「科学と技術」はしばしば一体のものとして語られますが、本来は性格も倫理も時間感覚も異なる営みです。以下、対立ではなく「ずれ」として整理します。
1. 一言で言えば
- 科学:世界を知ろうとする営み
- 技術:世界を変えようとする営み
科学は「理解」を目指し、
技術は「介入」を目指します。
2. 目的の違い
| 観点 | 科学 | 技術 |
|---|---|---|
| 目的 | 真理の探究 | 有用性の実現 |
| 成功の基準 | 正しいか | 使えるか |
| 時間感覚 | 遅くてよい | 早くなければならない |
科学は「役に立たなくてもよい」。
技術は「役に立たなければ意味がない」。
3. 対象との距離
科学
- 対象から距離を取る
- 操作しない
- 介入しない(原理的には)
技術
- 対象に近づく
- 操作する
- 結果に責任を負う
科学は世界を観察する立場、
技術は世界を触る立場。
4. 失敗の意味
| 科学 | 技術 | |
|---|---|---|
| 失敗 | 発見につながる | 事故・損害 |
| 許容度 | 高い | 低い |
| 取り返し | 可能 | 不可の場合あり |
科学の失敗は「知識の前進」。
技術の失敗は「現実の破壊」。
5. 倫理との関係
科学
- 原理的には価値中立を志向
- 「それがどうであるか」を語る
技術
- 本質的に価値判断を含む
- 「それを使うべきか」を問われる
原爆は科学的発見ではなく、
技術的選択の結果です。
6. 科学から技術は必然か?
必然ではない。
- 多くの科学は技術化されない
- 多くの技術は科学以前から存在した
例:
- 航海技術 → 天文学以前
- 蒸気機関 → 熱力学以前
- 農業 → 生物学以前
技術は経験知として先行し、
科学が後から説明することも多い。
7. 現代の特徴:科学の技術化
現代では、
- 研究資金
- 国家戦略
- 産業競争
により、科学が最初から「使えるか」で評価されやすい。
その結果、
- 問いが浅くなる
- 回り道が許されない
- 科学が技術に回収される
8. 精神医療の文脈で見ると
科学としての精神医学
- 病態仮説
- 神経科学
- 疫学
技術としての精神医療
- 診断基準
- 薬物療法
- マニュアル化された治療
問題は、
科学の不確かさを、技術の確実性で隠すこと。
9. 制度と結びついたとき
- 科学 → 権威になる
- 技術 → 管理装置になる
ここで「制度への抵抗」が必要になる。
10. 一文でまとめると
科学は「世界を理解する力」であり、
技術は「世界を変えてしまう力」である。
理解と介入は、
同じ方向を向いているとは限りません。
