嫌悪刺激からの脱出努力の低下とうつ病

嫌なことから逃げようとする力が弱くなることとうつ病

うつ病の代表的な症状のひとつに「絶望感」があります。これは、「もう何をしても無駄だ」と感じて、努力することをあきらめてしまうような気持ちです。このような心の状態を、動物実験でどのように調べるのでしょうか?

強制水泳テストとは?

研究者たちは、**「強制水泳テスト」**という方法で、動物(主にネズミやマウス)のうつ状態を調べています。このテストでは、ネズミを水の入った円筒に入れます。はじめは必死に泳いで出ようとしますが、しばらくすると動かずにじっと浮かぶようになります。この状態が長く続くほど、「もうどうせ逃げられない」とあきらめている、つまり「学習性無力感」があると考えられます。

一方、抗うつ薬(うつの治療に使われる薬)をあらかじめ与えておくと、ネズミは水の中でも長く泳ぎ続け、あきらめるまでに時間がかかります。つまり、薬が「絶望感」や「あきらめ」の気持ちを減らす効果を持っていることが、行動から分かるのです。

ただし注意も必要

このテストには注意点もあります。動かない時間が長くなったからといって、必ずしも「うつ状態」だと決めつけられないのです。たとえば、ネズミはただ体力を温存しようとして浮いているだけかもしれません。そのため、正確に判断するためには、他のテストも一緒に行う必要があります。

他にもある似たテスト:尾吊りテスト 似たようなテストとして、尾吊りテストがあります。これはマウスを尾の先で吊るして、ぶら下がった状態にするものです。最初はバタバタと動きますが、やがてじっとします。この不動状態も「絶望感」をあらわしていると考えられます。抗うつ薬を与えると、この不動時間が短くなることが分かっています。

抗うつ薬の効果とタイミング

これらのテストでは、一般的な抗うつ薬の多くが「不動時間を短くする」という効果を見せます。これは、うつ病の治療に使われている薬が、こうした行動にも効果があることを示していて、**予測妥当性(=人間に効く薬が動物にも似た効果を見せること)**が高いとされています。

また、抗うつ薬はすぐには効かず、しばらく使い続けてから効果が出ることが多いですが、それも動物実験で再現されています。低い量ではすぐに効果が出ないけれど、長く使うと行動が変わってくるという結果が得られています。

学習性無力感モデル

もう一つ、学習性無力感モデルという考え方もあります。これは、ネズミに逃げられないストレス(例えば電気ショック)を与え続けると、後で逃げられる状況になっても、もうあきらめて逃げようとしなくなるというものです。まさに「どうせ無理だ」という気持ちが行動に出ているわけです。しかし、これも抗うつ薬を使うことで改善されることが分かっています。

新しいタイプの抗うつ薬の発見 もともと、こうした動物テストは「モノアミン」という脳内物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)に働く薬を調べるために使われていました。しかし最近では、ケタミンや**シロシビン(キノコ由来の成分)**など、新しいタイプの薬でも同じような行動の改善が見られることが分かってきています。

まとめ

強制水泳テストや尾吊りテストでは、動物の「あきらめ行動」を測ることで、うつ病に似た状態を調べられる。

抗うつ薬は、この「あきらめ行動」を減らす効果を持っており、行動の変化から薬の効果を確認できる。

最近では、ケタミンなど新しいタイプの薬でも同じような効果が確認されている。

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一方で、
デモラリゼーション(意気消沈)とは、差し迫った問題に対処できず、失敗体験が続くことで無力感や絶望感が深まった心理状態である。自殺との関連が実証され、緩和ケアやリエゾン精神医学の領域で注目されている。 DSMに当てはめれば、適応障害(適応反応症)やうつ病と診断されることが多いが、うつ病とは異なるとされており、抗うつ薬は無効である。援助するためには、自己統御感の回復や人生の意味に焦点を当てた心理学的アプローチが必要である。
などと解説がある。

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