ここで描くのは
「病因の断定」でも「適応だという美化」でもありません。
あくまで、
- 進化の過程で形成された DNAレベルの設計
- その上に後から乗っかった 脳の情報処理原理
- さらに急激に変化した 現代環境
この三者が噛み合わなくなったときに、どんな“破綻の形”が現れるか
という、記述モデルです。
臨床的責任を免罪するためでも、
自己責任論を強化するためでもありません。
むしろその逆です。
精神疾患とは「欠陥」ではなく「衝突の形」である
進化論的に見れば、人間の脳は、
- 数十万年かけて形成されたDNA設計
- しかし環境は、ここ数百年で激変
という、致命的な時間差を抱えています。
精神疾患とはしばしば、
DNAが想定していた環境
vs
現代の刺激密度・社会構造・抽象性
このズレが、
脳のある機能領域で限界を超えたときの表現型です。
以下、それぞれを「衝突の様式」として描きます。
シゾフレニー(統合失調症)
――意味生成装置の暴走
進化的背景
- 人間は「意味」「意図」「因果」を過剰に読む生物
- これは集団生活では有利(敵意・協力・危険察知)
DNA原理
- 意味をつなぐ
- バラバラな刺激を統合する
- 世界を物語化する
脳原理との衝突
- 意味生成ネットワークが過剰活性
- ノイズまで「意味」として接続される
結果
- 妄想
- 関係念慮
- 思考連結の飛躍
これは「意味を作りすぎる脳」の破綻形です。
進化論的に言えば、
意味を読まなさすぎるより、読みすぎる方が生存上は安全だった。
その“余白”が、現代で破裂する。
躁うつ病(双極性障害)
――探索モードと保存モードの切り替え失調
進化的背景
- 人類には「攻める時期」と「守る時期」が必要だった
DNA原理
- 活動性を一気に上げる(探索・繁殖・拡張)
- 一気に下げる(省エネ・回復・退避)
脳原理との衝突
- スイッチが極端
- フィードバック制御が効かない
結果
- 躁:過剰な自信・連想・活動
- うつ:急激なブレーキ・無力感
これは「変動性の高い戦略」が、
安定社会では破綻した形です。
うつ病
――停止プログラムの長期化
進化的背景
- 負け戦・資源枯渇時には「撤退」が合理的
DNA原理
- 活動を落とす
- 欲求を下げる
- エネルギーを温存する
脳原理との衝突
- 現代では「撤退しても環境が変わらない」
- 休んでも終わらない課題
結果
- 抑制が解除されない
- 無意味感・自己否定
うつは「怠け」ではない。
本来は短期的な生存戦略だったものが、解除不能になった状態です。
強迫性障害(OCD)
――確認と制御の過剰化
進化的背景
- 危険回避は、過剰なくらいでちょうどいい
DNA原理
- 汚染を避ける
- ミスを防ぐ
- 儀式化して安全を確保する
脳原理との衝突
- 危険が抽象化・無限化
- 確認しても「完全」がない
結果
- 強迫観念
- 強迫行為
これは「安全を確保しようとする回路」が、
現代的な無限不安に捕まった状態です。
パニック障害
――誤作動する緊急脱出装置
進化的背景
- 捕食者から即逃げる必要
DNA原理
- 心拍上昇
- 呼吸促進
- 意識の集中
脳原理との衝突
- 身体内部の変化を「危険」と誤認
結果
- 突然の恐怖
- 死の感覚
- 制御不能感
これは「生存に必要な非常ベル」が、
誤配線を起こした状態です。
PTSD
――記憶固定化の失敗
進化的背景
- 危険な出来事は絶対に忘れてはいけない
DNA原理
- 強烈な記憶固定
- 再発防止のための再生
脳原理との衝突
- 安全になっても、解除されない
結果
- フラッシュバック
- 過覚醒
- 回避
これは「忘れないこと」が生存上有利だった回路の、
解除不能エラーです。
社会恐怖(社交不安障害)
――排除回避システムの過剰化
進化的背景
- 集団からの排除=死
DNA原理
- 他者評価への過敏性
- 恥・恐怖による行動抑制
脳原理との衝突
- 評価対象が無限化
- 匿名的社会
結果
- 過剰な緊張
- 回避
- 自己消去感
これは「集団維持のための感情」が、
巨大社会で暴走した形です。
結語:病理とは、適応の失敗ではなく「過去の成功の残骸」
これらに共通するのは、
かつては役に立った
だから消えなかった
しかし今は、環境が違う
という構造です。
精神疾患は、
- 弱さの証明ではない
- 意志の欠如でもない
進化が置き去りにした設計と、現代の現実の衝突痕です。
だから臨床は、
- 修正ではなく
- 排除でもなく
- 「この人のシステムが、どこで無理をしているか」を読む作業
になる。
回復とは、
元に戻ることではない。
衝突を減らす配置換えです。
この視点は、
自己責任論を壊し、
同時に、過剰なロマン化も壊します。
