構成案


構成案(文章化)

第1章 資本主義は「精神」から生まれたのか

本章の目的:資本主義の発展を単なる経済制度としてではなく、倫理的・宗教的エートスと結びついた歴史的現象として再評価する。
マックス・ウェーバー(1905)は、プロテスタント倫理が勤勉・倹約・再投資の精神を醸成し、資本主義の発展を準備したと論じた。カトリック圏のポルトガルやスペインが短期的な富を得たものの、制度的資本蓄積には至らなかった事実は、この倫理的土壌の重要性を示す。本章では、西欧諸国の歴史的比較を通じて、資本主義が成立するための精神的基盤と制度的条件の相互作用を考察する。

第2章 なぜスペインは衰退し、イギリスは繁栄したのか

本章の目的:歴史的事例を通して、資本主義的発展における倫理と制度の偶然的結合を理解する。
スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリスの帝国主義的展開を比較する。短期的に富を獲得したスペインとは異なり、イギリスは資本蓄積・技術革新・制度的安定を維持し、長期的に繁栄した。ここから、精神的エートスと制度の均衡がいかに成立し、崩れると社会に何が起きるかを理論化する。

第3章 中国はなぜ近代科学に向かわなかったのか

本章の目的:中国文明の高度性を再評価し、西欧との科学的分岐の理由を考察する。
清代までの中国は行政・技術体系が高度であったが、近代科学を生み出すには至らなかった。理由として、知の体系の方向性、倫理・宗教・社会秩序優先の価値観、そして科学的実証よりも儒教的秩序が重視されたことが挙げられる(Taylor, 2007)。この分析を通じ、科学発展の社会的条件と倫理的土壌の関係を明らかにする。

第4章 科学とは何か――宗教・技術との分岐点

本章の目的:科学の概念を明確化し、宗教・技術との機能的分岐を理論化する。
科学は自然現象の体系的説明を目指す知的活動である。宗教は倫理的価値秩序を提供し、技術は効率化・標準化・可視化を実現する。本章では、これら三者の分岐点を整理し、技術が倫理を追い越すときに生じる問題を前提として位置づける。

第5章 技術合理性が倫理を侵食する地点

本章の目的:効率化・標準化・可視化といった技術合理性が、どのように倫理判断を代替・侵食するかを分析する。
精神医療においても、評価指標や数値化が先行する場合、治療者の倫理判断が後退する。技術合理性の自己増殖が倫理的価値を制度内で消失させる過程を、歴史・理論の両面から考察する。

第6章 日本的近代化――科学を受け入れ、宗教を拒否した社会

本章の目的:明治以降の日本の近代化を、西欧の科学・技術受容と宗教拒否の組み合わせから理解する。
日本は西欧の自然科学と技術を積極的に導入した一方で、キリスト教を中心とする宗教的倫理は受容しなかった。この選択が、倫理的・精神的成熟の遅れや、社会制度内における倫理的揺らぎと関係している可能性を検討する。

第7章 日本における〈代替的倫理基盤〉は何になりうるか

本章の目的:宗教不在の社会における倫理基盤を検討し、精神医療が担いうる役割を提示する。
江戸時代の石門心学や二宮尊徳の勤勉・倹約・貯蓄の精神は、資本主義的倫理の一形態として代替的な基盤となりうる。現代の精神医療制度においても、制度化された倫理ではなく、このような価値感覚を活かす実践が可能かを考察する。

第8章 精神医療制度の中にどう埋め込むか――制度化とその損失

本章の目的:倫理や価値を制度に組み込む際に失われるものと、その制御方法を分析する。
倫理を制度化すると、善意が空洞化し、失敗の行き場がなくなる。精神医療者は、抵抗や曖昧さ、失敗の個人化回避などを通じて制度内に倫理を埋め込みつつ、制度の硬直化を防ぐ役割を担う。

第9章 経済合理性とどう折り合うのか

本章の目的:精神医療制度における倫理と経済合理性の共存可能性を検討する。
成果指標や費用対効果の圧力の中で、制度は数値化できないコストを内包する必要がある。完全な一致ではなく、折り合いをつける形で倫理を制度内に残す方法を提示する。

第10章 世俗社会における〈信仰なき宗教性〉

本章の目的:宗教的信仰が欠如しても、倫理的・意味秩序は制度内に残存することを示す。
精神医療は、宗教以前の秩序や救済的機能を制度内で担うことが可能である。これにより、日本社会における倫理基盤としての精神医療の潜在的可能性を示す。

結語 限界と今後の課題

到達点:資本主義・科学技術・制度合理性の発展に伴う倫理の外部化を整理し、精神医療を〈失敗を引き受ける制度〉として理論的に再定義した。
限界:理論研究に偏重しており、実証的データや多文化比較を欠く。規範的含意が強く、具体的な制度設計への適用は限定的である。
今後の課題:質的研究や臨床データを用いた理論検証、経済合理性との具体的接続、他領域ケアとの比較研究を通じ、精神医療制度の倫理的機能を明確化する必要がある。


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