こども性暴力防止法

こども性暴力防止法

こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)|こども家庭庁
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日本版DBSとは? 制度の内容や懸念される問題、導入時期を解説 人権・平等 子ども 教育

1.そもそもDBSとは DBSとは、イギリスにおける「Disclosure and Barring Service(犯罪証明管理および発行システム)」の略称であり、子どもの安全確保を目的として、子どもに接する仕事に就く人に対して、犯罪歴を照会することが義務付けられる制度のことをいいます。

イギリスでは、1997年から犯罪歴の照会制度が始まり、2012年にDBS制度が確立されました。イギリスでは基本的に職種にかかわらず、すべての就労者の犯罪歴を照会できるとされています。

特に子どもに関わる職業または活動をおこなう事業者が、子どもに対する性的虐待などの犯罪歴のある人を雇用する(ボランティアなども含む)ことは犯罪となるため、子どもに接する仕事に就く人の犯罪歴を照会することが必要となります。

ドイツやフランスなどでも、同種の制度が導入されています(参照:イギリス・ドイツ・フランスにおける犯罪歴照会制度に関する資料|こども家庭庁)。

2.日本版DBSとは 日本版DBSとは、性犯罪を防止する措置の一つとして、対象の事業者に対し、子どもに接する仕事に就く人について、性犯罪歴の確認を義務付ける制度のことです。イギリスのDBS制度を参考にしたため、日本版DBSと呼ばれています。

日本でも、子どもに対する性犯罪は、子どもの心身に生涯にわたって回復し難い重大な影響を与えることをふまえ、子どもに対する性犯罪の防止を目的として、2024年6月に「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」が成立しました。

こども性暴力防止法では、対象となる事業者に対して、子どもへの性犯罪を防止するためのさまざまな措置を講じることが義務付けられています。その一つの手段として、一定の事業者に対し、子どもに接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認することが義務付けられました。

日本版DBSは、こども性暴力防止法における性暴力防止措置の一つとして設けられた制度です。

3.日本版DBSが求められる背景 日本版DBSが成立した背景として、近年、子どもに対する性犯罪が増加傾向にあるだけでなく、悪質な事案が増えていることがあります。他方で、保育や教育の場は、性犯罪が起きやすい背景事情があるにもかかわらず、これまでの制度では対応が不十分だったという点が指摘できます。

(1)相次いで発生している小児性犯罪 こども家庭庁は、2023年6月13日に「こども・若者の性被害に関する状況等について」を公表しました。

その報告書において、若年層(16~24歳)のうち、4人に1人以上(26.4%)が何らかの性暴力被害にあっており、若年層の12.4%は身体接触をともなう被害に、若年層の4.1%は性交をともなう被害にあっているとされています。また、強制性交罪(いわゆる「強姦(ごうかん)」「レイプ」)の認知件数のうち、被害者が20代以下である場合が8割以上、10代以下に限っても4割以上を占めており、子どもや若者が被害者となる強制性交罪の認知件数は増加傾向にあります。0~12歳では、2018年に比べ1.4倍以上となっているとされています。

また、文部科学省が公表した「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」を見ても、2022年度だけでも153人の教員が性加害を理由に懲戒免職などの処分を受けています。

さらに、こども家庭庁が日本版DBS導入にあたって有識者による検討会を開催した際に、会議で配布された資料によれば、特に子どもへの不同意わいせつ罪や強制性交罪については、再犯率がほかの犯罪類型と比較して高いことが示されています(参照:性犯罪等に関する資料|こども家庭庁)。

実際にニュースでも、ベビーシッターとして派遣されていた人が、20人の男児に性的暴行を加えた事案や、大手学習塾において、講師が女児を繰り返し盗撮していた事案など、自己の立場を利用して子どもに対する性犯罪をおこなう事案が近年相次いで報道されています。

このような状況をふまえ、子どもを悪質な性犯罪から守るために、子どもに対する性犯罪を防止する措置を講じる必要性が高まっています。

(2)子どもの未熟性や教育・保育などを提供する事業者の特殊性 性犯罪は、子ども・大人に限らず、被害者の心身に回復困難な被害を生じさせるものです。特に子どもへの性犯罪は、子どもの性的知識の未熟さやその立場の弱さに付け込まれておこなわれることから、本人が被害申告をよりしにくい状況にあります。第三者も被害に気付きにくく、深刻な状況が継続する可能性が高いものです。

また、教育・保育を提供する事業者は、以下三つの特徴があります。

支配性 子どもを指導する立場にある人は、子どもに対して支配的・優越的な立場に立てる非対称の力関係があること 継続性 子どもと生活を共にするなどして、子どもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと 閉鎖性 保護者などの監視の目が行き届かない状況下での預かり・養護・教育などをするものであり、第三者の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であること このような特徴から、そもそも教育・保育事業者には性犯罪が生じやすい環境があるといえ、特別に注意を払うことが求められます。

(3)これまでの制度の不十分さ これまで、子どもの性犯罪に対する防止制度がまったくなかったわけではありません。例えば、2021年には「教員による性暴力防止法(教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律)」が施行され、子どもに対する性暴力をおこなった教員は教員免許が失効し、教員の採用者は失効した者についてデータベースで確認できる仕組みになっていました。

また、2023年には児童福祉法が改正され、同様の制度が保育士にも導入されたほか、児童生徒性暴力等防止法で免許が失効した者について、保育士の登録も取り消されることになっています(参照:令和4年6月に成立した改正児童福祉法について|厚生労働省)。

しかし、これらは事業者が採用前にデータベースを確認することが前提であり、見落としがあり得ます。また、これらは子どもへの性犯罪をおこなったことによって教員免許が失効し、保育士登録が取り消されたことが前提です。そのため、たとえ性犯罪の前科があっても教員免許や保育士登録がそのままであれば、事業者は犯罪歴を知りようがない制度になっており、十分な対応とはいえませんでした。

4.日本版DBSの内容 ここでは、2024年に成立した日本版DBSの内容を詳しく解説します。

(1)日本版DBSの対象となる事業者 日本版DBSの対象となる事業者は、次の二つに分かれます。

  1. 性犯罪歴の照会が義務となる事業者
  2. 認定を受けたうえで、措置を講じる事業者

学校・認定こども園・保育所などの、学校教育法や児童福祉法などにもとづいて認可を受けている事業者については、こども性暴力防止法にもとづき日本版DBSの対象となります。一方、認可外保育施設や学習塾などについては、認定制とし、認定を受けた事業者についてのみ、日本版DBSの対象となります。

認定を受けた事業者は、認定を受けている旨の広告表示が可能となり、安全な事業運営をおこなっていることを対外的にアピールできます。このことにより、消費者側が事業者を選ぶ際に、防止措置をおこなっている事業者を積極的に選択することになれば、防止措置をおこなっていない事業者は市場原理により淘汰(とうた)されることが期待できます。

事業者の種類 例 義務となる対象事業者 ● 学校 ● 幼稚園 ● 認定こども園 ● 認可保育施設 ● 児童館 ● 児童養護施設 ● 児童発達支援 など 認定制度の対象事業者 ● 民間の学習塾 ● 子どもを対象にするスポーツクラブ ● 子どもを対象にするダンススクール ● 放課後児童クラブ(いわゆる学童クラブ) ● 認可外保育施設 など 対象外の事業者 ● 個人でおこなっている家庭教師やベビーシッター ● 医療機関 など 照会の対象となる職員については、新規に採用する人だけではなく、現職の人も含みます。施行時に現職の職員については、施行後すぐに照会する必要まではありませんが、施行日から3年以内の政令で定める日までに確認しなければなりません。

また、雇用形態は直接雇用だけでなく、派遣・業務委託・ボランティアなども対象になります。さらに、一度犯罪歴を照会した従業員についても、その後も定期的(5年ごと)に再度照会をすることが求められます。

なお、性犯罪を照会した事業者は、犯罪事実確認のための実施状況を記載した帳簿を作成し、適正に管理する必要があります。仮に、照会した犯罪歴を第三者に漏洩(ろうえい)した場合には罰則も定められています。

(2)日本版DBSの対象となる子どもの定義 日本版DBSは、子どもと接する事業者を対象とした制度であり、ここでいう「子ども」(こども性暴力防止法上は「児童」)とは、大学以外の学校の生徒または原則18歳未満の人すべてを指しています。また、法律上、事業者側の性質によって日本版DBSの対象となるかどうかが定義されています。このため、その事業者が18歳以上の学生と接していたとしても対象となることがあります。

例えば、高校も日本版DBSの対象事業者ですが、高校3年生は18歳以上の人が大半を占めていたとしても、義務がある対象事業者となります。

(3)照会対象となる性犯罪 性犯罪に関する前科が対象となり、不同意わいせつ罪や不同意性交罪などに加えて、痴漢などいわゆる迷惑防止条例違反も対象となります。また、被害者が子どもである場合に限定されず、子ども以外が被害者である場合の性犯罪についても対象となります。

他方で、下着の窃盗罪や、ストーカー規制法違反については、性暴力とは性質が異なるとして、照会の対象外とされました。

なお、対象の性犯罪で逮捕されたとしても、不起訴になった場合は「前科」にはならず、その履歴は照会の対象となりません。

(4)性犯罪歴の照会期間 性犯罪歴の照会期間は、性犯罪の判決によって下記のとおり変わります。

実刑判決の場合 刑の執行終了から20年間 執行猶予判決の場合 裁判確定日から10年間 罰金刑の場合 刑の執行終了から10年間 これは一般的な刑の消滅よりも長い期間が設定されています。「刑の消滅」とは、国家資格などにおいて刑罰を受けたことにより資格が制限される場合に、その制限がなくなる期間をいいます。

例えば、医師法において例えば医師免許であれば「罰金以上の刑に処せられた者」には、免許を与えないことができるとされています。

一般的な罰金刑の場合、罰金を支払ってから罰金以上の刑が確定することなく5年が経過したときに刑が消滅します。執行猶予であれば執行猶予期間経過後、実刑判決の場合であれば刑の執行が終了したときから、罰金以上の刑が確定することなく10年を経過したときが、刑の消滅です。

性犯罪歴については、子どもへの悪影響を考慮して、刑の消滅よりも長い期間犯罪歴が照会できることになっています。

(5)性犯罪歴の照会方法 照会の手順は下記のとおりです。

対象の事業者は、こども家庭庁に対して、子どもに関する仕事に就く人について、性犯罪歴に関する確認申請をおこなう。 本人は、①の申請を受け、こども家庭庁に対し、戸籍情報などを提出する。 こども家庭庁は、法務省のデータベースをもとに事業者の性犯罪歴を照会する。 こども家庭庁は、性犯罪歴に関する証明書を事業者に対して交付する。

日本版DBSの性犯罪歴の照会方法(筆者作成) ただし、性犯罪歴がある場合には、4の前に、こども家庭庁から本人に通知がなされ、本人は通知内容の訂正請求が可能となります。訂正可能期間は2週間です。また、本人は一定期間、内定辞退や退職が可能であり、内定辞退や退職をした場合には、事業者に証明書は交付されません。

事業者は、性犯罪歴に関する証明書の内容をふまえ、子どもに対して性暴力がおこなわれるおそれがあるときは、配置転換や、場合によっては解雇など、子どもへの性暴力を防止するために必要な措置を講じる必要があります。

5.日本版DBSはSDGs目標の達成にも欠かせない 持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」では、すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進することが掲げられています(参照:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ p.15|外務省)。

質の高い教育を確保するためには、子どもに対して性犯罪や性暴力がおこなわれることを防止し、適切な教育環境を整備する必要があります。日本版DBSの導入は、適切な教育環境の提供に不可欠であり、SDGsの目標達成に欠かせないものであると考えられます。

また、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」において、ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることが掲げられています(参照:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ p.15|外務省)。

大人への性犯罪と同じく、子どもへの性犯罪も被害者は女性が多いことが指摘され、それは各種統計にも表れています。目標5において、女性に対するあらゆる暴力の排除が掲げられており、そのなかには当然性的暴力も含まれています。性犯罪から子どもを守ることはSDGs目標5とも密接に関係します。

6.日本版DBSの問題点 日本版DBSについては、さまざまな問題点や課題が指摘されています。ここでは、主な問題点を三つ解説します。

(1)犯罪歴に関する情報の適切な管理 犯罪歴に関する情報は、個人情報保護法(個人の情報に関する法律)において、本人に対する不当な差別や偏見、その他の不利益が生じないように、その取り扱いに特に配慮を要するとされている「要配慮個人情報」に該当します。

事業者は、重要なプライバシー情報を取り扱うこと、またこのような情報が漏洩した場合には本人に対する不当な差別や偏見などが生じるおそれがあることから、情報を安全に管理するために、適切な管理体制を整備することが法律上義務付けられています。

事業者が情報管理を怠って犯罪歴に関する情報が流出した場合、こども性暴力防止法において、罰則も定められています。

これまで特に民間の事業者が、従業員の犯罪歴を取り扱うということは一般的にありませんでした。そのため、事業主として、適正な個人情報の管理が改めて求められることになり、現場の混乱が予想されます。

(2)現職員に性犯罪歴があった場合の対応 事業者は、性犯罪歴に関する証明書の内容をふまえ、子どもに対して性暴力がおこなわれるおそれがあるときは、配置転換など、子どもへの性暴力を防止するために必要な措置を講じる必要があります。

どのような場合に子どもに対して性暴力がおこなわれる「おそれ」があるのか、また、必要な措置としてどのような場合に配置転換や解雇が許容されるのか、といった判断基準が法令上は不明確です。今後、こども家庭庁がガイドラインを公表することになっていますが、基準が明確化されることが望まれます。

(3)対象事業者の範囲や照会対象となる犯罪の種類 前述のとおり、日本版DBSの義務の対象となる事業者は、学校・認定こども園・保育所などの、学校教育法や児童福祉法などにもとづいて認可を受けている事業者です。認可外保育施設や学習塾などについては、認定を受けた事業者のみに対して義務を課されることになります。

対象事業者について、個人でおこなっている家庭教師やベビーシッターなどについては対象外です。また、医療機関についても対象外となりました。対象事業者の拡大は、今後の検討課題です。

さらに、下着の窃盗罪やストーカー規制法違反については、性暴力とは性質が異なるとして、照会の対象外とされました。しかしこれには批判も多く、照会の対象となる犯罪の種類についても引き続き検討する必要があると考えられます。

7.日本版DBSの導入に向けた流れと今後の展望 日本版DBSが導入されるまでの主なできごとと、今後の動きを以下にまとめました。こども性暴力防止法は2024年6月に成立し、公布後2年6カ月以内に施行されることになります。

時期 できごと 概要 2023年6月27日~ 「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」を開催 教育・保育施設や子どもが活動する場などで働く際に、性犯罪歴などについて証明を求める仕組みの導入に向けた検討を進めることとされました。 2023年9月12日 「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議報告書」を公表 日本版DBSの制度設計にあたっての基本的な視点や個別論点の検討結果について公表されました。 2024年3月19日 「こども性暴力防止法」を閣議決定 日本版DBSを導入するための法案が閣議決定されました。 2024年6月19日 「こども性暴力防止法」の成立 日本版DBSを導入するための法案が、参議院本会議・衆議院本会議において、全会一致で可決され、成立しました。 2026年度中 「こども性暴力防止法」が施行 施行前にガイドラインなどが整備される見込みです。 8.日本版DBSの今後について かねてより、子どもを性犯罪から守る仕組みとして日本版DBSの導入は急務といわれていました。近年、子どもに対する悪質な性犯罪をおこなう事案が深刻化して報道などでもクローズアップされたこともあり、2024年にようやく成立しました。

施行はまだこれからですが、制度開始にあたって、特に照会が義務となる教育・保育事業者には一定の混乱が予想されます。また、日本版DBSには前述のとおり、特に事業者の範囲や照会対象となる性犯罪の範囲について課題が残されており、引き続き制度改善の余地があると考えられます。

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