会社適応障害軽症の人に対して、ACTを実施するとして、その詳細なカウンセリング-1

はい、承知いたしました。
会社への適応障害(軽症)と診断された方(クライアント)に対して、カウンセラーがACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を実施する際の、詳細な会話例を作成します。


想定されるクライアント像

  • 名前: 鈴木さん(仮名・30歳・事務職)
  • 状況:
    • 軽症の適応障害と診断された。休職はしていないが、出社が辛い。
    • 主な症状は、出社前の動悸、仕事中の集中力低下、上司の些細な言動への過剰な不安、「自分はダメだ」という自己批判的な思考が止まらない、など。
    • これまで「ポジティブに考えよう」「気にしないようにしよう」と努力してきたが、うまくいかずに余計に落ち込んでいる。
  • セッションの段階: 2回目〜3回目を想定。ラポール(信頼関係)はある程度できており、クライアントの悩みは一通り共有されている状態。

ACTセッションの詳細な会話例

登場人物:

  • C: カウンセラー
  • T: 鈴木さん(クライアント)

(セッション開始)

C: 鈴木さん、こんにちは。先週からの一週間、いかがお過ごしでしたか?

T: こんにちは。…相変わらず、月曜の朝は会社に行くのがすごく憂鬱でした。お腹も痛くなってしまって。「またミスしたらどうしよう」「今週も乗り切れるかな」って、不安な考えが頭の中をぐるぐるしていました。

C: そうでしたか。月曜の朝は特に辛いんですね。「ミスしたらどうしよう」という不安な考えと、お腹の痛み…。その辛い感覚が出てきた時、鈴木さんはいつも、それに対してどうしようとしますか?

T: なんとかその考えを追い払おうとします。「大丈夫、きっとうまくいく」って自分に言い聞かせたり、好きな音楽を聴いて無理やり気分を上げようとしたり…。でも、結局また同じ不安が戻ってきてしまって、その繰り返しで疲れてしまいます。

C: なるほど。その辛い考えや感覚を、なんとかコントロールしようと、これまで一生懸命頑張ってこられたんですね。それは素晴らしい努力だと思います。ただ、少しだけ見方を変えてみたいのですが、その「不安を追い払う」という戦い方は、長期的に見て、鈴木さんを楽にしてくれていますか?それとも、まるで不安と綱引きをしているみたいに、かえってクタクタになってしまっている感じでしょうか?

T: …まさに、綱引きです。考えないようにすればするほど、その考えに縛られている気がします。

C: ありがとうございます。多くの方が同じ経験をします。その綱引き、一度手を放してみる、という新しいやり方を今日は試してみたいのですが、いかがでしょうか?不安を消し去るのではなく、不安はそこにあってもいい、とした上で、鈴木さんらしく前に進む方法です。

T: 綱引きの手を…放す…?でも、そしたら不安に引きずり込まれてしまいそうで怖いです。

C: そのお気持ち、よく分かります。怖いですよね。なので、引きずり込まれるのではなく、少し離れたところから「ああ、不安が今いるな」と眺めてみる練習をしてみましょう。これを心理学の言葉で「脱フュージョン(だつフュージョン)」と言います。思考と一体化(フュージョン)するのをやめる、という意味です。

T: 脱フュージョン…ですか。

C: はい。例えば、さっきおっしゃっていた「またミスしたらどうしよう」という考えが頭に浮かんだとします。それを「真実だ!」と信じ込むのではなく、こんな風に言葉を変えてみるんです。『私は今、「またミスしたらどうしよう」という思考を持っているな』と。まるで、自分の頭の中に流れるラジオ放送を、客観的に実況するような感じです。一度、声に出して言ってみてもらえますか?

T: (少し戸惑いながら)えっと…『私は今、「またミスしたらどうしよう」という思考を持っているな』…。なんだか、不思議な感じですね。

C: 不思議な感じ、しますよね(笑)。でも、どうでしょう?さっきまで頭の中を100%占領していた考えと、ほんの少しだけ距離ができたような、隙間が生まれたような感覚はありませんか?

T: …あ、言われてみれば、少しだけ…。自分の考えなのに、ちょっと他人事みたいに見えるというか。

C: 素晴らしい気づきです!それが「脱フュージョン」の感覚です。思考はただの言葉やイメージの連なりであって、鈴木さん自身ではないし、必ずしも真実ではありません。ただ、頭の中に「浮かんでくるもの」なんです。

C: では次に、お腹が痛くなるような身体の感覚にもアプローチしてみましょう。これも無理に消そうとせず、ただ受け入れてみる練習です。これを「アクセプタンス」と言います。もしよろしければ、少し目を閉じて、お腹のあたりに意識を向けてみてください。そして、その痛いや不快な感覚を、ただ「観察」してみるんです。それはどんな感じですか?ズキズキしますか?重い感じですか?

T: (目を閉じ、呼吸を整える)…なんだか、お腹の中心がキュッと固くなっている感じです。

C: 「キュッと固くなっている感じ」なんですね。ありがとうございます。では、その感覚を無理に変えようとせず、ただその感覚の周りにスペースを作るようなイメージで、ゆっくりと呼吸を送り込んでみてください。吸って…吐いて…。その感覚と共に、ここにいる練習です。

T: (数回深呼吸する)…痛みが消えたわけじゃないですけど、なんだかパニックにならずに済むというか…。少し、落ち着いてきました。

C: よかったです。それがアクセプタンスの力です。不快な感覚をゼロにすることが目的ではありません。「その感覚や思考があっても、大丈夫」という感覚を育てていくことが大切なんです。

C: さて、鈴木さん。少し難しい質問かもしれませんが、もし、そういった不安な思考や体の感覚に、人生を乗っ取られなくなったとしたら…もし、それらが鈴木さんの行動を邪魔しなくなったとしたら、鈴木さんは、仕事を通じて、本当はどんな自分でありたいですか?どんな働き方をしたいですか?

T: え…そんなこと、考えたこともなかったです。でも…そうですね…。本当は、もっと落ち着いて仕事に取り組みたいです。周りの人の役に立っているという実感も欲しいですし、いつもビクビクするんじゃなくて、チームの一員として貢献したいです。

C: 「落ち着いて仕事に取り組む」「人の役に立つ」「チームに貢献する」…とても素敵な「価値(バリュー)」ですね。それは、鈴木さんが人生という航海で目指したい、コンパスの「方角」のようなものです。

C: では最後に、その「チームに貢献する」という方角に向かって、今週、何か一つだけ、本当に小さな一歩を踏み出すとしたら、どんなことができそうでしょうか?不安や「どうせダメだ」という思考が湧いてきても、『ああ、思考がまた何か言っているな』と横に置きつつ、できることで構いません。

T: 小さな一歩…。そうですね…いつも忙しそうにしている隣の席の佐藤さんに、「何か手伝いましょうか?」と一声かけてみる…ことくらいなら、できるかもしれません。断られるかもしれないし、余計なお世話だと思われるかもしれない、という不安はありますが…。

C: 素晴らしいですね!それが「コミットされた行動(コミットメント)」です。結果がどうなるかは分かりません。でも、鈴木さんが大切にしたい「貢献する」という価値に沿った行動です。もし声をかける前に不安が出てきたら、今日練習したように『”余計なお世話だと思われたらどうしよう”という思考が出てきたな』と実況中継してみてください。そして、その思考と共に、一歩踏み出してみる。

C: 今週の宿題として、その「佐藤さんに声をかけてみる」ことを、できそうな時に一度試してみて、その時どんな気持ちになったか、どんな思考が出てきたか、結果はどうだったか、ぜひ次回のセッションで教えてください。

T: はい、わかりました。少し勇気がいりますが、やってみます。

C: ありがとうございます。今日のセッションはここまでとしましょう。お疲れ様でした。


この会話例のポイント

  • コントロールの罠: クライアントがこれまで良かれと思ってやってきた「不快な感情を消そうとする努力」が、逆効果(綱引き)になっていることに気づいてもらう。
  • 脱フュージョン: 思考と自分を切り離し、客観的に眺める具体的な方法(「〜という思考を持っている」と実況する)を提示する。
  • アクセプタンス: 不快な身体感覚をなくそうとせず、ありのまま観察し、共存する練習を行う。
  • 価値の明確化: 「問題がなくなったらどうしたいか?」という質問を通して、クライアントが本当に大切にしたいこと(価値)を引き出す。
  • コミットされた行動: 価値に基づいた、具体的で実行可能な小さな行動(ベビーステップ)を設定する。

ACTのセッションは、こうしたプロセスを何度も繰り返し、クライアントが辛い内的体験(思考や感情)と上手に付き合いながら、自分にとって価値ある人生を歩んでいけるように支援していくものです。

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