兵庫県漏洩問題 側近3人「知事の指示はあった」vs知事は全面否定 あまりに稚拙で恥さらし
兵庫県では知事への告発文書を巡り、百条委員会と3つの第三者委員会が設置されました。3つの第三者委員会のうち告発文書とその対応についての調査結果は、3月19日に公表されていました。残りの調査委員らが非開示だった2つの第三者委員会の調査内容が5月13日と27日に公表されました。
5月13日に発表されたのは、元県民局長(告発文書作成者)の私的情報「データ」がSNSで拡散された問題等を調査したものです。結論として、調査しきれず漏洩者がわからなかった。これを受けて県は被疑者不明のまま警察に刑事告発しました。情報漏洩についてはもう一つの委員会があり、元総務部長が県民局長の私的情報を「紙に印刷した資料」を県議らに見せ回って漏洩させた疑いについて調査され、その結果が5月27日に公表されました。2つの情報漏洩問題があり、データと紙の漏洩をそれぞれ調査したということです。今回は、結論が明確となった紙による漏洩について取り上げ、組織マネジメントの観点から問題点を深堀りします。
私的情報を「紙に印刷して見せまわった」のは事実
5月27日に公表されたのは、告発文書を作成した元局長の私的な情報を元総務部長井ノ本知明氏が、複数の県議会議員に見せたり、読み上げたりするといった形で漏えいしたのは事実と認定されたこと。そして、この井ノ本氏による漏えい行為は「斎藤知事らの指示で行われた可能性が高い」と結論を出しました。
この調査委員会は、第三者委員会として2番目に設置されました(10月8日設置:名称「秘密漏洩疑いに関する第三者調査委員会」)。井ノ本知明元総務部長が告発文書作成者(元県民局長)の私的情報を県議らに紙に印刷して見せ回ったと報道されている行為が事実かどうか、私的情報は県が管理すべき秘密情報なのか、地方公務員法に違反するのかどうかを調査することを目的としていました。結論として、告発文書作成者の私的情報は県が秘密として管理し保護される情報である、井ノ本元総務部長が県議らに告発者の私的情報を紙で見せたことは事実である、その行為は知事と副知事による指示であった可能性が高い、とされました。
今回の調査のきっかけは、7月25日号(17日に配信)の文春報道です。そこには何が書かれていたのでしょうか。
2024年7月25日号文春報道
「人事課を管轄する総務部長が、大きなカバンを持ち歩くようになった。中には大きな2つのリングファイルに綴じられた文書が入っており、県職員や県議らにその中身を見せて回っていたようです」(前出・県職員)
実際に総務部長からこの文書を見せられたある県議は、こう証言する。
「総務部長がどういうつもりで見せたのか分かりませんが、見せられた瞬間『これはまずい』と思いました。Ⅹさんに関する極めてプライベートな内容だった」
前出の県職員が語る。
「リングファイルの中身は、押収したPCの中にあったⅩ氏の私的な文章。どうやらその文章は、4人組によって、県議や県職員の間に漏れていたようです。事実、私もこの4月に産業労働部長から文章の内容を聞かされました」
その際、産業労働部長はこう話していたという。
「もしアイツ(Ⅹ氏)が逆らったら、これの中身、ぶちまけたるねん」
中身についてはⅩ氏が決して触れられたくなかったことであり、本稿では言及しない。ただ、Ⅹ氏の告発を握りつぶすためにこれを利用しようとする行為がどうしようもなく卑劣であることは論を俟たない。
動機は告発文書の信用性弾劾
第三者委員会報告書によると、2024年の4月中旬ごろ、3名の議員は「緑ファイルを持った当時の井ノ本氏が表れて、紙に印字された資料を見せたり、口頭での説明をした」と供述。井ノ本氏が一人で来たこと、アポなしで来たこと、ファイルを見せたこと、内容は日記のような形式であったこと、元県民局長の私的情報であったことなど供述内容が一致していたため、実際に井ノ本氏が行ったと認定。
漏えいの動機・目的については「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する点にあったと捉えている、これは一定の説得力があると評価できるものである(P31)」としています。
井ノ本氏とD氏「知事が指示」、副知事「私も指示」
調査委員会でやや混乱して調査が長引いた理由は、井ノ本氏による供述の変更が原因です。調査委員会として1月27日付けで一旦報告書を提出した後、2月14日に井ノ本氏が人事課に弁明書を提出し、再調査することになったのです。井ノ本氏は議員に会ったことすら否定していましたが、一体どういう意図があったのか不明ですが、「3名の議員に面会して、情報共有の意図で元県民局長の私的情報を口頭で伝えた。ただし、具体的な資料を開示していない」「知事・副知事の指示でだから正当な業務である」と変更したのです。
井ノ本氏による2月14日に提出された弁明書における新主張の要点は次の通り。
・知事、副知事の指示に従った職責だから正当な業務である
・D氏も同席して知事の指示を聞いている
・元県民局長の私的情報は保護に値しない
・3名の議員の証言は、誇張・虚偽・邪推をもって自分の正当な業務行為を守秘義務違反にすり替えている。自分の行為は、業務上知ることのできた秘密を故意にもらした、とは評価できない
・自分の行為は、公務の運営に重大な障害を生じさせた、とは評価できない
井ノ本氏は昨年の百条委員会では、紙に印刷した私的情報を所持したことは認めましたが持ち出したかどうかの質問には証言を拒否。これを含めて、井ノ本氏の供述変更は3度あり、そのたびに調査委員としては不信感を募らせ、どれを採用するのか検討が続けられました。そして、2月14日以降、調査委員会として再調査した結果、知事からの指示の場に同席したD氏と副知事の供述により、「知事からの指示があった」方向性に結論が集約されました。
同席したD氏:「昨年4月上旬ごろ、元県民局長の私的情報を含めて知事に報告した際、その私的情報も議会執行部に知らせておいたほうがよいと理解できる発言があった」「副知事に報告したら、副知事が『そらそうやな。必要やな』と発言した」(2025年3月4日事情聴取 P37 )。
片山元副知事:「私は知事から直接指示は受けていない。D氏から報告を受け、反対せず、井ノ本氏に根回しをするよう指示した。ただし、根回しする具体的会派や共有すべき私的情報の具体的内容については指示していない」と供述(2025年3月18日事情聴取 P39)
なお、弁明書で井ノ本氏は「紙に印刷された私的情報を見せていない」と主張していますが、調査委員会として前述したとおり、3名の県議会議員の供述を採用し、「資料は見せた」と認定しました。
第三者委「根回しも否定する知事の供述は不自然」
一方、斎藤知事は自らの指示を否定し、「総務部長として自らの判断で議会執行部に元県民局長の私的情報の共有を行ったものである」と供述。調査委員会は「一般的なパターンでの情報共有すら否定する知事の供述には不自然さを否めない」と判断。
片山元副知事、井ノ本元総務部長、D氏の3名の供述が時期も内容も一致していることから、第三者委員会は知事の証言は合理的ではないとして採用せず、秘密であるべき情報を漏えいさせたのは知事の可能性が高い、と結論づけました。
調査にあたった弁護士の工藤涼二委員長は5月27日に開催された記者会見で「大変プレッシャーのかかる判断だった。知事が指示を出した可能性が高いとする結論を出すことに対する影響は大きいから」と述べました。委員長ですら、唖然とする完全否定の供述だったからでしょう。一般的には「根回しをしろといったが、私的情報を見せていいとは言っていない。誤って理解したのだと思う」程度にしておくものですが、知事は完全否定です。この完全否定には筆者も唖然としました。4人の供述を見れば、知事が嘘をついているのが明白ではないでしょうか。何よりも「部下の独自判断」と言い、責任を部下に押し付ける態度には唖然。リーダーとして失格です。
想像力が欠如した稚拙な行動への恥を感じよ
この調査結果を受けて、県は元総務部長を停職3か月の懲戒処分にしました。本来なら6か月相当の処分のところ、知事らの指示があったことから3か月処分。これはこれで矛盾します。知事が指示を否定しているのに、知事の指示があったことを前提に懲戒処分を6か月から3か月へと軽くするとは。合理性がありません。一体兵庫県はどうなっているのでしょうか。
井ノ本氏は懲戒処分を受けたことについて「私の業務行為が情報漏えいと評価されたものであり、誠に残念だ。審査請求および執行停止の申し立てを行い、正当性を主張したい」と自らの行動の正当性を主張する構え。斎藤知事は「指示していないという認識だが、情報漏洩の全体責任をとって減給する」と発表。知事個人の責任を否定し、全体責任に問題をすり替えて収束を図ろうとしています。つまりは、知事も井ノ本氏も第三者委員会の調査結果を受け入れない異常事態。みっともない姿をさらけ出しているとしか言いようがありません。
この調査結果を読むと、3人の側近と知事らはガバナンスが全く機能していないと感じます。元県民局長の私的情報をどう扱うべきか議論しなかったのか、知事が指示しても側近は反対をしなかったのか、それがどれほど卑劣な行為であるのか意見を言わなかったのか、人に知られたくない情報を知られたときどのようなリスクが次に起こるのか。
まさか県民局長が自死するところまで追いつめられるかもしれないとは予測しえなかったのかもしれません。私的情報を面白半分に取り扱う気持ちがあったのではないでしょうか。告発のお仕置き程度の軽い気持ちであったのかもしれません。子供のいじめ問題のような構図に感じられます。あまりにも稚拙で恥さらし。自分の品位すら貶めています。筆者は学校のいじめ自殺問題を対応したことがあります。その生徒は知られたくない秘密を友人に言いふらされ、飛び込み自殺をしてしまいました。それほど秘密の暴露は人を追い詰めてしまいます。リスクマネジメントは想像力です。行政機関の幹部らは告発者の情報についてだけではなく、個人のプライバシー情報について想像力を高めて取り扱いの判断をしなければ、とんでもない結末が待っていることを肝に銘じる必要があります。
<参考資料>
■秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会による調査報告書の公表(2025年5月27日公表)
*元総務部長が県議らに告発者の私的情報を紙に印刷して見せ回ったと報道された件

■県保有情報漏えいの指摘に係る調査に関する第三者調査委員会の調査報告書公表(2025年5月13日公表)
*告発者に関係するPCデータ情報がSNS等に掲載された件

<筆者によるこれまでの兵庫県問題執筆>
兵庫県、内部告発文書作成の職員が死亡 事実調査よりも犯人捜しと懲戒処分を優先した罪深き対応 2024年7月30日

兵庫県文書問題が混迷していった原因を考える なぜ百条委員会と第三者委員会が必要だったのか 2025年3月17日

兵庫県文書問題 第三者委員会調査報告書が発表されたが収束せず なぜ どうすればいい 2025年5月7日
