IFSですね。確認強迫以外への適用について、加害強迫から始めます。
IFS(内的家族システム療法)の適用:加害強迫
第1回面接:初期アセスメントとIFSの導入
場面設定
患者:田中誠(仮名)、34歳、会社員。 包丁や刃物を見ると「人を刺してしまうかもしれない」という強迫観念が生じ、台所に入れない。電車のホームでは「人を突き落とすかもしれない」と感じ、電車通勤を避けている。妻と2人暮らし。OCD歴8年。過去にERP(暴露反応妨害法)を試みたが中断。
面接の流れ
治療者:田中さん、今日はいらしてくださってありがとうございます。最初に少し聞かせてください——ERPを以前試みて中断されたということでしたが、そのときどんなことがあったか教えてもらえますか?
田中:包丁の前に立つ練習をするように言われたんですが……もう、怖くて怖くて。「やっぱり自分は危険な人間なんじゃないか」という気持ちが強くなってしまって、続けられなかったんです。
治療者:それは苦しかったですね。今日ご紹介したいアプローチは、ERPとは少し違って、「怖い」と感じている田中さんの内側に直接アクセスしていくやり方です。いきなり怖いものに向き合うよりも、まず「怖がっている自分」に会いに行く、というイメージです。
田中:……それは、どういうことですか?
治療者:私たちの心の中には、さまざまな「パーツ」と呼ばれる部分があります。強い不安を感じる部分、自分を守ろうとする部分、傷ついた部分……。強迫の症状も、何らかのパーツが担っていることが多いんです。それらのパーツと対話しながら、なぜそのパーツがそれほど必死なのかを理解していく——それがIFSというアプローチです。
第2回面接:パーツのマッピング
治療者:前回、IFSの基本的な考え方をお話ししました。今日は田中さんの内側にいるパーツを、一緒に「地図」のように描いていきたいと思います。包丁を見たとき、どんなことが心の中で起きますか?できるだけ細かく教えてください。
田中:まず、見た瞬間に……ぞわっとした感覚があります。で、「刺す映像」が浮かんで、次の瞬間に「また来た、怖い」という感じ。それから「台所から出なきゃ」という気持ちと、「でも逃げたらダメだ、弱い」という声も聞こえてくる気がして……全部がいっぺんに押し寄せてくる感じです。
治療者:丁寧に教えてくれましたね。今おっしゃったことの中に、すでにいくつかのパーツが見えています。整理しながら確認させてください。
まず「ぞわっとした感覚と映像」を持ってくるパーツ——これを「警戒パーツ」と呼んでみましょうか。 それから「怖い、逃げなきゃ」という、田中さんを台所から引き離そうとするパーツ——これは典型的な「保護者パーツ(マネジャー)」です。 そして「逃げたらダメだ」と批判してくる声——これは「批判者パーツ」と言えます。
田中:……言われてみると、確かにバラバラな声が頭の中にある気がします。
治療者:そうなんです。一つの「自分」が感じているというより、複数の声が同時に鳴り響いている感じ、ありますよね。今日はその中で、最も声が大きい「逃げなきゃパーツ」に、少し話を聞いてみたいのですが、いかがですか?
【治療者の意図】 加害強迫の患者は「自分全体が危険」という融合した自己像を持ちやすい。パーツに分けることで、「危険なのは自分全体ではなく、特定のパーツが生み出しているプロセスだ」という脱同一化を促す。これがIFSの最初の治療的ポイントになる。
第3回面接:保護者パーツとの対話
治療者:今日は「逃げなきゃパーツ」と直接対話してみましょう。少し目を閉じて、楽な姿勢をとってみてください。……今、田中さんの内側に注意を向けたとき、その「逃げなきゃ」という感覚はどのあたりにありますか?体の感覚として。
田中:(しばらく沈黙)……胸のあたりです。ざわざわした感じ。
治療者:胸のあたりにいるんですね。そのパーツに、今どんな気持ちを感じますか?——怒り、恐れ、感謝、迷惑……何でも構いません。
田中:……正直、迷惑です。こいつのせいで生活がぐちゃぐちゃだから。
治療者:その「迷惑だ」という気持ちも、また別のパーツからきているかもしれません。IFSでは、まず「8つのC」——好奇心(Curiosity)、穏やかさ(Calm)、明晰さ(Clarity)……という、セルフの状態から、そのパーツに近づくことが大切です。「迷惑だ」という気持ちを少し横に置いて、ただ「このパーツはなぜそこにいるんだろう?」という好奇心だけで見てみることはできますか?
田中:(間)……やってみます。
治療者:そのパーツに聞いてみてください——「あなたは何をしようとしているの?」と。答えは言葉じゃなくてもいいです。イメージや感覚でも。
田中:(長い沈黙)……「守ろうとしている」という感じがします。妻を、というか……私を、かな。
治療者:そうですか。何から守ろうとしているんでしょう?
田中:……「本当にやってしまう」ことから、かな。でも……それって、おかしいですよね。やらないのに。
治療者:おかしくないですよ。そのパーツは、田中さんが「やってしまうかもしれない」と信じている——だから必死に逃がそうとしている。このパーツは田中さんの敵じゃなくて、間違った信念を持ちながらも、精一杯守ろうとしているんです。
田中:(涙ぐむ)……ずっとこいつが邪魔だと思っていたけど、そういうことか。
【治療者の意図】 保護者パーツへの「感謝と理解」を確立することがIFSの核心的ステップ。加害強迫の文脈では、このパーツが「自分は危険だ」という中核信念に基づいて機能していることが多く、ここでその構造を明らかにする。
第4回面接:追放者パーツへのアクセス
治療者:前回、「逃げなきゃパーツ」が田中さんを守ろうとしていることがわかりました。今日は一歩進んで、そのパーツが「守ろうとしている」もの——つまり、奥に隠れているパーツに近づいてみたいと思います。準備はいいですか?
田中:……怖い気持ちもありますが、やってみます。
治療者:「逃げなきゃパーツ」に、「今日は奥にいる子に会いに行っていいか」と許可を求めてみてください。
田中:(目を閉じて)……「危ない」って言ってます。まだ早いって。
治療者:わかりました。そのパーツの心配を尊重しましょう。「あなたの心配はわかった、でも私(セルフ)が一緒にいるから大丈夫」と伝えてみてください。
田中:(しばらくして)……少し引いてくれた気がします。
治療者:では、奥にいるパーツにそっと近づいてみてください。どんなイメージが浮かびますか?
田中:……小さい子どもがいます。暗いところに一人でいる感じ。
治療者:その子に会えましたね。今どんな気持ちがしますか?
田中:……かわいそうで。なんでこんな暗いところにいるんだろうって。
治療者:その子に聞いてみてください。「何があったの?」と。
田中:(長い沈黙、声が詰まる)……小学校のとき、すごく怒りっぽくて、友達を傷つけてしまったことがあって……そのとき親に「お前は人を傷つける子だ」と言われた記憶が……。
治療者:(静かに)その子は、その言葉をずっと持ち続けていたんですね。「自分は人を傷つける存在だ」という重荷を。
田中:(泣く)……そうか、だからずっと怖かったのか。
【治療者の意図】 加害強迫の追放者には、「自分は本質的に危険・邪悪な存在だ」という幼少期の負荷を帯びた信念が潜んでいることが多い。この核心部分へのアクセスと目撃(witnessing)がIFSの最も重要な治療的瞬間となる。
第5回面接:アンバーデニング(荷降ろし)
治療者:今日は前回出会ったあの子どもパーツのところに、もう一度戻ってみましょう。あの子はまだいますか?
田中:(目を閉じて)……います。まだ暗いところにいる。
治療者:セルフとして、その子のそばに行ってみてください。その子に何か伝えたいことはありますか?
田中:……「一人にしていてごめん」って言いたい。
治療者:伝えてみてください。その子はどんな反応をしていますか?
田中:……顔を上げました。
治療者:その子が背負っている荷物——「自分は人を傷つける存在だ」という信念——それは、本当は誰の言葉だったか、今の田中さんはわかりますか?
田中:……親が、怒りに任せて言った言葉です。子どもの自分が悪いんじゃなかった。
治療者:その子にそれを伝えてあげてください。
田中:(静かに)……「それはあなたのせいじゃない。あなたは危険な人じゃない」って言いました。
治療者:その子は今どんな様子ですか?
田中:……泣いています。でも、ほっとした顔をしている。
治療者:その荷物——「自分は危険だ」という信念——を、その子から外してあげることができますか?どこかに置いていく、流す、燃やす……どんなイメージでも構いません。
田中:……川に流しています。流れていく。
治療者:流れていきましたか。その子は今どこにいますか?
田中:……明るいところに出てきた気がします。
【治療者の意図】 アンバーデニング(荷降ろし)によって、追放者パーツが「自分は危険な存在だ」という核心信念を手放す体験をする。これにより保護者パーツ(逃げなきゃパーツ)が守るべき対象が変化し、強迫的回避行動の駆動力が根本から変容する。
第6回面接:統合と日常生活への橋渡し
治療者:この数回の面接で、田中さんの内側でいくつかの大きな変化がありました。今日は少し振り返って、日常生活でどんな変化があったか聞かせてもらえますか?
田中:……正直、びっくりしているんですが、先週、妻と一緒に台所に入ることができました。包丁を見たとき、いつもの「ぞわっ」は来たんですが……なんか、「あ、あの子が怖がってるだけだ」という感じがして、前ほど圧倒されなかった。
治療者:それは大きな変化ですね。「あの子が怖がっている」——つまり、パーツとして見ることができた。
田中:はい。「自分が危険」じゃなくて、「怖がっているパーツがいる」という感じ、初めてでした。
治療者:これがIFSの目指すところです。症状を「自分の本質」ではなく「パーツの反応」として見られるようになると、セルフとしての空間が生まれる。その空間から、パーツを助けることができる。
加害強迫へのIFS適用における重要ポイント(まとめ)
| ステップ | 内容 | 加害強迫特有の注意点 |
|---|---|---|
| パーツの外在化 | 「危険な自分」→「危険を感じているパーツ」へ | 自己全体との融合解除が最優先 |
| 保護者パーツへの感謝 | 回避・儀式行為パーツの肯定的意図を理解 | 批判せず、まず「なぜ守るのか」を聞く |
| 追放者へのアクセス | 核心信念「自分は危険/邪悪だ」の起源を探る | 幼少期の羞恥・罰体験が多い |
| 荷降ろし | 「危険な存在だ」という信念の解放 | 急がず保護者パーツの許可を得て進む |
| 統合 | セルフリードによる日常行動の変化 | ERPとの併用も検討可 |
