回復モデルが抱えている違和感の正体と、それでも人が意味から逃れられない理由

回復モデルが抱えている違和感の正体と、それでも人が意味から逃れられない理由


回復モデルは、なぜどこか息苦しいのか

――進化論と「意味」のあいだで

精神医療や福祉の世界では、近年「回復モデル」という言葉がよく使われる。

回復とは、
症状が消えることではなく、
その人なりの人生を取り戻すことだ――
そう説明されることが多い。

理念としては、美しい。
だが、現場にいると、どこか引っかかる瞬間がある。

回復モデルと進化論の「相性の悪さ」

回復モデルには、暗黙の前提がある。

  • 人は回復する
  • 回復は望ましい
  • 回復には方向性がある

つまり、時間に意味と方向が与えられている

しかし、進化論的な世界観では、
時間はただ流れるだけだ。

  • 良くなることもある
  • 悪くなることもある
  • 停滞することもある
  • 消えることもある

そこに「正しい回復ルート」は存在しない。

進化論から見れば、

回復できなかった人生
再発を繰り返した人生
社会復帰しなかった人生

これらはすべて、
評価も裁定もされない試行錯誤の一部だ。

回復モデルは、
この無方向性に、どうしても耐えきれない。

回復モデルが生む、静かな圧力

回復モデルは優しい顔をしているが、
時にこんな圧を生む。

  • 「回復を目指さなくていい」と言いながら
  • 「回復物語」を語れる人だけが可視化される

すると、何が起きるか。

  • 回復できない人は、語れなくなる
  • 立ち止まる人は、置いていかれる
  • 「希望を持てない自分」を恥じる

これは進化論的に言えば、
再び意味による選別が始まった状態だ。

それでも、回復モデルが必要な理由

では、回復モデルは間違っているのか。

そうではない。

進化論は冷静だが、
そのままでは人は耐えられない。

  • 無意味
  • 無方向
  • 無保証

この三つを、
人間の神経系は長時間抱えられない。

回復モデルは、
進化論が切り捨てた「意味」を、臨床的に再導入する装置だ。

それがあるから、
人は今日をやり過ごせる。

それでも人は、意味を求めてしまう

では、なぜ人は、
これほどまでに意味を求めるのか。

進化心理学的に見ると、
これはかなり合理的だ。

① 意味は「予測装置」である

意味とは、

何が起きて
次に何をすればいいか

をまとめてくれる物語だ。

意味を持つ人は、

  • 行動が安定し
  • 不安が減り
  • 集団から外れにくい

結果として、生き延びやすい。

意味は真実である必要はない。
役に立てば、それでよかった

② 物語を持つ個体は、集団で生き残った

人類は、
一人ではほとんど何もできない。

  • 協力
  • 信頼
  • 役割分担

これを可能にしたのが、
「共通の意味」だった。

神話、宗教、国家、理念。
どれも、進化論的には
集団をまとめるための物語だ。

意味を信じられない個体は、

  • 行動が読めず
  • 協力しづらく
  • 集団から浮く

その結果、淘汰されやすかった。

③ 意味は「痛みを遅らせる鎮痛剤」

もう一つ重要なのは、
意味が「苦痛耐性」を上げる点だ。

  • なぜ苦しいのか
  • いつまで耐えればいいのか
  • その先に何があるのか

これが語れると、人は驚くほど耐えられる。

意味は、
痛みを消すのではなく、
感じる速度を遅くする

進化的には、これは極めて有利だった。

回復モデルと進化論の「相性の良さ」

ここで視点を反転させる。

回復モデルは、
進化論と相性が悪いようで、
実はとても相性がいい。

なぜなら、回復モデルは、

「これは真理だ」とは言わない
「役に立つ物語だ」とだけ言う

からだ。

  • 回復を信じられる人には、回復を
  • 信じられない人には、休止を
  • どちらも無理な人には、生存を

提供する。

それは、進化論的に言えば、
多様な適応戦略を残す仕組みだ。

結び:意味は真実でなくていい

進化論が教えてくれるのは、
残酷な真実ではない。

世界は、あなたの意味を必要としていない
しかし、あなたは意味を必要としている

という、ねじれだ。

回復モデルは、
このねじれを、現場レベルで調整する試みだ。

だからこそ、

  • 回復しなくてもいい
  • 意味を見つけなくてもいい
  • ただ生き延びてもいい

そう言える余白を、
失ってはいけない。

意味は、
信じてもいいし、
手放してもいい。

進化論の世界では、
それ自体が、立派な適応なのだから。


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