総説
人間ドック34:6-26.2019
科学論文作成上のルール
荒瀬康司
日本人間ドック学会編集委員会委員長
虎の門病院健康管理センター・画像診断センター
要約
科学論文の基本的3要素は,内容・構成・表現である.投稿された論文において,これらの3要素が適切に記載されていると判断された際に,はじめて採用と判定される.3要素における第一の内容は,新規性,独創性があり,さらに医療関係者ならびに受診者に裨益することが肝要である.陳腐的な.人口に膾炙された内容のみでは科学誌には採用されにくい.第二の構成は,理解されやすいこと.利用されやすいこと.等を会頭に組み立てられている必要がある.第三の表現は,「読み手」を意識して書かれることを要する.専門用語,省略語を我流で使用しすぎないこと,文末を常体(だ・である)で統一することなど.「読み手」にとって分かりやすい.読みやすい表現であることが必要となる1).科学論文の要素である内容・構成・表現の作成においてはルールがある.そこで,本稿では科学論文作成上のルールにつき記した.ルールは,1~144までの通し番号で示した.1~31は内容・構成.32~144は表現について記した.論文記載上の留意点については,すでに人間ドック学会誌に掲載されたが,今回は約10倍の分量で.より詳細に記した13).なお,図表の書き方は論文作成上.重要ではあるが,紙数の関係で記述しなかった.
キーワード: 科学論文作成ルール
はじめに
論文作成の指南に関しては.すでに多くの成書が出版されている.これらの成書は,文章の書き方を専門にする先生方による著作である+17).私など足元にも及ばないような著述をされている.しかし,すべての本を読むには大変な時間が必要となる.そこで,私自身が日本人間ドック学会編集委員会で10年間編集業務に従事した際に経験した論文作成上の問題点を踏まえて.論文作成上のルールを記してみた.
ルール1:科学論文の基本的3要素(内容,構成,表現)を念頭に記載する
基本的3要素において.編集委員あるいは査読者から要求される事項を表1に示した.これら3要素のどこかに不具合があると.そのままの形では採用されない.
【表1 科学論文の基本的3要素】
・内容: 内容的に新規性,独創性がある. 受診者・医療関係者に裨益する.
・構成: 理解されやすい,利用されやすい組み立てである.
・表現: 読者が読みやすい表現法が使われている.
ルール2:科学論文の「内容」は,新規性,独創性を要する
投稿された論文は.読み手である医療関係者に役立つ内容を有していなければならない.受診者にも裨益となる内容であれば.さらに好ましい.しかし.陳腐的な.人口に膾炙された内容では一流な科学誌には採用されない.一流な科学誌に採用されるためには,その内容に新規性.独創性が必要となる.従来の報告に比し.どこが差別化された点なのかを強調して記載することが重要である.
ルール3:科学論文は,タイトル,要約,本文,表,図により構成される.さらに本文は,緒言(はじめに),方法(対象含む),結果(成績),考察(考案),結語(まとめ),利益相反,謝辞,文献といった項目により構成される
これらの要素の一つでも欠けていたら.原則科学論文としては採用されない.学術論文における本文の典型的な構成法としてIMRAD形式がある.IMRAD形式は,導入(Introduction),方法(Methods).結果(Results).および(And)考察(Discussion)から成る.派生的な形式も含めれば,学術論文の構成はIMRAD形式が主流となっている.この方式は,分野別では生物科学を始め,化学.および医学などの自然科学において比較的多く用いられている4).
ルール4:科学論文では「読み手」を意識して書く
科学論文の根本眼目は著者以外の多くのひとに読んでもらうことである.専門用語.省略語を我流で使用しすぎると読みにくくなる.「読み手」にとって分かりやすい.読みやすい表現であることが肝要である.したがって,「読み手」を意識して書くことが大切である.
ルール5:『タイトル』には新しく判明した事項を記す
著者は,タイトルには新しく判明したことを盛り込むよう留意すべきである.「脂肪肝での糖代謝能に関する研究」「C型肝炎からの糖尿病発症に関する解析」等.何を行なったかよりも.「C型肝炎ウイルスを排除すると糖尿病発症が抑制される」のように何が新しくみつかったかを盛り込む方が読者へのインパクトが高い.
ルール6:Introductionでは,「全体から部分へ」の原則を基本とする
すなわち.全体的なコンセプトから記述し,自分の研究分野に収斂していく.具体的には,①研究テーマの背景.②過去の研究.③過去の研究の問題点.④問題解決に自分が取り組んだ点を順に記す必要がある.例文を次に示す.
①研究テーマの背景
C型肝炎ウイルス(HCV)は,感染後慢性化すると慢性肝炎さらには肝硬変へと進展がみられうる.肝硬変に至った際には年率5~7%で肝がんが発生する.したがって,肝がんが出現する前に肝炎ウイルスを排除することが重要である.
②過去の研究
ウイルスを排除するために従来はインターフェロンを中心とした治療がなされてきた.しかし.インターフェロン単独投与ではHCV排除率は30%前後であった.インターフェロンに加え,リバビリンさらにはプロテアーゼ阻害剤等の併用にて.ウイルス排除率は約50%に増加した.
③過去の研究の問題点
インターフェロン治療の最大の問題点はその副作用である.インターフェロン投与は多種多様な副作用が出現しうる治療であり,しばしば治療を中止せざるをえない.さらに,副作用を懸念して.高齢者あるいは糖尿病・高血圧等の合併例では治療導入がしばしば躊躇されてきた.
④問題解決に自分が取り組んだ点
近年.インターフェロンを使用しない内服抗ウイルス剤による治療が可能となった.内服抗ウイルス剤の副作用は,インターフェロン関連治療に比し極めて軽微である.そこで,今回内服抗ウイルス剤による治療効果につき検討した.
ルール7:「方法」で記すべき項目を漏れなく記す
方法で記載する内容は表2の如くである.
【表2 方法で記載する内容】
- 研究デザイン
- 施設,期日,対象,症例数,対象の選択基準,除外基準を明示
- 測定した項目,必要に応じて測定方法を追加
- 統計学的評価法.統計的有意の基準
- 倫理
ルール8:臨床研究においては,研究デザインを明示しておくことが必要である
臨床研究の種類を図1に記す.臨床研究においてはまず介入を操作できるかどうかに注目する.研究者が介入をするのか.しないのか.により「介入研究」と「観察研究」に分かれる.介入研究の場合には,介入の割り付けがランダムかどうかにより「ランダム化比較試験」と「非ランダム化比較試験」に分類される.一方,観察研究は,比較対照があるか. ないかにより, 分析的研究と記述的研究に分かれる.
人間ドック原著では分析的研究が多いため,この分析的研究の内訳を図2に示した.分析的研究は.結果(アウトカム)と要因の測定タイミングによって「横断研究」と「縦断研究」に大別される.アウトカムと要因の測定のタイミングが同時であれば「横断研究」となり,同時でなければ「縦断研究」となる.縦断研究は,時間的経過を経た要因と結果の関係をみることになる.この際結果を先に選び.ついでその要因を検討するケースコントロール・スタディと,要因の有無で群を分け,その要因の違いにより結果が異なるか否かをみるコホート研究に分けられる.さらに.コホート研究には.前向きコホート研究と後ろ向きコホート研究の2種類がある3).
ルール9:「方法」では,症例数等の数値は具体的に示す
例文)
【修正前】対象として数万人の受診者を選んだ.
【問題点と対策】数値は具体的に示す.
【修正後】対象として55,500人の受診者を選んだ.
ルール10:測定法,測定機器に関しては,必要に応じて機種名,薬剤名,測定キット名,製造会社名,所在等を記す
例文)
画像観察装置STWS-005(キヤノンメディカルシステムズ.栃木)を使用した.
ルール11:統計に関しては,統計法,有意とする判定基準,統計ソフト等を記す
例文)
統計学的には脂肪肝群と非脂肪肝群との臨床背景は,マン・ホイットニー試験にて比較し,生存率はKaplan-Meier法およびCox proportional hazard modelにて検討し, p<0.05を統計学的有意差ありとして判定した.統計解析ソフトは,SPSS Statistic ver. 21 for Windows(日本アイ・ビー・エム.東京)を用いた.
ルール12:倫理の記載を要する.倫理については,ヘルシンキ宣言に遵守していること,研究施設での倫理委員会の承認が得られていること,あるいは個人情報保護法に則って行われたこと,などを記す必要がある
例文1) 本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院倫理委員会にて承認が得られている.
例文2) 個人情報保護を尊重し.サンプルデータを統計に用いる際には「個人情報について」として利用目的等を施設内に掲示し,データは受診者を特定する氏名等を消去して検討した.
ルール13:結果記述では留意点がある
以下の点に留意して記載する.
1) 序論でAuthorが提起した取り組みについて.結果の項で答えをだすことが重要である.
2) 結果の主役は本文である.図・表は明確化・簡潔化のために使用されるが.主役ではない.
3) 発見したことを書く.
4) 結果を述べるときは過去形を使うのが原則である.
ルール14:結果の記載順には決まりがある
以下の2点に注意する.
1) 重要度が異なるときは重要な順に記載する.
2) 重要度が同じであるときは方法で説明した順で記す.
ルール15:結果では曖昧な表現は避け.具体的に記載する
例文)
【修正前】肝検査値は極めて高値であった.
【問題点と対策】「極めて」という抽象的表現は避ける.
【修正後】肝検査値では. ASTは3,000IU/L, ALTは5,000IU/Lであった.
ルール16:結果には,感想・コメント等を記載しない.結果では事実のみを記載する
結果に対するコメント・感想等を結果の項に記載すべきではなく.考察で書くようにする.次のような例文を結果で記したら修正を要する.
例文)
【修正前】患者のビリルビン値は10mg/dLと極めて高いと感じた.
【問題点と対策】結果には感想をいれない.
【修正後】患者のビリルビン値は10mg/dLであった.
ルール17:結果では本文と図・表との関係には留意点がある
図・表に記載したデータを本文中ですべて繰り返すべきではない.本文中には図・表の中の重要な結果を要約もしくは強調して記す.
ルール18:考察では「部分から全体へ」の原則を基本として記す
今回発表した研究のまとめという狭い範囲から書き始め.今回発表したこと以外の世界の研究という広い範囲に亘って記載する.
ルール19:考察の内容は4項目からなる.
その4項目を表3に示した.考察の例文を以下に示す.
【表3 考察の記載項目】
- 結果のまとめ: 言葉として主な発見あるいは明らかになった事項をまとめる.
- 結果に対する考察: 結果についての解釈と確信度を記す.
- 過去の研究との比較: 今回の研究の新規性を記述する.
- 研究の限界: 今回の研究の問題点.短所等を記す.
【結果のまとめ】
本研究ではC型慢性肝疾患に対するインターフェロンフリーの内服剤12週投与での治療効果および安全性について検討した.その結果.次の2点が明らかになった.1)ウイルス排除率は95%であった.2)治療に伴う発熱.食思不振.倦怠感等の副作用が軽微であった.
【結果に対する考察】
C型慢性肝疾患に対する内服剤は.インターフェロン単独治療に比して,治療効果および副作用の面ではすぐれた治療法と考えられた.したがって,内服抗ウイルス剤は,今後有望な治療法と思われた.
【過去の研究との比較】
インターフェロン単独投与では副作用により中止例が10%前後であり.治療完遂例でのウイルス排除率は約30%であった.一方.インターフェロンフリーの内服剤では副作用により中止例は5%以下であり,治療完遂例でのウイルス排除率は95%を超えた.
【研究の限界】
本研究には次のような限界がある.1)レトロスペクティブな(後ろ向き)研究である.2)対象が日本人のみてある.3)年齢が30~80歳までの症例である.
考察には以上の4項目を記すことが基本となる.
ルール20:考察では【結果】で述べた記述をそのままくりかえして記述しない.
考察に結果で記載した内容をそのまま繰り返すと.論文の質が下がってしまうので注意すべきである.
ルール21:結論を述べた後は反対意見を書かない
結論は論文の終結部分に記される.中立意見でバランスを取ろうとする場合はもっと前に記すべきである.
例文)
【修正前】結論を述べれば,運動は健康状態を維持するため推進すべきだ. とはいえ,推進しないという考え方もある.
【問題点と対策】結論を述べた後は反対意見に目配りしない.
【修正後】結論を述べれば.運動は.健康状態を維持するため推進すべきだ.
ルール22:結論の後は問いかけや反語を用いない
小説.エッセイ等では,問いかけ,反語を使用し,余韻を残そうとするが,科学論文ではその必要はない18).
例文)
【修正前】健康状態を維持するため健診を推進すべきだ.ところで,米国での実状はどうであろうか?健康状態を維持するため健診を推進すべきだろうか.
【問題点と対策】科学論文では.問いかけ.反語を使用しない.
【修正後】健康状態を維持するため健診を推進すべきだ.
ルール23:序論,考察,方法では適切に参考文献を引用する
まず序論では.研究の背景についての知識を記載するため,その研究分野の最近の研究・総説等を引用する.次いで,考察では今回の研究と先行研究との比較等をするため,関連研究を引用する.最後に,方法でも材料.手技等の出所を明確化し,その説明を省略するために引用する.
ルール24:参考文献の選び方にも注意を払う.
同じような時期に複数の研究論文があった場合には,すべてを公平に引用する.次いで,引用可能な論文に関して敷衍すれば,専門誌に掲載された論文(印刷中の場合を含む).発行された書籍.公開された特許は引用できる.一方.引用不可な論文について述べれば.未発表データ.投稿準備中・投稿中のデータは参考文献としては引用できない.ただし原稿中にそのデータを示すことはできる.
ルール25:要約は,【結論】,【それ以外の要素】の3つより成り立つ
科学論文は新しい主張をもっており,これを結論とする.要約者の私見はいれない,簡潔を旨とする.抽象的表現を使用しない.ことが要求される.
ルール26:科学論文では,時間の流れに従って記載する原則がある
小説では,作家泉鏡花が記した『高野聖』にみられるように.現在から書き始め.過去を振り返るパターン(入れ子型構造)がしばしばみられる.しかし科学論文では時間の流れに従って書くほうが.読者は読みやすい.
(例: 2019年4月10日ごろより前胸部絞扼感がみられていた.同年4月17日心筋梗塞を発症して入院した.同年4月18日多発性の心室性不整脈がみられた.)
ルール27:「1パラグラフ1トピック」の原則で記す
「パラグラフ(paragraph.段落)」とは,ある一つのトピックについて述べている複数の文の集まりを指す(一つの文で構成されることもある).「1パラグラフ1トピック」のルールに従って記載されると,読みやすく,情報がよく整理され,読者に理解され易くなる.
ルール28:パラグラフと文の文字数にはめどがある
日本文では、パラグラフの文字数は250字以内をめどとする.通常150~200字程度である.また.一文の長さは50~60字以内とすることを心がける.60字を超えると主語と述語の関係が曖昧になりやすくなる.パラグラフは表4に記したように,3種類のセンテンスからなる.
【表4 センテンスの種類】
・トピック・センテンス: Strongな事項
・サブ・センテンス: トピック・センテンスの具体的説明
・コンクルーディング・センテンス: トピック・センテンスを表現を変えてより強く表現
ルール29:パラグラフでの重点記述の法則を理解する
パラグラフ・ライティングで.段落の最初に一番伝えたい情報をトピック・センテンスという形で提示する.次にトピック・センテンスを補足し,具体例を説明するサブ・センテンスを同じ段落の中に書く.
例文) C型肝炎ウイルスは,慢性化すると慢性肝炎さらには肝硬変へと進展し.しばしば肝発がんをきたす.肝硬変に至った際には年率5~7%で肝発がんがみられる.炎症性疾患をベースとしてこれほど高い発がん率を有する疾患は他にない.
上の例文では.序文の「C型肝炎ウイルスは,慢性化すると慢性肝炎さらには肝硬変へと進展し.しばしば肝発がんをきたす」が.筆者が一番伝えたいトピック・センテンスである.その後ろに続くセンテンスは.トピック・センテンスを補足説明するためのサブ・センテンスになる.
ルール30:パラグラフの最後にコンクルーディング・センテンスがときに置かれる
これはトピック・センテンスの内容を異なった表現で強調する.これにより,パラグラフを印象的に締めくくれる.
例文) C型肝炎ウイルスは,慢性化すると慢性肝炎さらには肝硬変へと進展し,しばしば肝発がんをきたす.肝硬変に至った際には年率5~7%で肝発がんがみられる.炎症性疾患をベースとしてこれほど高い発がん率を有する疾患は他にはない.C型肝炎ウイルスは肝発がんをきたしやすいと考えるべきである.
上の例文では最後の「C型肝炎ウイルスは肝発がんをきたしやすいと考えるべきである」は.トピック・センテンスの表現を変えたコンクルーディング・センテンスである.コンクルーディング・センテンスは使いすぎると文章がくどくなる欠点を有する.
ルール31:ホワイトスペースの3原則を考慮する
ホワイトスペースは余白のことを意味する.これが適切になされていると読みやすい.ホワイトスペースは次の3原則により作成する.
1) 行間は適切にあける:行間をあけないと読みにくい.同じ行の文字間は広くあけない.
2) 周囲のスペースはゆったりとる.
3) 段落終了後の改行ではスペースをとる.
ルール32:科学論文では常体(だ・である)を基本とする
日本語の文体には敬体(です・ます)と常体がある.手紙では敬体を用い.科学論文では常体を基本とする.常体の方が変化に富む表現ができ.引き締まった感じを与える.簡潔に表現したい時.ビジネス要素の強い文章には,常体を使用する.敬体は丁寧な表現をしたいときに使用する.科学論文に敬体を使うと引き締まりのない.間の抜けた感じがする.
例文)
【修正前】人間ドック健診は,身体測定から始まります.身長・体重・血圧をはかりまして,採血を行います.
【問題点と対策】科学論文では常体を基本とする.
【修正後】人間ドック健診は,身体測定から始まる.身長・体重・血圧をはかり,採血を行う.
ルール33:本文中には体言止めを使わない.
小説等では,文章のリズムを変えたいとき.余韻を残したい場合に体言止めがしばしば使用される18,19).しかし.科学論文では.体言止めは本文中には使用しない.
例文)
【修正前】医療における接遇.これについて検討した.
【問題点と対策】体言止めを避ける.
【修正後】医療における接遇が問題である.今回これについて検討した.
ルール34:一文一思想の法則を原則とする
一つの文章および節は一つの思想を表現する.多くの内容.異なる思想を混在すべきではない.一文一意を心がける.一つの文の中に,主語+述語の関係が重なっている.「入れ子分」型の文は好ましくない.
例文)
【修正前】主治医は,その老人が39度の発熱,咳,痰を呈し,白血球も1万/μLを超えていたので呼吸器感染症と考え,治療として抗生剤の投与を行った.
【問題点と対策】一つの文章に主語+述語の関係を重ねないよう二文に分ける.
【修正後】老人は39度の発熱,咳,痰を呈し,白血球も1万/μLを超えていた.主治医は呼吸器感染症と考え.治療として抗生剤の投与を行った.
ルール35:論旨一貫性を旨とする
例文)
【修正前】ヒューマンエラーを完全になくすことは難しい.それゆえ.未然に防ぐ手段を講じることが必要である.
【問題点と対策】一文目と二文目は原因.結果の関係にはなく.順節の接続詞では結べない.
【修正後】ヒューマンエラーを完全になくすことは難しい.しかしなるべく.未然に防ぐ手段を講じることが必要である.
ルール36:パラグラフでの論旨一貫性に注意する
例文)
①B型肝炎ウイルスは,慢性化すると慢性肝炎さらには肝硬変へと進展し,しばしば肝発がんをきたす.
②肝硬変に至った際には年率2.5~3%で肝発がんがみられる.
③C型肝炎ウイルスでは肝硬変に至った際には年率5~7%で肝発がんがみられる.
④したがって,B型肝炎ウイルスによる肝硬変症では肝がんが出現する前にしばしば治療が必要である.
①②④はB型肝炎ウイルスに関する内容であり,③はC型肝炎ウイルスに関する内容である.③の文が話の流れを遮っている.③を省いて.①②④の順で記載すると論旨一貫性が保てる.
ルール37:文の簡潔表現をめざす(簡略化の法則)
同じことを言うなら,一文字でも短く記載するようにする.書いてもらうものを読んでもらう.その対象は多忙な人々であることを念頭におく.
例文)
【修正前】健診では,受診者の検査待ち時間を考えていかなくてはいけないにちがいない.
【問題点と対策】削れるセンテンス・言葉は徹底的に削る.
【修正後】健診では,受診者の検査待ち時間を考えていかねばならない.
ルール38:文章は意識して短く切るようにする
一つの文章に多くの内容を盛り込むと.ごちゃごちゃした不安定な文章になってしまう.次から次へとつなげて書くと,読み手にとっては,分かりにくい.文章は意識して短く切るようにする.
例文)
【修正前】糖尿病が肝発がんを促進する機序は3つあり,1つ目は~であり,2つ目は~であり.3つ目は~である.
【問題点と対策】センテンスを短くすると読みやすい.
【修正後】糖尿病が肝発がんを促進する機序は3つある.1つ目は~である. 2つ目は~である. 最後は~である.
ルール39:述語の共用による簡略化に努める
例文)
【修正前】人をスカウトするには,時間はかかるしお金もかかる.
【問題点と対策】主語「時間」と「お金」の述語を共用して簡略化できる.
【修正後】人をスカウトするには,時間とお金がかかる.
ルール40:述語の誤共用に注意する
例文)
【修正前】再診については,待合室の掲示か.受付スタッフにお尋ねください.
【問題点と対策】述語「お尋ねください」は二つの目的語「待合室の掲示」「受付スタッフ」のうち,後者にあうが,前者には合わない.
【修正後】再診については,待合室の掲示をご覧になるか.受付スタッフにお尋ねください.
ルール41:単文・重文・複文を使いこなす
・単文: 主語と述語が1つずつからなる. (例文: A医師は内視鏡検査を担当した.)
・重文: 主語と述語をそなえた部分が2つ以上ある. (例文: A医師は内視鏡検査を担当し, B医師は腹部超音波検査を統括した.)
・複文: 理由等を表す部分(従属節)に主語と述語をそなえている. (例文: A医師は急病となったため、 B医師が内視鏡検査を担当した.)
ルール42:二単文より一つの複文への簡潔化を図る
2つの単文を.理由を表す従属節を用いた複文にすると一文ですむ.
例文)
【修正前】A氏は黄疸がみられた.彼は,自宅の近くにある病院に行った.
【問題点と対策】二単文より一つの複文を作り簡略化する.
【修正後】A氏は黄疸がみられので,自宅の近くにある病院に行った.
ルール43:科学論文では述語中心の短文は好ましくない
坂口安吾の記した小説『桜の森の満開の下』では,主人公の山賊が自分の女房を誤って殺してしまったのかと.すっかり取り乱した場面で次のセンテンスが続いている.「彼は女をゆさぶりました.呼びました.抱きました.徒労でした.」このように小説では述語中心の短文を続け,登場人物の慌てふためいた状況を効果的に表している19).しかし.科学論文では,述語中心の短文は好ましくない.
ルール44:用語一貫性の法則
論文中で繰り返し使用される用語は,言い換えないで同じ用語を使用する.科学論文では,こうした一貫性の法則に従った方が,理解されやすく.誤解を招きにくい.また同じ言葉を使用すると,読者に強い印象を与えられる.
一方.文学の世界では,一つの事柄を表現しようとする際には,単調さを避けるために,意図的に表現を変える.作家永井龍男は,「原稿2~3枚のうちに,同じことばを2度使っちゃいかんぞとね.短編に同じことばが出てくるのは興ざめだ」と言って.同じ内容でも表現法を変えるように推奨している19).しかし,このレトリック(技法)は科学論文には好ましくない.
ルール45:論文では記載した内容がダブらないようにする(情報重複を忌避する法則)
よくみられるのは,本文中の「方法」で測定法を記してあるのに,「結果」の項で同じように測定法を記した後,結果を記載するダブリである.科学論文では.「情報重複を忌避する法則」があり.このようなダブリは好ましくない.
ルール46:因果関係をわかり易くする
科学論文では,原因.結果の順で記す.因果関係がわかり易くなるからである.
例文)
【修正前】ロッカーに関して受診者よりしばしばクレームがある.ロッカーの幅が30cmと狭いのである.
【問題点と対策】因果関係を可能な限り分かりやすくする.
【修正後】ロッカーの幅が30cmと狭いので,受診者よりしばしばクレームがある.
ルール47:科学論文のセンテンスは主語と述語がともにあるのを基本とする
主語+述語の関係が正確に出来上がっていないと.意味が不明瞭となりかねない.
例文)
【修正前】脂肪肝と糖尿病の相関関係につき検討した.
【問題点と対策】主語がない.主語+述語の関係を構築する.
【修正後】我々は.脂肪肝と糖尿病の相関関係につき検討した.
ルール48:主語と述語の組み合わせは適切にする
主語と述語が正しく対応していない文をねじれ文という.主語を受け止める述語が馴染んでいないと誤解を受けやすい.
例文)
【修正前】金曜日のカンファレンスは,1週間のクレーム事例が検討できる貴重な日である.
【問題点と対策】主語(カンファレンスは)と述語(日である)の連携が不自然である.対策は,述語(日である)に適した主語(金曜日)を対応させ,主語と述語を近づける.別の対策は文を分割する.
【修正後】
1) カンファレンスで1週間のクレーム事例が検討できるので,金曜日は貴重な日である.
2) 金曜日のカンファレンスでは,1週間のクレーム事例が検討できる.したがって.金曜日は貴重な日である.
ルール49:主語を明確化する.主語がないと内容が不正確となる
例文)
【修正前】忙しい現代.時間を短縮した健診を希望する.
【問題点と対策】述語”希望している”の主語は.「受診者」,「企業」.「医療スタッフ」等の可能性がある.主語を明確にすることが必要である.
【修正後】忙しい現代.受診者は時間を短縮した健診を希望する.
ルール50:主語をむやみに変えない
例文)
【修正前】私は病院に勤めていて,病院は最新のMRI装置を有している.
【問題点と対策】主語は前半が「私」.後半が「病院」と考えられる.主語を「私」に統一する.
【修正後】私は最新のMRI装置を有している病院に勤めている.
ルール51:主語は原則一つである
例文)
【修正前】私は将来健診センターで働きたいという夢がある.
【問題点と対策】主語には「は」「が」の助詞がつく.この文では「私は」「夢が」の二つが主語になりうる.どちらかが主語であることを明らかにするために,変更した方がよい.
【修正後】
①「私は」を主語とするとき: 私は,将来健診センターで働きたいという夢を持っている.
②「夢が」を主語とするとき: 私には将来健診センターで働きたいという夢がある.
ルール52:無生物主語構文は日本文には馴染まない
無生物主語構文とは,人や生き物以外の無生物を主語として.あたかも意志があるかのように表現する構文を指す.「(原因・条件など)が(人)に~させる」という意味になる.無生物主語は.英語・ドイツ語等に特有の表現であり,日本語の場合には主語は生物とするのを第一に考える.無生物主語構文は止む負えない場合に使用する.
【修正前】病気はどんな人にも起こりうる.
【問題点と対策】「病気は」を主語とすると無生物主語となり.和文には馴染まない場合もある.
【修正後】人は病気に罹(かか)りうる.
ルール53:目的語と述語の関係は適切に行う
例文)
【修正前】当院の医療従事者は,接遇教室を習い始めた.
【問題点と対策】接遇教室という目的語が,述語「習い始めた」と合わない.「接遇を習い始めた」あるいは「接遇教室に通い始めた」とする.
【修正後】
①当院の医療従事者は.接遇を習い始めた.
②当院の医療従事者は,接遇教室に通い始めた.
ルール54:目的語は詳細かつ正確に記す
例文1)
【修正前】受診者は胃の検査を施行された.
【問題点と対策】上部消化管造影検査.上部消化管内視鏡検査.血液検査(ピロリ菌検査)等の可能性がある.要諦は具体的に記すことである.
【修正後】受診者は上部消化管内視鏡検査を施行された.
例文2)
【修正前】抗ウイルス剤がなかった時と今で.C型慢性肝炎患者の肝がん発生率は激減した.
【問題点と対策】「時と今で」を,「時と今を比べると」というふうに目的語+述語の形にすると.意味が伝わり易い.
【修正後】抗ウイルス剤がなかった時と今を比べると,C型慢性肝炎患者の肝がん発生率は激減した.
ルール55:主語と述語は近づける
主語と述語が離れていると意味が曖昧になりやすい.
例文)
【修正前】症例Aは,激しい腹痛を伴っていたため,ブスコパンを投与された.
【問題点と対策】原則として主語と述語は近づける.
【修正後】激しい腹痛を伴っていたため,症例Aはブスコパンを投与された.
ルール56:断定形は説得力が強い
事実として明らかなことに,推量表現「~らしい」等は使用しない.推定表現は,論文の質を落とす.しかし,断定表現では根拠・確証が必要である.事実として明らかであれば,調査名・発表者名を明らかにして断定「~である」で記す.
例文)
【修正前】2005年.日本の人口が初めて自然減少したと推測される.
【問題点と対策】推測表現を断定表現に変える.
【修正後】厚生労働省人口動態調査では,2005年.日本の人口が戦後初めて21,266人自然減少した.
ルール57:主観的表現よりは客観的表現を優先する
「うれしい」「悲しい」等の主観的表現は稚拙なイメージを与えるので,その使用は抑えた方がよい.
例文)
【修正前】我々の健診センターが人間ドック機能評価に合格できたのは,とてもうれしい.
【問題点と対策】「うれしい」は主観的表現である.客観的表現「喜ばしい」を用いた方がよい.
【修正後】我々の健診センターが人間ドック機能評価に合格できたのは,とても喜ばしい.
ルール58:能動態は簡潔で力強い
できる限り能動態で書く癖を持つことがよい.ただし,要約と実験方法は受動態で書く習慣がある.
例文)
【修正前】主治医により.症例Aは腹部超音波検査を施行された.
【問題点と対策】簡潔で力強い能動態を使用する.
【修正後】主治医は,症例Aに腹部超音波検査を施行した.
ルール59:抽象的ではなく具体的に伝える
程度を具体的に示すには,数値等をそのまま示すのがよい.
【修正前】ALTが異常高値を示していた.
【問題点と対策】数値は具体的に伝える.
【修正後】ALTが3,000IU/Lを示していた.
ルール60:こそあど言葉(「あれ」「これ」「それ」「その」など)で長い名詞や文を受ければくどさが解消する
例文)
【修正前】人間ドックの一泊二日コースでは多くの検査が行われる.たとえば,人間ドックの一泊二日コースでは.ブドウ糖負荷試験が行われる.
【問題点と対策】人間ドックの一泊二日コースを2回目から「これ」で受ければ.くどさは解消される.
【修正後】人間ドックの一泊二日コースでは多くの検査が行われる.たとえば,これではブドウ糖負荷試験が行われる.
ルール61:こそあど言葉(「あれ」「これ」「それ」「その」など)は多用しない
例文)
【修正前】運動療法.これはよく知られた言葉だが,それを実践するのは難しい.それは実施者が大変な努力を要するからだ.
【問題点と対策】こそあど言葉はくどさを解消するために使用される.しかし,使いすぎると.意図とは逆に文がくどくなったり,文意がわかりにくくなる.
【修正後】運動療法.よく知られた言葉だが,実践するのは難しい.実施者が大変な努力を要するからだ.
ルール62:動詞を修飾する副詞はその動詞に近づける
例文1)
【修正前】とにかくこの研究は難しいかもしれないが.開始した.
【問題点と対策】副詞の「とにかく」は動詞「開始した」の修飾語となるのでその直前に置く.修飾語はかかる言葉の直前に置く.
【修正後】この研究は難しいかもしれないが.とにかく開始した.
例文2)
【修正前】ゆっくり心拍数が120を超えないように走る.
【問題点と対策】副詞の「ゆっくり」は動詞「走る」の修飾語となるのでその直前に置く.
【修正後】心拍数が120を超えないようにゆっくり走る.
ルール63:科学論文では副詞は多用しない.
副詞は減らすようにする.「かなり」「随分」「じきに」「多分」「要するに」「確かに」「さらに」などの副詞は強調表現である. 強調表現の多い文は格調が乏しくなる.副詞はここぞという時のみ使用する.
ルール64:接続詞使用の際の注意.接続詞は減らすようにする
要所に接続詞があることで.読み手は話の筋が理解しやすくなる.しかし,接続詞が多すぎると文章が稚拙になりかねない.「そして」「そこで」「しかし」「ところが」など特に,改行の冒頭の接続詞はなるべく使用しない.三島由紀夫は『文章読本』で接続詞の多用は,文章の格調を失わせるとコメントしている20).
例文)
【修正前】測定機器Aは.操作性が簡便である.さらに測定時間も短い.そして再現性も良好である.ところが.高額であることが問題である.
【問題点と対策】接続詞が多すぎるので,減らす.
【修正後】測定機器Aは,操作性が簡便で,測定時間も短く,再現性も良好だが,高額である.
ルール65:話し言葉的接続詞はなるべく使用しない
「あと」「で」のような話し言葉的接続詞は稚拙である.書き言葉的接続詞に変える.
例文)
【修正前】今回の脂肪肝を誘因する因子として肥満が関与した.あと,飲酒も関与した.
【問題点と対策】話し言葉的接続詞は使用しない.「さらに」を使う.
【修正後】今回の脂肪肝を誘因する因子として肥満が関与した.さらに,飲酒も関与した.
表7に話し言葉的接続詞の種類を記した.著者は,これらを書き言葉的接続詞に帰るべきである.
【表7 話し言葉的接続詞の種類】
・用途: 原因・結果を明らかにしたいとき -> 話し言葉的「なので」/ 書き言葉的「だから. したがって」
・用途: 逆説を示すとき -> 話し言葉的「でも. だって, というか」/ 書き言葉的「しかし. ところが」
・用途: 内容を続けるとき -> 話し言葉的「あと. で」/ 書き言葉的「そして、 それから、 さらに、 しかも、 したがって」
ルール66:専門用語は初出時に説明する
専門外の読者にも理解されやすいように留意する.
【修正前】NAFLD.
【問題点と対策】いきなり略字で記載しない.
【修正後】非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease : NAFLD)
ルール67:単位の表記はそろえる
例文)
【修正前】院内の温度は,玄関25度.診察室26℃となっている.
【問題点と対策】℃か度を統一して使用する.
【修正後】院内の温度は,玄関25℃.診察室26℃となっている.
ルール68:科学論文になじまない話し言葉は使用しない
表8に科学論文になじまない話し言葉の代表例を記した.表8のように修正して使用することが必要である.
【表8 科学論文になじまない話し言葉】
・この研究にはまっていく. → この研究は魅力的である.
・2つの研究結果は真逆であった. → 2つの研究結果は正反対であった.
・わりとやさしい → わりにやさしい
・なるたけ今週中に終わらせる. → なるべく今週中に終わらせる.
・腹痛は自然と治った. → 腹痛は自然に治った.
・このやり方は好きじゃない → このやり方は好きでない
・ちょっと不足している → 多少(少し)不足している.
ルール69:動詞的表現は力強い
名詞表現は弱い感じを与える.動詞的表現は力強く.読みやすく.わかりやすい.形容詞は名詞に.副詞は動詞につく.したがって,形容詞を副詞に換えれば動詞的表現となる.野内良三氏は『日本語作文術』中央公論新社で動詞的表現を記すための方法を述べている21).それは,次の3点である.
①名詞を動詞に換える.②形容詞を副詞に換える.③無生物主語を,原因・理由・条件等で従属節とする.
ルール70:動詞,副詞を使用すると,柔らかく,勢いのある文章となる
「形容詞」+「名詞」の形より.「副詞」+「動詞」を使用した方が生き生きとした文章となる.動詞が文章の柱であるから,形容詞よりも副詞を使う練習をした方が実り多い.
例文)
【修正前】健診部門の著しい進歩がみられた.
【問題点と対策】(形容詞+名詞)を(副詞+動詞)の形に変える.
【修正後】健診部門は著しく進歩した.
ルール71:無生物主語構文は従属節に換えて柔らかくする
例文)
【修正前】連日の40度を超える猛暑が,熱中症の爆発的増加をもたらした.
【問題点と対策】無生物主語「猛暑」を,理由を表す従属節に換える.
【修正後】40度を超える猛暑が続いたため.熱中症が爆発的に増加した.
ルール72:マル(句点)の意義
文が終わったら必ずマル(句点)をつける.脱字以上に重要である.
例文)
【修正前】健診受診者は年々増加している
【問題点と対策】終止符のマル(句点)がない.
【修正後】健診受診者は年々増加している.
日本文において文を区切る際には,一般的にマル(句点).テン(読点)がよく使われる.横書き文章では.「ピリオド」「コンマ」を使用することもある.日本人間ドック学会誌では「ピリオド」「コンマ」を使用している.
ルール73:テン(読点)は,意味の固まりを視覚的に表す
読みやすく.理解しやすくする.文部省の句読法でのテン(読点)は13か条あるが,特に大事なのは2つであり.これを「テン(読点)の2大原則」としている.以下に示す.
第1原則: 長い修飾語が2つ以上あるときには.その境界にテン(読点)を打つ(重文の境界もこの原則による).
第2原則: 原則的語順が逆順の場合にテン(読点)を打つ.短い題目語「○○は」は述語に近づけるのを原則とする.しかしながら.「○○は」を冒頭に置いて逆順としたとき場合には,「○○は」の後ろにテン(読点)を打つ.
第1原則の例)
【修正前】養生訓は,福岡藩の儒学者であった貝原益軒が84歳のときに記した江戸時代の貴重な本だ.
【問題点と対策】長い修飾語の後にテン(読点)を打つ.
【修正後】養生訓は,福岡藩の儒学者であった貝原益軒が,84歳のときに記した. 江戸時代の貴重な本だ.
第2原則の例)
【修正前】私の不得意な統計処理を私の後輩に上司はやらせた.
【問題点と対策】この文は,主語と述語を近づけるという原則により記されている.上司を強調して冒頭にだして逆順にした際には,「上司は」の後ろにテン(読点)を打つ.
【修正後】上司は,私の不得意な統計処理を私の後輩にやらせた.
ルール74:テン(読点)は,主語が長い時にはその後ろに打つ
これで主語・述語の関係がはっきりする.
例文)
【修正前】1月前から流行していたインフルエンザはようやく沈静化してきた.
【問題点と対策】主語が長い時にはその後ろに打つ.
【修正後】1月前から流行していたインフルエンザは.ようやく沈静化してきた.
ルール75:テン(読点)は,関係の深い語句同士をまとめ,関係の浅い語句を切り離す
これにより主語・述語の関係をはっきりさせたりする.
例文)
【修正前】発言するが,行動の伴わない人は尊敬されない.
【問題点と対策】「発言する人」と「行動の伴わない人」をまとめる.
【修正後】発言するが行動の伴わない人は.尊敬されない.
ルール76:テン(読点)は,引用を示す「と」の前におく
例文)
【修正前】このような症例は極めて稀だと医師は言った.
【問題点と対策】引用を示す「と」の前には,テン(読点)をおく.
【修正後】このような症例は極めて稀だ. と医師は言った.
ルール77:原因・理由・条件・前提などを表す節の後ろにはテン(読点)を打つ
例文1)
【修正前】消化管出血をきたしたのでHb(ヘモグロビン)は低下した.
【問題点と対策】原因を表す節の後ろにはテン(読点)を打つ.
【修正後】消化管出血をきたしたので,Hbは低下した.
例文2)
【修正前】健診業務にまわされて受診者対応に苦労している.
【問題点と対策】前提を表す節の後ろにはテン(読点)を打つ.
【修正後】健診業務にまわされて,受診者対応に苦労している.
ルール78:時を表す単語の後ろにテン(読点)を打つ
例文1)
【修正前】2015年3月20日新薬が認可された.
【問題点と対策】時を表す単語の後ろにテン(読点)を打つ.
【修正後】2015年3月20日.新薬が認可された.
例文2)
【修正前】昨日A氏は入院となった.
【問題点と対策】昨日の後ろにテン(読点)を打つ.
【修正後】昨日.A氏は入院となった.
ルール79:ひらがなばかり,漢字ばかりが続くときは,言葉の切れ目を見つめるのにストレスとなるためテン(読点)を打つ
例文)
【修正前】このようなことをすることはよくないはずだ.
【問題点と対策】ひらがなばかりが続くと理解に手間取る.
【修正後】このようなことをすることは,よくないはずだ.
ルール80:「が」は逆説でなければ多用しない
順接の「が」は文章の流れを阻害し,論旨を追いにくくするためできるだけ使わない.「が」を順接で使用すると.その後「が」を逆説として使用できない.順接の「が」は,文章を切ってしまうのがよい.
例文)
【修正前】今日は雨でしたが.明日も雨でしょう.
【問題点と対策】順接の「が」は,論旨を追いにくくするためできるだけ使わない.
【修正後】今日は雨でした.明日も雨でしょう.
ルール81:「が」は逆説の際には多用される
「が」は逆接の文中で,1回使用するのが原則である.
例文) 本研究をスタートさせたが.人材難で行き詰った.
ルール82:「かも」「とか」「だろう」は多用しない
使用により文が曖味になる.科学論文では,これらの語はあいまいさを象徴する.データできちんと裏付けて,推量表現を消すことが肝要である.
例文)
【修正前】HCV抗体陽性例は1~2%を占めているだろう.
【問題点と対策】「だろう」のような曖昧な言葉は多用しない.
【修正後】2010年の当院健診受診者でのHCV陽性例は1.0%である.
ルール83:「こと」「もの」は多用しない
使用により文が曖昧になる.「こと」「もの」は広い範囲のことを表せて便利だが.しばしばあいまいさに繋がる.「こと」「もの」は多用しないで他の適切な言葉を探す.
例文)
【修正前】インターフェロンは,C型肝炎ウイルスを体内から排除するものである.
【問題点と対策】「もの」の使用により文が曖昧になる.
【修正後】インターフェロンは,C型肝炎ウイルスを体内から排除する薬剤である.
ルール84:「も」の正確な表現法を意識して使用する
もは「AもBも」と使うのが基本である.「Aも」の部分を省略してしまうと文が曖昧となる.
例文)
【修正前】東京から北海道へは船で行く方法もある.
【問題点と対策】もは「AもBも」と使うのが基本である.
【修正後】東京から北海道へは飛行機で行く方法も船で行く方法もある.
ルール85:「名詞+の」における「の」は曖昧な単語であり,なるべく他の適切な言葉で置き換えるべきである
たとえば.「部長の写真」という表現は,部長を写した写真.部長が持っている他の人を写した写真.部長が撮影した写真等.いろんな意味にとられてしまう.意味が一つに定まる文章を書くよう心がける.
ルール86:サ変動詞の表現は単調にならないようにする
「計算する」.「測定する」などのように,名詞に「する」をつけて動詞となる単語がある.これは,「サ変動詞」と呼ばれている.サ変動詞には.「行う」や「することが可能である」と言葉を補いたい誘惑に駆られるが,文章が単調になりやすいので注意が必要となる.
例文)
【修正前】この新しい測定法は前処理過程が不要のため,短時間で測定することが可能である.加えて,低料金で測定することが可能である.
【問題点と対策】サ変動詞に「することが可能である」を付け,これを繰り返すと,文章が単調になりやすい.
【修正後】この新しい測定法は前処理過程が不要のため,短時間かつ低料金で測定できる.
ルール87:「長所」,「特徴」,「利点」等,ひと,ものの属性を示す言葉が主語になっているときには,「こと」で受けるのが自然である.
例文)
【修正前】この検査の長所は,検査時間が短いです.
【問題点と対策】主語が属性を示す場合には.「こと」で受ける.
【修正後】この検査の長所は.検査時間が短いことである.
ルール88:主語に動詞が含まれていたら,述語に「ということだ」をつけて結ぶ
例文)
【修正前】この論文を記して感じたのは.統計はA氏に担当してほしかった.
【問題点と対策】主語に「感じた」と動詞が含まれている場合には,述語に「ということだ」をつける.
【修正後】この論文を記して感じたのは,統計はA氏に担当してほしかったということだ.
ルール89:カタカナに長音符号「ー」をつける(例.コンピュータとコンピューター)際は,日本工業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の原則がある
1991年の内閣告示「外来語の表記」(文化庁所管)では.原則として長音符を用いて書き表すが,慣用に応じて長音符を省くことができるとしている.しかしながら.JISには次のような長音符の表記上の原則がある22).
①3音以上の場合には,語尾に長音符を付けない.例として.「コンピューター(Computer)」は「コンピュータ」とする.
②2音以下の場合には,語尾に長音符を付ける.例として「フリー(Free)」は「フリー」とする.
③複合語は,それぞれの成分語について上記①.②を適用する.例をあげれば.「モーターカー(Motor car)」は「モータカー」とする.
長音についてのJISの用法は,現在では必ずしも慣用ではない文章もみられる.長音符に関して最も重要点は同じ論文の中で統一されて記載されていることである.
ルール90:2つ以上の修飾語がある場合には,置く順番に注意する
次のような注意点がある.①長い修飾語は前に,短い修飾語は後におく(例文1).②節.句が共に修飾語になる際には,節を先にし,句は後にする(例文2).
例文1)
【修正前】貴重な運動療法の縦断研究でみつけたデータ
【問題点と対策】長い修飾語(縦断研究でみつけた)は前に,短い修飾語(貴重な)は後におく.
【修正後】縦断研究でみつけた運動療法の貴重なデータ.
例文2)
【修正前】白い横線の引かれた紙
【問題点と対策】節を先にし,句は後にする.
【修正後】横線の引かれた白い紙.
ルール91:「所」と「ところ」の使い分けに注意する
ところは.場所に関係すれば「所」.場所に関係なければ「ところ」と記す.
例文)
【修正前】主治医に相談した所.人間ドック健診を勧められた.
【問題点と対策】原文の「所」は場所に関係ないので「ところ」とすべきである.
【修正後】主治医に相談したところ.人間ドック健診を勧められた.
ルール92:「時」と「とき」の使い分けに注意する
「とき」の前の単語が,時間に関係すれば「時」,時に関係なければ「とき」と記す.
例文1)
【修正前】研究で行き詰った時,A教授に相談した.
【問題点と対策】例文の「時」は時間に関係ないので「とき」を使用する.
【修正後】研究で行き詰ったとき,A教授に相談した.
例文2)
【修正前】20歳のとき,胃潰瘍に罹患した.
【問題点と対策】例文の「とき」は,時間に関係しているので「時」と記す.
【修正後】20歳の時.胃潰瘍に罹患した.
ルール93:「置く」と「おく」の使い分けに注意する
「置く」は何か物体をそこに置く意味となる.「おく」はその状態に保つという意味である.
例文)
【修正前】肺機能検査は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期発見に有用であることを認識して置くべきだ.
【問題点と対策】何か物体をそこに置くという意味ではないため「おく」とする.
【修正後】肺機能検査はCOPDの早期発見に有用であることを認識しておくべきだ.
ルール94:重ね言葉(重言)には注意する
重言の例を表9に記す.1番目の例に「未だ未完成である」を記したが.「未だ」も「未完成」も共にまだできていないことを示す.このような場合にはどちらかを修正して,重言を避ける.重言は文を稚拙にする.
【表9 重言の例】
・未だ未完成である → 未完成である
・後(あと)で後悔する → 後悔する
・~だけに限定する → ~に限定する
・次の後継者 → 後継者
・まず第一に → まず or 第一に
・第3番目 → 第3 or 3番目
・約1時間ほど → 約1時間
・はっきり断言する → 断言する
・余分な贅肉をとる → 贅肉をとる
ルール95:同じ主語の繰り返しは避ける
同じ主語が並んだ場合には,少なくするように工夫する.文章が単調で稚拙になるからである.
例文)
【修正前】我々は健診者のCA19-9を検査した.さらに,我々は腹部超音波検査を行った.こうして,我々はこれらの関係につき検討した.
【問題点と対策】我々という主語が繰り返されている.
【修正後】我々は健診者のCA19-9と腹部超音波検査を行い.両者の関係につき検討した.
ルール96:一つの文は,なるべく同じ主語で貫く
一つの文の途中で主語を変えると,文が分かりにくくなるので,避けるべきである.
例文)
【修正前】医師は診療によって考えさせられ,診療は新しいことを教えてくれた.
【問題点と対策】一つの文の途中で主語は,変えない.
【修正後】医師は診療によって考えさせられ.新しいことを学ぶことができた.
ルール97:共通項は一つの述語でまとめる
共通の動詞を用いる名詞(目的語)が並んだ場合には,一つの動詞ですべての名詞を受けるよう考えてみる.
例文)
【修正前】人間ドック健診では,身長を測定し,体重も測り,血圧をチェックする.
【問題点と対策】身長.体重.血圧を一つの動詞「測定する」で受ける.
【修正後】人間ドック健診では.身長.体重,血圧を測定する.
ルール98:いくつかの主語を並べた場合,述語には注意する
いくつかの名詞(主語.目的語)が並んだ場合には,一つの動詞ですべての名詞を受けられないことも多い.
例文)
【修正前】日本では生活習慣病や高齢化が進んでいる.
【問題点と対策】高齢化は進んでいるというが,生活習慣病が進んでいるとはいわない.
【修正後】日本では生活習慣病が増え.高齢化が進んでいる.
ルール99:同じ言葉を繰り返さない
同じ言葉が繰り返し使われるとくどくなる.同じ言葉がでてきたら,一つにできないか考える.
例文1)
【修正前】甲状腺機能低下は,倦怠感をきたす.甲状腺機能低下では便秘もみられる.さらに甲状腺機能低下では浮腫等もみられる.
【問題点と対策】「甲状腺機能低下」の使用を減らす.
【修正後】甲状腺機能低下では,倦怠感と,便秘.浮腫等がみられる.
例文2)
【修正前】よい健診施設の条件として.次の3つの条件があげられる.
【問題点と対策】「条件」の使用を減らす.
【修正後】よい健診施設の条件は,次の3つである.
ルール100:同じ語尾の連続使用は好ましくない
同じ語尾が続くと読み手は飽きて,ストレスを感じやすくなる.同じ言葉を避けるような表現にする.
例文)
【修正前】今回の講演会の評判は上々である.これは,まさに関係者一同のおかげである.来月も次の講演会である.さらによい講演会にしたいものである.
【問題点と対策】語尾「ある」の連続使用を避ける.
【修正後】今回の講演会の評判は上々である.これは,まさに関係者一同の成果による.来月も次の講演会が控えている.さらによい講演会にしたいと希望する.
ルール101:同じ意味あるいは似た意味の言葉を繰り返さない
著者は,重複した言葉は省略し,文の簡潔化を心がける.
例文)
【修正前】この検査の価値を述べると,次のことが言える.有効性が高いということが言えるのである.
【問題点と対策】アンダーライン部は似た表現である.まわりくどいので修正を要する.
【修正後】この検査の価値は,有効性が高いことに尽きる.
ルール102:難しい言葉と易しい言葉を交ぜない
例文)
【修正前】病院の専門外来では臓器に特化した診療しか行われていないなんて.おかしいんじゃないか.したがって,体全体を評価するには人間ドック受診が好ましい.
【問題点と対策】アンダーライン部は話し言葉に近い.くだけすぎた表現を是正する必要がある.
【修正後】病院の専門外来では臓器に特化した診療しか行われていないのが現状である.したがって,体全体を評価するには人間ドック受診が好ましい.
ルール103:並列させた語句の品詞はそろえる
例文)
【修正前】メタボリックシンドロームを防ぐには.適度な運動をしたり,十分な睡眠をとり,食事への注意が重要である.
【問題点と対策】文末が「~が重要だ」であるので,並列した事柄はすべて名詞化する.
【修正後】
①メタボリックシンドロームを防ぐには,適度な運動.十分な睡眠.食事への注意が重要である.
②メタボリックシンドロームを防ぐには,適度な運動を行うこと,十分な睡眠をとること.食事に注意することが重要である.
ルール104:二重否定は使用しない
小説では.二重否定は主張を柔らかくする.もったいぶった話しぶりを強調できる効用はある.しかし.簡易表現を要諦とする科学論文では文意をあいまいにするので好ましい表現ではない.
例文)
【修正前】健診の必要性を認めないではない.
【問題点と対策】簡易表現を要諦とする科学論文では二重否定は避ける.
【修正後】健診の必要性は認められる.
ルール105:比喩表現は好ましくない
比喩的表現はひとによってとらえる印象が異なる.客観性が担保できないため,科学論文には好ましくない.比喩は,強調のため,小説等では多用されるが.科学論文には馴染まない.
例文)
【修正前】健診での受付嬢は,薔薇の微笑みをたたえて受診者に対応する必要がある.
【問題点と対策】「薔薇の微笑み」は客観性が担保できない比喩表現である.科学論文には好ましくない.
【修正後】健診での受付嬢は,微笑みをたたえて受診者に対応する必要がある.
ルール106:反対意見を示したうえで,自分の意見を主張するとより効果的である
例文)
【修正前】商品の売り方には多種類の品を少量ずつ販売する方法がある.別に.単一商品に特化してこれを大量に販売する方法もある.後者の方が利率はよい.
【問題点と対策】「確かに+反対意見.しかし+自分の意見」の文型にすると,自分の意見が強調される.
【修正後】確かに商品の売り方には多種類の品を少量ずつ販売する方法がある.しかし,単一商品に特化してこれを大量に販売する方が利益率はよい.
ルール107:二重表現「~たいと思う」は使用しない
「たい」は書き手の希望を,「思う」も書き手の思いを伝える表現である.したがって,両者を続ける「~たいと思う」は二重表現であり,好ましくない.
例文)
【修正前】今回の研究は不十分と考えられる.さらなる検討をしたいと思う.
【問題点と対策】「~たいと思う」は二重表現である.
【修正後】今回の研究は不十分と考えられる.さらなる検討を予定している.
ルール108:文は,完結させる
文を完結させないと余韻が残り,客観性に欠く.科学論文では客観性に欠ける表現は好まれない.
例文)
【修正前】今後の研究は臨床と両立して行っていきたい.臨床経験をつみながら.
【問題点と対策】「ながら」は,未完結な文といえる.未完は余韻を増幅する働きがあるが,科学論文には好ましくない.
【修正後】今後の研究は臨床経験をつみながら,臨床と両立して行っていきたい.
ルール109:倒置法は使用しない
倒置法は文などにおいてその成分をなす語や文節を,普通の順序とは逆にする表現法である.語勢を強めたり.語調をととのえたりするために用いられる.ただし.客観性表現を重視する科学論文には好ましくない.
例文)
【修正前】どこに行くのか.人間ドック学会は.
【問題点と対策】倒置法は.科学論文には好ましくない.
【修正後】今後.人間ドック学会の進むべき方向を考察することは喫緊の課題である.
ルール110:誘導の疑問文は,内容をまわりくどくする
ずばり核心に入るほうが伝えたい内容が明確化する.
例文)
【修正前】人間ドックでの放射線部門にはどのような設備が必要なのか.今回はこのことを検討した.
【問題点と対策】誘導の疑問文は,科学論文には好ましくない.
【修正後】人間ドックでの放射線部門に必要な設備につき検討した.
ルール111:括弧(「」)をいくつか並べる際には間にテン(読点)は打たない
例文)
【修正前】「公益最優先」.「仁義有徳」.「上下一心」.この3つがA社の理念である.
【問題点】括弧の間にはテン(読点)をいれない.テン(読点)がなくても誤解なく読み取れる.ただし,最後の括弧の後のテン(読点)は必要である.
【修正後】「公益最優先」「仁義有徳」「上下一心」.この3つが当院の理念である.
ルール112:「ことで」の使い過ぎに注意する
原因や前提.手段を「ことで」一つで繰り返すと,単調で安易な印象を与える.
例文)
【修正前】受診者と接する機会が増えることで,接遇能力が向上する.さらに,受診者と会話することで多くの刺激を受けられる.
【問題点】「ことで」の使い過ぎを是正する.
【修正後】受診者と接する機会が増えれば.接遇能力が向上する.さらに,受診者と会話により多くの刺激を受けられる.
ルール113:因果関係を示す時には,「ので」のような明確なつなぎ用語を使う
例文)
【修正前】私はこのような人間ドック講習会に今まで参加したことがなく.大変参考になった.
【問題点と対策】「なく」は曖昧な接続である.「ので」を使用すると,因果関係が明確化する.
【修正後】私はこのような人間ドック講習会に今まで参加したことがなかったので,大変参考になった.
ルール114:話の大前提となるキーワードに注意する
キーワードは,理解されやすい明瞭な表現でなされる.
例文)
【修正前】当院健診センターでは40人前後だった受診者を,現在は90人前後に増やすことができた.
【問題点と対策】キーワードである40人が1日なのかどうか明確でない.この点を明確化する必要がある.
【修正後】当院健診センターでは1日40人前後だった受診者を,現在は1日90人前後に増やすことができた.
ルール115:意味不明,なくても意味の変わらない言葉は省く
例として,以下に示す「基本的に」「に対して」は省かれることが多い.
例文1)
【修正前】当院では.健診は基本的に午前中行われる.
【問題点と対策】「基本的に」は意味がないので省略する.
【修正後】当院では.健診は午前中行われる.
例文2)
【修正前】受診者に対する言葉づかいに対して気をつけている.
【問題点と対策】「に対して」は意味がないので省略する.
【修正後】受診者に対する言葉づかいに気をつけている.
ルール116:括弧を閉じる直前のマル(句点)は,省略する
義務教育では「括弧を閉じる直前のマル(句点)は,省略しなくてもしてもよい」と教えられるが,新聞.新書等では省略されるのが多い.どちらでもよいなら.ないほうがスッキリする.
例文)
【修正前】A病院は.多くの人から「クレーム対応能力が高い.」といわれている.
【問題点と対策】括弧を閉じる直前のマル(句点)は.新聞.新書では省略されるのが多い.スッキリさせるためには,省略する方をお勧めする.
【修正後】A病院は.多くの人から「クレーム対応能力が高い」といわれている.
ルール117:推量・伝聞の表現は続けない
推量表現「だろう」「ようだ」「らしい」「と思われる」や伝聞表現「~だそうです」「~と聞きました」は, あまり使用すると情報の信憑性が弱くなる.断定的な「~と考える」「~である」が使えれば強い内容となる.
例文)
【修正前】以上の臨床研究データより,糖尿病は肝がん発症を促進するようだ.膵臓がんも増加するようだ.乳がんも増えるらしい.
【問題点と対策】推量表現「だろう」「ようだ」が繰り返されている.推量表現はできるだけ減らすように努める.
【修正後】以上の臨床研究データより.糖尿病は.肝がんと膵臓がん.乳がんの発症を促進すると考えられる.
ルール118:発言や考えは「」で括る
発言や考えは「」で括る方が読みやすくなる.
例文)
【修正前】A病院は多くの人から.将来性があると言われる.
【問題点と対策】発言は「」で括る方が読みやすい.
【修正後】A病院は多くの人から,「将来性がある」と言われる.
ルール119:書名引用では二重括弧を使用する
例文)
【修正前】小説での名表現を学ぶ際のテキストは,「日本の作家名表現辞典」がよい.
【問題点と対策】書名を引用する際には.二重括弧を使用する習慣である.
【修正後】小説での名表現を学ぶ際のテキストは.『日本の作家名表現辞典』がよい.
ルール120:漢字本来の意味から離れた言葉はひらがなで記す
例文1)
【修正前】健診技量を向上させるため.スタッフとは良く話し合う.
【問題点と対策】この文では.「良く」は「良い.悪い」ではなく.「たびたび」の意味で使用されている.漢字本来の意味とは違う使われ方をしているので「良く」ではなく「よく」とひらがなで記す.
【修正後】健診技量を向上させるため, スタッフとはよく話し合う.
例文2)
【修正前】施行して見たら,大変容易であった.
【問題点と対策】「施行して見たら」は「見る」ではなく「試みる」の意味でありひらがなを使用する.
【修正後】施行してみたら,大変容易であった.
ルール121:所有を表す以外の「の」はできるだけ減らす
「の」はいろいろな働きをする.それだけに解釈の幅も広がり,場合によっては幾通りもの解釈が可能な文章ができあがってしまう.所有用法以外の「の」は.できるだけ言い換えたほうが無難である.
例文)
【修正前】八百屋の向かいの魚屋の看板の文字.
【問題点と対策】「の」を3つ以上くりかえすのは好ましくない.
【修正後】八百屋の向かいにある魚屋の看板に描かれた文字.
ルール122:形式名詞「こと」「もの」「ところ」等は通常ひらがなで記す
形式名詞は,具体的な意味をもたず.常に他の語句についてその場合に応じた意味を付け加える名詞である.例をあげれば,「見たことがない」「食べたことがある」の「こと」が形式名詞である.
例文1)
【修正前】この方法により受診者数が伸びた事になる.
【問題点と対策】形式名詞「こと」等は通常仮名で記す.
【修正後】この方法により受診者数が伸びたことになる.
例文2)
【修正前】若いころに得た知識は,なかなかわすれない物だ.
【問題点と対策】形式名詞「こと」「もの」等は通常仮名で記す.
【修正後】若いころに得た知識は,なかなかわすれないものだ.
ルール123:横書きでの数字は,算用数字とするのが原則である
例文)
【修正前】症例数は五百例である.
【問題点と対策】横書きでは,漢数字は使わない.
【修正後】症例数は500例である.
表10には漢数字を使用する例を示した.
【表10 漢数字を使用する場合】
・他の数字に置き換えられない: これが一番重要です.
・熟語・慣用句: 一日一生, 一時一事
・数字を曖昧にしたい: 十数人
・固有名詞かそれに準ずる: 三千院, 五重の塔
ルール124:一瞬で動作が終わる動詞(「始める」「検査する」など)に継続を表す「いく」はつけない
「いく」は継続を表す動詞(「頑張る」など)にはつけて,「頑張っていく」として使用してよい.このように「いく」を続けてよい場合は制限される.
例文)
【修正前】この研究について始めていこうと考えた.
【問題点と対策】一瞬で動作が終わる動詞(「始める」など)に継続を表す「いく」はつけない.
【修正後】この研究について始めようと考えた.
ルール125:専門家にしか分かりにくい用語は安易に用いない.
例文)
【修正前】クランケに病状をムンテラ(口で説明)した.
【問題点と対策】「ムンテラ」とはドイツ語「ムント・テラピー(Mund Therapie.医療での患者への口頭説明)」の略.「クランケ(kranke.ドイツ語で患者)」等は,不特定のひとを対象に書く場合には注意を要する.これらの言葉は.不特定のひとには意味不明であったりするからである.
【修正後】入院患者に病状を説明した.
ルール126:文頭にいきなり「なので」はおかない
文頭にいきなり「なので」をおくと,稚拙な感じがする.重み,深みのない文章となる.
例文)
【修正前】原著論文が採用されなかったので私は大変落ち込んだ.理由は記述法の稚拙さによる.なので,本気で論文の書き方を勉強し始めた.
【問題点と対策】3番目の文頭にある「なので」を変更する.
【修正後】原著論文が採用されなかったので大変落ち込んだ.理由は記述法の稚拙さによる.そこで、本気で論文の書き方を勉強し始めた.
ルール127:文頭にいきなり「結果」はおかない
文頭にいきなり「結果」をおくと.稚拙な感じがする.重み.深みのない文章となる.
例文)
【修正前】上部消化管内視鏡検査での受診者の苦痛を和らげるため,経鼻内視鏡検査の習得に努めた.結果,私たちの内視鏡技術は飛躍的に向上した.
【問題点と対策】文頭の「結果」を修正する.
【修正後】上部消化管内視鏡検査での受診者の苦痛を和らげるため,経鼻内視鏡検査の習得に努めた.その結果.私たちの内視鏡技術は飛躍的に向上した.
ルール128:一般的には「ら」抜き言葉は,「ら」をつけた形で使用する
見れる-見られるのように.「ら」があってもなくても「可能」の意味を失わない言葉を「ら」抜き言葉という.「ら」抜き言葉は,一般的には「ら」はつけた形で使用する.「られる」は通常,可能・受身・尊敬を表す.
例文1)
【修正前】月が見れる.
【問題点と対策】「ら」抜き言葉は.「ら」をつけた形で使用する.
【修正後】月が見られる.
例文2)
【修正前】内服抗ウイルス剤により.C型慢性肝疾患を激減するという夢をかなえれる.
【問題点と対策】「ら」抜き言葉は.「ら」をつけた形で使用する.
【修正後】内服抗ウイルス剤により,C型慢性肝疾患を激減するという夢をかなえられる.
ルール129:「ら」を加えたら,可能が受身等に変化するときには「ら」抜き言葉ではない
「新薬は売れる(可能)-新薬は売られる(受身)」のように,売れるは,「ら」をいれることにより,意味が可能から受け身に変わるから「ら」抜き言葉ではない.この場合には前後関係をみて「ら」を抜くか否かを考える.
ルール130:「さ」入れ言葉は,科学論文にはなじまない
「さ」入れ言葉は,助動詞「せる」を用いるべきところで「させる」を用いた言い方である.「さ」を入れると仰々しい感じがする.「さ」があってもなくても意味が変わらないよい場合は科学論文では「さ」はつけない.さ入れ言葉の例は,「やらさせていただいた」「行かさせていただく」「書かさせてください」.等である.このような場合.「やらせていただいた」「行かせていただく」.「書かせてください」.と記載する.
ルール131:「早い」は時刻・時期に,「速い」は動き・速度に対して使用する
例文)
【修正前】クレーム対応が早い.脈が早い.
【問題点と対策】原文の「はやい」は動きがはやい意味なので「速い」を用いる.
【修正後】クレーム対応が速い. 論文作成が速い.
「早い」は「桜の開花する時期が早い」「起床時刻が早い」等で使用する.
ルール132:「かならず」「絶対」等の断定的な表現は注意すべきである
医学には,100%はない.例外はつきものである.したがって,断定的な表現は好ましくない.
例文)
【修正前】早期大腸がんであれば.下部消化管内視鏡での治療等により必ず治癒する.
【問題点と対策】断定的な表現は好ましくない.
【修正後】早期大腸がんであれば.下部消化管内視鏡での治療により多くの場合は治癒する.
ルール133:科学論文では程度を表す言葉は原則使用しない
かなり,けっこう.だいぶ.まあまあ.まずまず等の程度を表す言葉より,具体的数値を示すように努める.程度をあらわす言葉は.読み手により感じ方が異なる主観的表現である.したがって,客観性を重視する科学論文にはなじまない.
例文)
【修正前】C型慢性肝炎は内服抗ウイルス剤の投与により.かなりウイルス排除が可能となった.
【問題点と対策】程度を表す言葉ではなく.具体的数値を記載する.
【修正後】C型慢性肝炎は内服抗ウイルス剤の投与により.95%の症例でウイルス排除が可能となった.
ルール134:述語の共用に注意する.
例文)
【修正前】高齢化や生活習慣病が増えている.
【問題点と対策】「生活習慣病が増えている」とはいえる.一方.「高齢化が増えている」とはいわない.したがって「高齢化」「生活習慣病」は「増えている」を共用できない.「高齢化が進んでいる」というような形で使う.
【修正後】高齢化が進み,生活習慣病が増えている.
ルール135:「という」は省けないか考える
「という」がなくても意味が変わらなければ.簡素化の意味で削除する.
例文)
【修正前】国益という最優先に取り組むということができなくなった.
【問題点と対策】「という」を省いても意味が変わらないことを確認する.
【修正後】国益最優先に取り組むことができなくなった.
ルール136:名詞をつくる「さ」は形容詞・形容動詞の語幹につく
名詞あるいは副詞に「さ」をつけて名詞化するのはおかしな表現といえる.「高い」「明るい」「楽しい」等の形容詞は「高さ」「明るさ」「楽しさ」と「さ」をつけて名詞化可能である.「快適だ」「不快だ」「残酷だ」等の形容動詞は「快適さ」「不快さ」「残酷さ」と「さ」をつけて名詞化可能である.
例文1)
【修正前】治験担当者の緊張さは.はたから見て痛々しかった.
【問題点と対策】名詞「緊張」に名詞化の「さ」は付けられない.
【修正後】治験担当者が緊張しているさまは,はたから見て痛々しかった.
例文2)
【修正前】業務進捗のゆっくりさに課長はいらだった.
【問題点と対策】副詞「ゆっくり」に名詞化の「さ」は付けられない.
【修正後】業務進捗が捗々(はかばか)しくないことに課長はいらだった.
ルール137:安易な話し言葉「なります」は避ける
「となります」「となっております」は丁寧な表現と錯覚しているのか.最近ふえている.「です」で済む.
例文)
【修正前】腹部超音波検査の後は胸部レントゲンの撮影となります.
【問題点と対策】「となります」は避ける.
【修正後】腹部超音波検査の後は胸部レントゲンの撮影です.
ルール138:ひと続きの言葉を列挙するときには同じ語順で整える
例文)
【修正前】データ収集はA氏が担当し,統計処理の担当はB氏であった.
【問題点と対策】テン(読点)前後のひと続きの言葉に関して語順がちぐはぐである.揃えるよう心がける.
【修正後】
①データ収集はA氏が担当し,統計処理はB氏が担当した.
②データ収集の担当はA氏であり,統計処理の担当はB氏であった.
ルール139:主語につく「は」と「が」の使い分けには注意を要する
主語につくは.次のような違いがある.「は」は,既知の情報を示し,「が」は未知の情報を示す.
例文1)
「製作期間1年に及んだ論文『脂肪肝の死因』は完成し,投稿された.」この例では,論文『脂肪肝の死因』について何かを読み手は既に知っていると書き手は判断している.読み手は論文『脂肪肝の死因』について何も知らないと書き手が判断しているのなら.「は」は不自然である.
例文2)
「製作期間1年に及んだ論文『脂肪肝の死因』が完成し,投稿された.」例2では,論文『脂肪肝の死因』について何かを読み手は未知であると書き手は判断している.
【追加】
「昔々あるところに,おじいさんとおばあさんがいました.おじいさんは山に芝刈りに,おばあさんは川に洗濯に行きました」 これは,日本昔話の桃太郎の冒頭である.おじいさんとおばあさんが,初登場した時には「が」が使われている.これは二人が未知の人物だからである.二人が読者にとって既知の人物になった二行目は,「は」が使われている.
ルール140:助詞「に」と「へ」の使い分けに注意する
一般に,「に」と「へ」には,次のような違いがある.「に」は動作の到達点を強調して示し.「へ」は動作の方向を示す.多くの場合,「に」と「へ」を入れ換えても.意味は通じる.
例文)「医師が患者に(へ)薬を投与する.」
「に」なら.ほかの患者ではない特定の患者というニュアンスがこめられることになる.
「明日.出張で京都に行きます」「明日.出張で京都へ行きます」などは、行く場所は「京都」であり同じだが,「京都に」のほうは,定まった場所を指し,「京都へ」のほうは,そちらの場所へというような.大体の場所,方向を指す.
ルール141:「より」と「から」の使い分けに注意する
「より」は比較を示し,「から」は起点を示すと考えて記すと.読み違いを防げる.
例文1)「2日より3日は,全商品10パーセント引きです」この文は,2日に比べて3日は,全商品10パーセント引きです.と解釈される.
例文2)「2日から3日は,全商品10パーセント引きです」この文は,2日を起点に3日まで,全商品10パーセント引きです. と解釈される.
ルール142:形容詞と名詞は近づける
修飾語はかかる言葉の直前に置く.
例文)
【修正前】建設的な人間ドック学会を良くするための意見.
【問題点と対策】形容詞の「建設的な」は名詞「意見」の修飾語となるのでその直前に置く.
【修正後】人間ドック学会を良くするための建設的な意見.
ルール143:自動詞「する」と他動詞「させる」の使い分け
「名詞(主語)+が(は)」の後に「する」がくる言い方がある.この名詞を目的語で使用する際には.「名詞(目的語)+を」の後には「させる」を使う.
例文)
【修正前】私は,仕事と趣味を両立する.
【問題点と対策】「仕事と趣味」を主語とした場合に「仕事と趣味が両立する」という文は,正しい表現である.「仕事と趣味」が目的語となった場合には.自動詞「する」ではなく,他動詞「させる」を使う.
【修正後】私は.仕事と趣味を両立させる.
「が」の後に「する」がくる動詞では,「を」の後には「させる」がくる例を表11に示す.
【表11 自動詞「する」と他動詞「させる」の使い分け】
・「主語+は(が)」の後には「する」を使用
仕事と家庭が両立する.
検査技術が向上する.
仕事と趣味が一致する.
・「目的語+を」の後には「させる」を使用
仕事と家庭を両立させる.
検査技術を向上させる.
仕事と趣味を一致させる.
ルール144:自動詞「なる」と他動詞「する」の使い分け
「名詞(主語)+が」の後に「になる」が続く言い方がある.この名詞を目的語で使用する際には,「名詞(目的語)+を」の後には「~にする」が続く(表12).
【表12 自動詞「なる」と他動詞「する」の使い分け】
・「主語+は(が)」の後には「なる」を使用
息子が教師になる.
空気がきれいになる.
心が豊かになる.
・「目的語+を」の後には「する」を使用
息子を教師にする.
空気をきれいにする.
心を豊かにする.
おわりに
科学論文作成に際しての留意点につき記載した.私が日本人間ドック学会編集委員.副委員長.委員長を拝命していた過去9年間の間に,査読等で気になった項目を私なりにメモしていた.そのメモ数が300ほどになった.今回このうちの約半数をまとめた.
主たる対象は,今後.はじめて科学論文を書こうと思っている方.あるいは論文を書くのが苦手と思っている方などである.多少でも,日本人間ドック学会の会員の方々に裨益できればとの思いで作成した.今後,日本人間ドック学会誌への投稿が少しずつでも増加することを祈念する.
謝辞
記載にあたり.編集部にはひとかたならぬお世話になりました.心より感謝いたします.
