22.多職種連携とアウトリーチ型支援の可能性


22. 多職種連携とアウトリーチ型支援の可能性― 統合失調症とうつ病における支援モデルの差異と融合の展望 ―

はじめに

精神疾患の治療と回復において、医療のみならず社会的・生活的支援の重要性が認識されるようになって久しい。中でも、**多職種連携(multidisciplinary collaboration)とアウトリーチ型支援(outreach support)**は、治療継続と社会復帰を支えるための鍵となる。しかし、疾患の特性や症状の持続性、本人の動機づけの違いにより、統合失調症とうつ病では支援のアプローチや必要とされる支援の性質に違いがある。本稿では、多職種連携とアウトリーチ型支援の意義と課題について、両疾患を比較しながら検討する。


1. 多職種連携の基本構造と必要性

多職種連携とは、医師、看護師、精神保健福祉士(PSW)、臨床心理士、作業療法士、訪問看護師、就労支援員などが、共通の支援目標を共有し、役割を分担しながら協働する枠組みである。精神医療においては、症状への医学的介入と並行して、生活支援、社会復帰支援、家族支援などを網羅的に行う必要がある

統合失調症における連携の特徴

  • 長期的かつ慢性的な経過をとることが多く、継続的なフォローが必要
  • 陽性症状・陰性症状による生活機能の低下が著明な場合があり、生活面での支援が不可欠
  • 医療職(特に精神科医と看護師)の役割に加え、地域生活支援や就労移行支援の専門職の関与が重要

うつ病における連携の特徴

  • 多くはエピソード性であるが、再発・再燃が多いため早期の介入と回復後のモニタリングが重要
  • 自責感・無力感が強く、支援を拒否しがちなため、心理士や看護師による継続的な関わりが有効
  • 就労支援、ストレスマネジメント指導など、回復後の社会的機能の再構築を視野に入れた支援が必要

2. アウトリーチ型支援の意義とモデル

アウトリーチ支援とは、医療機関に来られない/来ようとしない人々に対して、支援者が積極的に接触を図り、支援を届けるモデルである。特に、包括型地域生活支援(ACT:Assertive Community Treatment)や訪問看護型支援は、アウトリーチの典型例である。

統合失調症とアウトリーチ

  • 病識の欠如、対人不安、スティグマなどにより医療中断が多く、訪問支援による継続的な治療関与が不可欠
  • ACTモデルは統合失調症の支援に特化した形で発展し、再入院率の低下に効果があることが示されている(Burns et al., 2007)

うつ病とアウトリーチ

  • 患者自身の「助けを求める力」が低下する状態(自殺念慮、アパシー)では、受動的な支援提供が重要
  • 自殺ハイリスク者や職場復帰困難な人に対して、精神科訪問看護や地域相談支援の形でアウトリーチが活用されつつある(Mann et al., 2005)

3. 多職種連携・アウトリーチの障壁と今後の課題

  • 制度の分断:医療保険・介護保険・福祉サービスが別体系にあるため、支援の継続性が妨げられる
  • 情報共有の困難:個人情報保護の観点から、チーム内での十分な連携が阻害されることがある
  • 疾患特性の違いに応じた柔軟な対応が不足:統合失調症の支援体制は整いつつあるが、うつ病に対する継続的支援はなお制度的に脆弱である

4. 対比を踏まえた統合モデルの可能性

統合失調症とうつ病では、必要とされる支援の重点が異なるものの、両者を包摂する柔軟な支援モデルの開発が求められる。たとえば:

  • 統合失調症には社会的孤立の予防と生活支援の持続性
  • うつ病には再発予防のための心理教育と柔軟な就労支援

そのためには、疾患ごとの標準的ケアパスだけでなく、当事者の語りやリカバリー観を基盤とした柔軟な支援設計が不可欠である。


おわりに

統合失調症とうつ病という異なる臨床像を持つ精神疾患においても、多職種連携とアウトリーチ支援は共通の基盤を提供し得る。しかし、両者に必要な支援の質と範囲には明確な差異があり、その違いに応じた支援設計が必要である。今後は、両疾患の特性に応じた個別化された支援の深化と、制度横断的な柔軟性のある連携体制の構築が求められる。


参考文献

  1. Burns, T., Catty, J., Dash, M., et al. (2007). Use of intensive case management to reduce time to relapse in people with schizophrenia: a randomised controlled trial. BMJ, 335(7611), 336.
  2. Mann, J. J., Apter, A., Bertolote, J., et al. (2005). Suicide prevention strategies: a systematic review. JAMA, 294(16), 2064–2074.
  3. Thornicroft, G., & Tansella, M. (2013). The balanced care model for global mental health. Psychological Medicine, 43(4), 849–863.
  4. 日本精神保健福祉士協会(2020)『精神保健福祉の多職種連携ガイドライン』
  5. 厚生労働省(2023)『精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて』

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