では率直に言います。
この仕組みは「人の弱さ」ではなく、「制度が成功してしまった地点」で必ず壊れます。
以下、精神医療制度に〈倫理の余白〉を埋め込む試みが、どこで・なぜ・どのように崩れるのかを、避けられない破綻点として示します。
1. 最初の破綻点
「うまくいっているように見え始めたとき」
倫理的配慮が制度化されると、
- トラブルが減る
- 訴訟が減る
- 評判が良くなる
すると次に起きるのは、
「このやり方は正しい」という自己確証
です。
この瞬間、
- 迷いはノイズになり
- 異論は非協力的とされ
- 倫理は「達成済み」になる
倫理は**成功した瞬間に死
では続けます。
ここからは、「必ず壊れる地点」を回避不能なものとして、しかし“予防的に傷を浅くする”視点で書きます。
倫理は「成功した瞬間」に死ぬ
倫理が制度に埋め込まれ、
- トラブルが減り
- 評価が安定し
- 外部から褒められる
ようになると、次に起きるのは、
倫理が〈手続き〉に置き換わる
ことです。
- 立ち止まりはチェック項目になる
- 迷いは様式文に吸収される
- 異議は「もう議論済み」とされる
倫理が“既に解決された問題”になる。
この時点で、壊れています。
2. 第二の破綻点
「忙しくなったとき」
倫理は必ず
時間を食う。
- 話を聞く
- 判断を保留する
- 立場の違いに耐える
しかし制度は、
- 人員削減
- 病床回転率
- 書類増加
- 緊急対応
で常に逼迫する。
そのとき、真っ先に削られるのは、
成果に換算できない時間
つまり、
- ミニ倫理ラウンド
- 迷いの共有
- 自由記述
- 何もしない支援
「余裕が戻ったら再開しよう」は、
二度と戻らない。
3. 第三の破綻点
「正しさを語れる人が現れたとき」
制度内に、
- 倫理に詳しい人
- 倫理的に正しい言葉を使える人
- 倫理を代表する人
が生まれると、起きるのは、
倫理の権威化
です。
すると、
- 迷いは「未熟」
- 異論は「倫理的でない」
- 沈黙は「問題意識がない」
と再分類される。
倫理が新しい専門支配になる。
4. 第四の破綻点
「被害が小さく見えるとき」
精神医療の倫理的失敗は、
- 死亡
- 大事故
ではなく、
- 人生が少し縮む
- 自尊心が削れる
- 声を出さなくなる
という形で現れることが多い。
制度はこれを
測定不能=存在しない
と扱う。
「大きな問題は起きていない」
という言葉が出た瞬間、
壊れています。
5. 第五の破綻点
「患者の語りが“理解された”と感じたとき」
最も危険なのは、
「この人の苦しみは分かった」
という感覚。
理解は本来、関係を開くが、
制度では閉じる力になる。
- もう説明しなくてよい
- もう語らなくてよい
- もう悩まなくてよい
理解は、
語りを終わらせる装置
になりうる。
6. 第六の破綻点
「倫理が教育カリキュラムとして完成したとき」
- 倫理研修
- 到達目標
- 修了証
が整った瞬間、
倫理は「身につけるもの」になる。
しかし倫理は本来、
- 身につかない
- 何度も失敗する
- 終わらない
修了可能な倫理は、もう倫理ではない。
7. では、壊れないために何ができるか
答えは一つしかありません。
壊れる前提で作る
8. 壊れ方を限定する設計
① 倫理を「未完成」のままにする
- 定期的に廃止・見直し条項を入れる
- 永続制度にしない
② 倫理実践を評価しない
- 点数化しない
- 表彰しない
- モデル事例にしすぎない
③ 異論を制度的に保護する
- 少数意見の記録義務
- 採用されなくても消さない
④ 倫理の「役に立たなさ」を守る
- 効率を下げる
- 決定を遅らせる
- 不安を増やす
9. 精神医療という場の特殊性
精神医療は、
- 人の壊れやすさを扱い
- 国家権力(強制)と近く
- 善意が暴力に転びやすい
だからこそ、
倫理が壊れ続けていることを、
壊れていないふりをしない
こと自体が、
最後の倫理になる。
10. 一文でまとめると
この仕組みは、
うまくいった瞬間・忙しくなった瞬間・
誰かが「正しい」と言えた瞬間に、必ず壊れる。
だから必要なのは、
壊れない制度ではなく、
壊れ方が致命的にならない制度です。
