うつ病 創造的無力感(Creative Hopelessness)

以下は、うつ病を呈するクライアント向けに調整された「創造的無力感(Creative Hopelessness)」セッションのカスタム台本です。ACTの基本姿勢(体験への尊重・操作ではなく関係の変化)を保ちながら、うつ病特有の「無気力」「無価値感」「自己否定」に寄り添う構成としています。


🧩 セッション台本:「創造的無力感」うつ病バージョン

■ 想定クライアント

  • 名前:山本さん(仮名)、40代女性
  • 主訴:慢性的な抑うつ、自己否定、「がんばっても何も変わらない感覚」
  • 状況:すでに薬物療法と標準的なCBTを1年受けるも改善せず

🗣 台本(Therapist = T, Client = C)


【① 導入:これまでの努力を尊重する】

T:「山本さん、まずは、ここまで生きてこられたこと自体が、とても大きな努力の積み重ねだったと思います。特に、気力がわかないときにも何かをしようとしてこられた、その力を感じています。」

C:「…ありがとうございます。でも、もう何年も頑張っている気がして、なのに何も変わらなくて。」

T:「それだけ長く、何とかしようとがんばってこられたんですね。」


【② 自分なりの解決法をふり返る】

T:「これまで、ご自身なりに『よくなろう』『うまく生きよう』と思って、どんなことをされてきましたか?」

C:「…早起きしようとしたり、好きだったことを思い出そうとしたり、本も読みました。でも、結局何も感じられなくて……。」

T:「なるほど。気持ちが動かなくても、『やってみよう』という意思があった。それはとても大切なことですね。」


【③ 努力の効果とコストを尋ねる】

T:「そうした努力は、山本さんの気持ちや生活に、どんな影響を与えてきたと感じますか?」

C:「……一時的には“やってる感”があるけど、すぐに疲れて…『またダメだった』って思ってしまいます。」

T:「“またダメだった”と感じるたびに、どんな気持ちになりますか?」

C:「情けなくて、もう生きてる意味ないんじゃないかって思ってしまうこともあります。」


【④ 「戦いの地図」から降りる問いかけ】

T:「今、山本さんがされていることは、“どうにかうつを治す”という方向で頑張ることですよね。そのこと自体は自然なことです。ただ、もし“その頑張りそのものが、さらに自分を傷つけてしまうとしたら”…どう思いますか?」

C:「……怖いです。そんなこと、考えたことなかったです。」

T:「私たちは、“うまくやらなければ”と努力すればするほど、“できない自分”に傷ついてしまうことがあります。」


【⑤ 比喩の導入:底なし沼でもがく人】

T:「ひとつ、たとえ話をさせてください。」

C:「はい…」

T:「ある人が、底なし沼に落ちて、必死にもがいていました。『何とかしなきゃ』と思って、手を振り、足を動かし、抜け出そうとした。でも、もがくほど沈んでいきました。――あるとき、その人は動くのをやめて、ただ“浮かぶこと”に身を委ねてみたんです。すると、沼の底から抜け出すことはできなくても、“もがく苦しみ”は減っていきました。」

C:「……ちょっと、私のことみたいです。」


【⑥ 新たな姿勢を提案する】

T:「ここで私たちがしようとしているのは、『もがくのをやめましょう』という話ではありません。でも、“戦い方そのものを見直してみる”ということなんです。」

C:「……それって、“あきらめ”とは違うんですか?」

T:「はい、“あきらめ”とは違います。これは“向きを変える”ということなんです。――今まで、“苦しみをなくす”ために生きてこられました。でも、もし“苦しみながらでも大切なものに向かって生きる”という道があるとしたら、どう感じますか?」

C:「……それができたら、少しは楽になれるかもしれません。」


【⑦ まとめと合意形成】

T:「これから、うつを“敵”として戦い続けるのではなく、うつが“共にある存在”であっても、自分の価値にそって歩む道を探していきたいと思っています。――山本さん、それは試してみてもよさそうですか?」

C:「…怖いけど、やってみたいです。」

T:「ありがとうございます。では次回から、“感情と共に生きる練習”と、“大切な方向を見つけていく作業”を一緒に始めましょう。」


🪧 臨床上のポイントまとめ

項目内容
🎯 主な目的「問題解決」モードからの離脱と、「価値志向」へのシフト
🔍 重視する視点「努力の背景にある思いや痛み」への共感的理解
🧠 うつ的認知への対処“自分を責めないこと”の許可、“努力してきたこと”の再評価
🎭 活用される比喩・底なし沼の比喩・もがくほど沈む犬の比喩・石を背負った旅人の比喩(必要なら)


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