではしばしば次の前提を暗黙に含みます。
- かつての“標準状態”への回帰可能性
- 本人の内的準備よりも制度上のゴールが先行
- 回復=機能回復/役割回復という単線モデル
あなたがこれまで辿ってきた議論
(妄想の退色 → 空白 → 抑うつ → 制度が臨界点を越えさせる)
を踏まえると、ここには明確な危険があります。
したがって書き換えるべきなのは「目標」ではなく、「時間の捉え方」そのものです。
2. 「社会復帰」を言わない支援計画の基本構造
支援計画を、次の3層に分けます。
① 状態記述(評価)
→ 目標を置かない
- 現在の心理状態・生活リズム・対人距離の観察的記述
- できる/できないではなく、「どう感じられているか」
例
- 「対人場面において、意味づけの負荷が高まると疲弊が強くなる傾向がある」
- 「外的要求が増すと抑うつ気分が前景化しやすい」
② 支援の方向性(ベクトル)
→ ゴールではなく方向
ここが最重要です。
用いる語は:
- 回復 ×
- 復帰 ×
- 適応 ×
代わりに:
- 安定
- 調整
- 保持
- 探索
- 再構成
例
- 「生活の安定性を維持しつつ、本人の負荷感を損なわない範囲で経験の幅を探索する」
- 「意味の過剰化を招かない関係性のあり方を、時間をかけて再構成する」
③ 具体的支援(制度との接点)
→ 制度を目的化しない
制度は「通過点」ではなく「緩衝材」として位置づけます。
例
- 「就労支援事業所の利用は、就労を目的とするものではなく、生活リズムと対人距離の調整を目的とする」
- 「作業参加は“評価されない場”として限定的に活用する」
3. 計画書にそのまま使える言い換え集
「社会復帰」の代替表現
- 「社会的役割の再獲得」→ ❌
- 「社会との接点の持ち方を再検討する」
- 「社会との距離を本人の感覚に即して調整する」
- 「生活世界の拡張可能性を慎重に見極める」
「就労」を書かざるを得ない場合
制度上避けられない場合でも、主語を本人に戻さない。
- ❌「就労を目指す」
- ⭕「就労という選択肢が本人にとって意味を持ちうるかを検討する段階にある」
- ⭕「現時点では就労を目的化しない」
4. 家族・制度への“静かなブレーキ”の入れ方
支援計画は、家族と制度を同時に宥める文書でもあります。
そのために有効なのが、
「拙速な目標設定は、かえって状態の不安定化を招く可能性がある」
という一文です。
これは、
- 家族の焦り
- 制度の成果主義
の両方を医学的判断として制動します。
5. この計画が守っているもの
この書き方が一貫して守っているのは:
- 妄想がほどけた後に生じる空白
- 空白が抑うつに変わる臨界点
- 制度が善意でそれを越えさせてしまう構造
つまり、
「まだ物語を与えない」という支援
です。
6. 最後に(臨床家としての立場から)
この支援計画は「希望を与えない計画」ではありません。
むしろ、
希望が侵襲になる局面を、きちんと理解している計画
です。
