これは倫理学というより、時間・記憶・関係の問題です。
「失敗した倫理」を正す方法はありません。
修復するしかない。しかも一度では終わらない。
以下では、断罪や総括を避けつつ、修復が起こりうる条件を段階的に示します。
1. まず前提を置く
倫理は「失敗するもの」である
倫理は、
- 常に不完全
- 後からしか評価できない
- 成功より失敗の方が多い
これを否定すると、
倫理はすぐに免罪装置になる。
2. 修復の第一段階:
①「なかったことにしない」
失敗した倫理の典型は、
- 記録が消える
- 語られない
- 個人の問題に還元される
修復はまず、
失敗を歴史に残すこと
から始まる。
精神医療で言えば
- 不適切だった入院
- 過剰投薬
- 強制の後遺症
を「過去の基準では正しかった」で終わらせない。
3. 第二段階:
② 責任を「犯人探し」にしない
- 誰が悪かったか
ではなく、 - なぜ止まれなかったか
を問う。
これは免責ではない。
責任の再配置である。
4. 第三段階:
③ 被害を「語り直せる場所」をつくる
謝罪文や報告書では修復は起きない。
必要なのは、
- 結論を出さない場
- 評価されない語り
- 感情が整理されていなくてよい時間
精神医療では、
治療の言葉で回収しない語り
が重要。
5. 第四段階:
④ 加害の側が「防衛を手放す」
- 当時は仕方なかった
- ガイドライン通りだった
- 悪意はなかった
これらは事実でも、
修復を止める言葉になる。
防衛を下ろすとは、
「自分は正しかったかもしれないが、
傷は残った」と言えること。
6. 第五段階:
⑤ 失敗を制度に刻み込む
修復は感情の問題では終わらない。
- 同じことが起きにくくなる変更
- 判断を遅らせる仕組み
- 異論が消えない回路
を作る。
失敗を
知恵に変換する
7. 第六段階:
⑥ 完全な回復を目標にしない
- 元通りにはならない
- 許されないこともある
- 関係が切れたままの場合もある
それでも、
傷が社会から追放されない状態
を作ることが修復。
8. 精神医療特有の困難
- 治療と加害が重なる
- 善意が暴力になる
- 患者の語りが「症状」にされる
だからこそ、
修復は医療行為としてではなく、
社会的実践として行われる必要がある
9. 日本的文脈での難しさ
- 責任の所在が曖昧
- 和解が形式化しやすい
- 忘却が早い
対抗策は、
未完のまま残すことを許す倫理
10. 一文でまとめると
失敗した倫理は、正すことはできない。
だが、語り、記録し、構造を変えることで、
未来に対して責任を持つことはできる。
⑤ 失敗を制度に刻み込む
修復を感情の問題では終わらない。
・同じことが起きにくくなる制度変更
・判断を遅らせる仕組み
・同調圧力に抵抗する仕組み
・異論が消えない回路
・少数者意見を尊重する制度
を作る。
→これは日本の国家としての失敗を制度に刻み込み、未来に責任を持つという態度でもある。
=構造化する、制度化する、法制化する
