「Psychoneurosis(精神神経症)」という語は、かつて精神科や精神分析の領域で広く使われていた用語であり、“neurosis”(神経症)とほぼ同義とされることが多いですが、その背景には深い歴史的・理論的文脈があります。現在は学術的には使われませんが、一般の人が使うことはあるようです。その場合は、以下のような厳密な意味では使わず、単に「精神的不調」の意味で使うことがあると思います。
つまり、ここでは詳しく、「精神が原因の神経症」と説明していますが、一般の人の場合は、「精神の症状や神経の症状を呈する」くらいの、あいまいで広い意味で使うことがあると思います。
🔷 Psychoneurosis の定義と位置づけ
用語 | 読み | 定義 | 現在の診断分類との対応 |
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Psychoneurosis | サイコニューローシス | 心理的葛藤から生じる神経症的な症状群(不安、抑うつ、強迫、心気など) | DSMでは主に「不安障害」「強迫症群」「解離性障害」などに分化 |
🧠 語源と語構成
- psycho-(精神) + neurosis(神経症)
- つまり「精神的な要因による神経症」と強調された言い方。
🧭 位置づけの違いと歴史的背景
1. 古典的精神分析の文脈
- ジークムント・フロイトの理論では、「神経症(neurosis)」は無意識的葛藤(たとえばエディプス葛藤)や抑圧から生じる。
- この意味で、”psychoneurosis” は、精神力動的背景をもつ神経症という含意を持つ。
➡︎ 神経症(neurosis)= psychoneurosis(心理的葛藤による神経症)
2. 20世紀半ばの精神医学
- 精神疾患を大きく分けて:
- psychosis(精神病)
- psychoneurosis(精神神経症)
- これは、現実検討力の有無を軸とした分類の中で、psychoneurosis が psychosis に対置される用語であった。
3. DSM-III(1980年)以降の変化
- DSM-III以降、アメリカ精神医学会は「psychoneurosis」や「neurosis」という用語を公式分類から排除。
- 理由:
- 客観的診断が困難(力動的仮説に依存しすぎる)
- 科学的検証が困難な構造(エディプス葛藤など)
- 現在では、**機能的分類(症状に基づく診断)**が中心:
- 不安障害(Anxiety Disorders)
- 強迫症(Obsessive-Compulsive Disorder)
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 身体症状症(Somatic Symptom Disorder)
- 解離性障害(Dissociative Disorders)
🔍 現代における「Psychoneurosis」の意味合い
文脈 | 使用される場合 |
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精神分析理論 | フロイト派やラカン派など、力動論的文脈で使われることがある |
古典的文献 | 1950年代以前の精神医学・心理学文献では頻出 |
一般用語 | 今日ではほとんど使われない。使うと古典的、またはあいまいな印象を与える |
📝 まとめ
項目 | 内容 |
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Psychoneurosis は | 精神的(無意識的)葛藤に由来する神経症 |
Neurosis とほぼ同義 | だが、psychoneurosis はとくに精神力動論的含意が強い |
現代分類では使われない | DSM・ICDでは削除され、症状別の具体的診断名に置き換え |
学術的・歴史的には重要 | 精神分析や古典精神医学を学ぶうえで核心的概念 |