「キリスト教的超越倫理を持たずに近代化した日本において、では何が〈倫理の最終拠点〉になりうるのか」。
以下、すでに存在している萌芽/構想可能な基盤を、長短も含めて整理します。
1. 結論を先に(要約)
日本における〈代替的倫理基盤〉は、
単一の原理としては成立しない。
成立しうるのは、
「超越を制度化しないが、
逸脱を可視化し続ける倫理」
です。
つまり、
- 神の代理人を置かない
- 絶対原理を掲げない
- しかし「これはおかしい」と言い続ける場を壊さない
2. 候補①:〈恥〉ではなく〈引き受け〉としての関係倫理
何か
- 和辻倫理の「間柄」を再解釈する
- 空気への同調ではなく、
- 関係への応答責任として捉え直す
倫理の核
「誰かが引き受けてしまった苦しみを、
見なかったことにしない」
強み
- 日本文化と接続可能
- ケア・看護・精神医療と相性が良い
弱点
- 原理化しにくい
- 声の小さい人が消えやすい
3. 候補②:〈弱さ〉を最終基準に置く倫理(鶴見俊輔・上野千鶴子系)
何か
- 正しさではなく、
- 傷つきやすさを基準にする
倫理の問い
「その制度・技術・判断は、
いちばん弱い人に何をしているか」
強み
- 技術・国家・資本への歯止めになる
- 精神医療・障害学と親和性が高い
弱点
- 「弱さの政治利用」の危険
- 決断が遅れる
4. 候補③:〈物語責任〉としての倫理
何か
- キリスト教的「罪」ではなく、
- 語られなかった歴史への責任
倫理の形
- 記録する
- 語り直す
- 忘却に抗う
強み
- 戦争責任・医療加害・精神医療史に適用可能
- 反省を形式に終わらせない
弱点
- 効率が悪い
- すぐ役に立たない
5. 候補④:〈立ち止まる権利〉の制度化
何か
- 判断の保留
- 介入しない選択
- スピードへの抵抗
倫理の中心
「できること」と「してよいこと」の間に、
時間を差し込む
強み
- 技術倫理に強い
- 精神医療で極めて重要
弱点
- 経済合理性と衝突
- 評価されにくい
6. 候補⑤:〈ケア〉を倫理の中心に据える
何か
- 自律より依存
- 権利より関係
- 成果より継続
日本的強み
- 看護・介護・地域医療に実績
- 宗教に代わる「日常倫理」
注意点
- ケアの美徳化=搾取の危険
- 無限責任に陥りやすい
7. なぜ「一つに決めない」のが重要か
日本で単一原理を置くと、
- 国家になる
- 空気になる
- 専門家支配になる
という歴史的失敗がある。
したがって必要なのは、
倫理の多中心化
最終審級を空白のまま保つ勇気
8. 精神医療に引き寄せて言えば
精神医療は、
- 科学でも
- 技術でも
- 宗教でもない
しかし、
「人が壊れずに生き延びるための、
最後の非効率領域」
でありうる。
そこでは、
- すぐ治さない
- すぐ意味づけない
- すぐ評価しない
という態度自体が、倫理になる。
9. 一文でまとめると
日本における〈代替的倫理基盤〉とは、
絶対的正しさを掲げない代わりに、
苦しみが不可視化されることに抗い続ける実践である。
