では、単純な対立図式を避けながら、本質的な違いをいくつかの軸で整理します。
結論から言えば、科学と宗教の違いは「信じる/信じない」ではなく、世界とどう関係するかの作法の違いです。
1. もっとも根本的な違い
科学
世界を〈説明される対象〉として扱う
宗教
世界を〈呼びかけてくるもの〉として扱う
科学にとって世界は沈黙しています。
宗教にとって世界は語りかけてきます。
2. 真理の性質の違い
| 観点 | 科学 | 宗教 |
|---|---|---|
| 真理の条件 | 反証可能性・再現性 | 啓示・体験・伝承 |
| 真理の更新 | 常に暫定的 | 原理的には不変 |
| 真理の場所 | 外部(自然・データ) | 内部(生・共同体) |
科学の真理は「いつでも書き換え可能」です。
宗教の真理は「生き方として固定される」。
3. 対象の切り取り方
科学の態度
- 主観を排除する
- 文脈を切り落とす
- 測定可能な部分だけを残す
宗教の態度
- 主観を中心に置く
- 文脈と物語を重視する
- 意味の過剰を引き受ける
科学は世界を薄くし、
宗教は世界を厚くする。
4. 人間の苦しみにどう向き合うか
科学
- 苦しみを原因に分解する
- 症状・メカニズムとして理解する
- 技術的に軽減する
宗教
- 苦しみを意味の問いに変える
- なぜ自分が、という問いを許す
- 共同体の中で抱え直す
どちらが「正しい」かではありません。
異なる次元に応答している。
5. 死への態度の決定的違い
科学
- 死は生命機能の停止
- 説明はできるが、慰めはしない
宗教
- 死は関係の変容
- 説明よりも位置づけを与える
科学は死を理解し、
宗教は死を生の中に回収しようとする。
6. 権力との関係
ここは誤解されやすいところです。
- 宗教は権力化すると抑圧になる
- 科学は制度化すると支配技術になる
どちらも無垢ではない。
ただし性格が違う。
- 宗教の暴力:意味の独占
- 科学の暴力:現実定義の独占
「それは科学的ではない」という一言は、
しばしば宗教的断罪よりも静かに人を排除します。
7. 両者は対立するのか
本来はしません。
- 科学は「どうなっているか」を問う
- 宗教は「どう生きるか」を問う
問題は、
科学が「どう生きるか」にまで踏み込み、
宗教が「どうなっているか」を独占しようとしたとき。
8. 精神医療の文脈で言えば
精神医療が科学だけになると、
- 苦悩はノイズになる
- 物語は症状に還元される
宗教だけになると、
- 病理が見えなくなる
- 治療が免罪になる
良い精神医療は、
科学の冷静さと、宗教の厚みの間に立つ。
9. 一言で言うなら
科学は世界を「扱えるもの」にする知であり、
宗教は世界を「引き受けるもの」にする知である。
どちらか一方だけでは、
人間は生ききれません。
