以下は、**強迫症(OCD)のクライエントのためにACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の枠組みに沿って構成したカスタム台本(セッションスクリプト)**です。
強迫観念や強迫行為を「取り除く」ことを目標にするのではなく、それらに巻き込まれずに価値ある人生を生きることを目指します。
🧠 強迫症向けACTカスタム台本(第1〜2セッション向け)
🧭 1. セッション導入:困っていることの明確化と「闘いのパターン」の把握
- 目的:強迫的な思考や行動が、どのように日常生活を占めているかを整理。
- キーワード:「不安と闘っている自分」「安心を取りに行く行動」「コントロール戦略」
🗣️ 台本例:
最近、「頭に浮かんでしまうイヤな考え」や、「何度も確認しないと気が済まない」と感じることはありますか?
それが起きたとき、どうしているでしょう?たとえば、無視しようとしたり、打ち消すような行動をしているかもしれませんね。
そうした“対処のパターン”が、短期的には安心できても、長期的にはあなたの人生を狭めていっている可能性があります。
🧩 2. 「闘いのメタファー」でコントロール戦略の限界を示す
- 目的:不快な思考・感情との「闘い」による消耗を可視化。
- メタファー:沼の中でワニと闘う/指で雲を消そうとする
🗣️ 台本例:
強迫的な思考は、「消そうとするとかえって強くなる」ことがありませんか?
たとえば、頭に浮かんだ「ナイフで家族を刺してしまうかもしれない」という考えを消そうとすればするほど、そのイメージがより鮮明になってしまう…。
それはまるで、雲を指でつかんで消そうとするようなものです。ACTでは、その「闘い」から降りることを提案します。
🧘♂️ 3. 思考との距離をとる(脱フュージョン)練習
- 目的:思考を「事実」ではなく「単なる思考」としてとらえる力を養う。
- ワーク:「私は〇〇と思っている」と唱える練習、「頭の中で流れるラジオ」メタファー
🗣️ 台本例:
「自分は汚れている」と思うとき、それは事実ではなく、あなたの脳が発している**“思考”**です。
一度、こう言い換えてみてください。
「私は、“自分は汚れている”という思考を持っている」と。
その言葉をゆっくり唱えると、少しだけ距離が取れるような感覚はありますか?
❤️ 4. 価値の明確化:なぜ安心したいのか? 何を守ろうとしているのか?
- 目的:強迫行為の背後にある「価値」を探る(例:安全、責任、他者への思いやり)。
- 方法:「安心できること」と「大切にしたいこと」を分けるワーク
🗣️ 台本例:
何度も手を洗ってしまうのは、「汚れが怖い」からだと思います。
でもその奥には、「大切な人に迷惑をかけたくない」「誰かを病気にしたくない」という優しさや責任感があるのではないでしょうか?
強迫的な行動そのものを否定するのではなく、その背後にある価値を大切にしていきましょう。
🚶 5. 小さな「価値に沿った行動」を試す
- 目的:強迫思考があっても、それに従わずに「価値に沿った行動」を選択する練習。
- 方法:曝露と反応妨害(ERP)をACT的に再解釈して行う(不安があるまま選ぶ)
🗣️ 台本例:
今日は、あえて「手を洗わないでみる」ことに挑戦してみませんか?
不安がゼロになるのを待つのではなく、不安を抱えながらも「今、自分が選びたい方向へ一歩進む」ための練習です。
たとえば、手を洗いたい衝動が来ても、3分だけ「そのままでいる」。
そのとき、どんな感情が来ても「それに気づきながら、行動を選ぶ」ことが大切です。
🌀 6. セルフコンパッション(優しい観察者としての自分)
- 目的:自分の不安や反応を責めず、受け入れる視点の育成。
- メタファー:「心の中の小さな子どもに語りかける」「波をサーフする」
🗣️ 台本例:
不安を感じてしまうのは、あなたが臆病だからではありません。
とても責任感が強く、周囲を大切に思う人だからこそ、そう感じやすいのです。
その反応を否定せずに、「よくがんばってるよ」と心の中の自分に声をかけてみましょう。
波が来ても、その波に気づきながらサーフィンを続けるように。
🔚 7. クロージング:今日の気づきと行動のリハーサル
- 目的:不快感に巻き込まれず、価値に基づいた行動を選ぶ経験の振り返り。
- 方法:「何が起きても、私は〇〇する」の形で行動の意図を再確認
🗣️ 台本例:
今日、どんな思考や感情があっても、それに飲まれずに、少しだけ自分の価値に近づく行動を選んでみることができましたね。
最後に、こうつぶやいてみてください。
「たとえ不安があっても、私は人と大切につながることを選ぶ」
これが、今日のあなたの価値の表現です。
以下は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)で用いられる「脱フュージョンカード(思考との距離をとる練習カード)」です。
これは、**強迫思考(OCDの強迫観念)**に巻き込まれそうになったときに、その思考を「ただの思考」として観察する練習を目的としています。
🧠 強迫思考との距離をとるための「脱フュージョン・カード」セット
📄 使用方法:
- 下記のカードを1枚選び、声に出して読んでみる。
- 強迫的な思考が浮かんだときに、その思考に巻き込まれない視点を取り戻すために使う。
- カードは印刷して、ポケットサイズやスマホのメモ帳に入れておくと便利。
🔹 カード1:「私は今、〇〇と思っている」
💬「私は、“〇〇しないと恐ろしいことが起きる”という思考を今、持っている」
📌 → これはただの“考え”であり、“現実”ではない。
🔹 カード2:頭の中のラジオ
💬「あ、また“心配ラジオ”が流れてるな。いつも同じ曲ばかり。」
📌 → それにチャンネルを合わせるか、流したまま別の行動をするかは自分で選べる。
🔹 カード3:おしゃべりなマインド
💬「マインドがまた“最悪の可能性リスト”をしゃべりはじめた。」
📌 → マインドは“安全装置”。ありがたく聞き流そう。
🔹 カード4:思考に名前をつける
💬「これは“汚染思考”だな」「“確認ループ思考”がまた出たぞ」
📌 → 名前をつけることで、思考から一歩離れて観察できる。
🔹 カード5:「でも、それはただのことば」
💬「“自分は危険な人間だ”……でも、それはただの“ことば”」
📌 → ことばは現実を完全に表しているわけではない。
🔹 カード6:ハトの声だと思ってみる
💬「“汚い”“汚い”……これは今、ハトが“クークー”鳴いてるのと同じ。」
📌 → 頭の声に過剰な意味を持たせず、音のように聞き流す。
🔹 カード7:「ありがとう、マインド」
💬「“危ないから触っちゃダメ!”って言ってくれてありがとう。でも今は大丈夫。」
📌 → 思考を敵にせず、感謝してスルーする。
🔹 カード8:葉っぱに乗せて流す
💬「“もう一度確認しないと!”という思考を葉っぱに乗せて川に流すイメージ」
📌 → 思考は浮かんでは去るもの。ただそれを見送るだけ。
🔹 カード9:歌にしてみる
💬「“死ぬかもしれない〜死ぬかもしれない〜”を童謡のメロディで歌ってみる」
📌 → 真剣に付き合うと重くなる。ユーモアで軽く眺める力を育てる。
🔹 カード10:「そのままにしておく練習」
💬「“気持ち悪い”という感覚に手を出さず、そのまま3分座ってみる」
📌 → 思考に巻き込まれず、“今ここ”に戻る練習。
以下は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の文脈で使える、「価値」×「強迫衝動」マッピング・ワークシートのテンプレートです。特に**強迫性障害(OCD)や強迫的傾向(回避、確認、潔癖など)**を持つクライアントに対して、価値にもとづいた行動(value-based action)と、強迫による回避行動との関係を見える化するためのものです。
🧩 ACTワークシート:
価値 × 強迫衝動 マッピング
🔎 このワークシートは、あなたにとって「大切なこと(価値)」と、「強迫的な思考・衝動・行動」との関係を見つめる手がかりになります。
「何を避けているのか」「なぜそこにこだわってしまうのか」をやさしく明らかにし、「価値にもとづいた生き方」に一歩近づくための地図を描いていきましょう。
✍️ Step 1:あなたにとって大切な価値は何ですか?
以下のような価値から、自分にとって大切だと感じるものを3つ書き出しましょう。
✅ 家族/友情/健康/誠実さ/学び/自由/愛情/思いやり/責任感/貢献 など
あなたにとって大切な価値 | どんなふうに大切か(エピソードや気持ち) |
---|---|
① | |
② | |
③ |
🔄 Step 2:強迫的な衝動・行動はありますか?
最近の自分の中で、「何度も気になってしまうこと」「やめたいのにやってしまう行動」「避けていること」について思い出してみましょう。
強迫的な思考・衝動・行動 | 具体例・いつどんな場面で? |
---|---|
① | |
② | |
③ |
🧭 Step 3:その強迫行動が、あなたの価値とどう関係していますか?
強迫行動は、あなたの価値を守ろうとしている動きかもしれません。でもそれは同時に、その価値から自分を遠ざけているかもしれません。それぞれの行動について、「価値とのつながり」と「代償」を書いてみましょう。
強迫行動 | 関係している価値 | 守ろうとしているもの | 奪われているもの(価値への距離) |
---|---|---|---|
① | |||
② |
📝 例:
- 強迫行動:手を何度も洗う
- 関係する価値:家族の健康を守りたい
- 守ろうとしているもの:病気から家族を守ること
- 奪われているもの:子どもと安心して触れ合う時間、疲弊、孤立感
🎯 Step 4:価値にもとづく行動をひとつ選んでみましょう
強迫を避けることではなく、価値に近づく行動をひとつだけ考えてみましょう。それは小さな一歩でも構いません。
価値 | 今日できそうな、価値にもとづいた行動 |
---|---|
🧘♀️ 補足アドバイス(セラピスト向け)
- 強迫行動の機能を批判せずに検討し、「価値の過剰な制御」や「過度の回避」としての側面を明らかにする。
- 「その行動は、どんな大切なものを守ろうとしているのか?」という問いを通して、“敵”ではなく“意味ある動き”として捉え直す。
- 同時に、「その行動によって、自分が本当にしたかったことからどれだけ離れているか?」を見つめてもらう。
以下は、**ERP(曝露反応妨害法:Exposure and Response Prevention)とACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)**を統合的に用いるための、臨床家向け統合ガイドシートです。強迫性障害(OCD)や不安症において、回避と闘争を手放しつつ価値に基づいた曝露行動を実行することを目的としています。
🧭 ERP × ACT 統合ガイドシート
― 強迫と価値の間で ―
✅ 目的
ERPの行動的効果(不安の消去・習慣の断絶)と、ACTの文脈的効果(回避の機能理解・価値への再接続)を相補的に活用し、**「感じながら生きる」**姿勢を支援する。
🧩 ステップ1:強迫的パターンの明確化(ACTの「機能分析」+ERPの「刺激階層表」)
項目 | 内容の例 |
---|---|
トリガー(引き金) | ドアノブを触る、人混みに入る、罪悪感を思い出す |
自動思考・衝動 | 「バイ菌がついた」「また失敗する」「誰かを傷つけるかも」 |
回避または儀式行動 | 手洗い、再確認、祈る、念を唱える |
短期的報酬 | 安心感、一時的な安堵 |
長期的コスト | 疲弊、人間関係の喪失、自己信頼の低下、価値の実現から遠ざかる |
→ ポイント: ACTではこの「儀式行動」を「回避」と見なし、**“何を避けているのか?”**を言語化する。
🎯 ステップ2:価値の明確化(ACT的ワーク)
項目 | 回答例 |
---|---|
あなたが心から大切にしたいことは? | 家族との触れ合い、他者への優しさ、成長、自由 |
強迫行動が奪っているものは? | 子どもと手をつなぐこと、趣味を楽しむこと、外出、安心感 |
→ ポイント: クライアントが「不安を避ける人生」ではなく「大切なもののために感じる人生」を選べるよう支援する。
🧪 ステップ3:ERP計画の文脈化(“恐怖に近づく理由”を明確に)
曝露課題 | 難易度 | 行動後の価値の確認 | ACT的リフレーミング |
---|---|---|---|
ドアノブを触って手を洗わない | 6/10 | 子どもに触れる自由 | 「私は不安を感じながらも、大切な人に近づいている」 |
不潔な電車のつり革を握る | 8/10 | 自由に外出する力 | 「不安とともに、私は動いている」 |
→ ポイント: ERPの「曝露」を、ACTでは「価値に向かう勇敢な行為」と再定義。
🧘 ステップ4:曝露中の“観察する自己”とマインドフルネス
- 思考との距離を取る練習(認知的脱フュージョン)
- 「これは“〜かもしれない”という思考だ。私はそれを信じなくてもいい」
- 「この不安は、ただの脳のノイズかもしれない」
- 身体感覚への注意の焦点化
- 呼吸・足の裏・手のひらなど、今ここへのアンカーを持つ
🪜 ステップ5:価値ベースの行動計画(小さな一歩の設計)
価値 | できる行動(小さくて具体的) |
---|---|
家族とのつながり | 娘と手をつないで3分間散歩する |
自由 | 電車に乗って2駅だけ出かけてみる |
自己成長 | セラピーで話した内容を1つ日記に書く |
→ ポイント: ERPの苦痛を「乗り越えるため」ではなく、「価値の方向へ進むため」と位置づけ直す。
📝 統合的なセラピストの態度
ACTの姿勢 | ERPの実践 |
---|---|
感情に「開く」 | 感情を避けず、曝露でそのまま体験する |
自己を「観察する」 | 強迫思考を「内的体験」としてラベリング |
「今ここ」で選ぶ | 未来の安心よりも、今の一歩に注目 |
価値に「向かう」 | 回避ではなく、意味ある行動に重心を |