REBTの歴史と発展
古代・哲学的起源
REBTの思想的ルーツは非常に古く、東西の哲学にまたがっています。
東洋の哲学者
- 孔子(Confucius)
- 老子(Lao-Tsu)
- 仏陀(Buddha)
古代ギリシャ・ローマの哲学者
- エピクロス(Epicurus)
- エピクテトス(Epictetus)― 「人は出来事によって悩むのではなく、出来事に対する見方によって悩む」と著書『エンキリディオン』に記した
- マルクス・アウレリウス(Marcus Aurelius)
これらストア哲学の本質は、外的出来事ではなく、それに対する解釈・見方が感情を生むというREBTの中核思想と直接つながっています。
近代的前身(20世紀以前〜1950年代)
直接的な先駆者たち
| 人物 | 貢献 |
|---|---|
| アルフレッド・アドラー | 「人の行動はその考えから生まれる」というA-B-C的人間観を提唱。REBTの最も直接的な前身とされる |
| ポール・デュボワ | 説得的形態の心理療法を実践 |
| アレクサンダー・ヘルツベルク | 宿題課題(homework assignments)の発案者の一人 |
| フレデリック・ソーン | 「指示的療法(directive therapy)」を創案 |
| ヒポリット・ベルンハイム、アンドリュー・ソルター | 催眠・暗示を積極的・指示的に活用 |
| フランツ・アレクサンダー、トーマス・フレンチら | フロイト派から大きく逸脱した精神分析的療法を実践し、積極的指示療法の先駆けとなった |
1950年代に並行して発展した理論家たち
エリスがREBTを構築していた1950年代に、独立して類似の理論・方法論に到達した人々も多くいました:
- エリック・バーン(Eric Berne)
- ジェローム・フランク(Jerome Frank)
- ジョージ・ケリー(George Kelly)
- アブラハム・ロウ(Abraham Low)
- E・ラキン・フィリップス(E. Lakin Phillips)
- ジュリアン・ロッター(Julian Rotter)
- ジョセフ・ウォルペ(Joseph Wolpe)
アルバート・エリスによるREBTの誕生(1950年代)
精神分析からの離脱
エリスは1940年代後半から1950年代初頭にかけて精神分析を実践していましたが、重大な問題に気づきます。
- クライエントがどれほど洞察を得ても、幼少期の出来事をどれほど理解しても、症状はほとんど改善せず、新たな症状を作り出し続けた
- その原因は、幼少期に植え付けられた非合理な信念だけでなく、クライエント自身が今現在も能動的に自分へ非合理な要求を課し続けていることにあると気づいた
- 受動的・非指示的な手法(自由連想、感情の反映など)では、これらの深く根付いた非合理な信念はほとんど変化しなかった
「musturbation(マスターベーション)」の発見
エリスが気づいた人間の3つの根本的な要求(must):
- 自分はうまくやり、他者に認められなければならない
- 他者は自分に対して思いやりを持って公平に接しなければならない
- 環境は快適で不満がないものでなければならない
これらの強迫的な「~すべき」思考こそが、感情的問題の核心だと結論づけました。
理論の命名の変遷
1955年頃 合理療法(RT: Rational Therapy)として開始
↓
合理感情療法(RET: Rational Emotive Therapy)に改名
↓
1993年 合理感情行動療法(REBT: Rational Emotive Behavior Therapy)に改名
※認知・感情・行動の三つを統合する本質をより正確に表現するため
1956年、エリスはシカゴで開催されたアメリカ心理学会年次大会でREBTに関する最初の論文を発表しました。
制度的発展
アルバート・エリス研究所の設立(1959年)
エリスは1959年にニューヨーク市に非営利の科学・教育機関を設立し、以下を通じてREBTを普及させました:
- 合理的生き方の原則に関する成人教育コース・ワークショップ
- 大学院後教育プログラム
- 個人・グループ療法のクリニック
- 書籍・視聴覚教材・学術誌(Journal of Rational-Emotive and Cognitive-Behavior Therapy)
エリスと研究所の訣別(2004〜2007年)
晩年、エリスと研究所の関係は深刻に悪化しました。2005年に理事会はエリスを追放し、研究所の使命をREBT単独からCBT全般の推進へと変更しました。エリスはREBTとCBTの混合・融合に強く反対していたためです。2006年にニューヨーク州最高裁判所がエリスの追放を不当と判決しましたが、エリスは2007年7月24日に妻デビーの腕の中で永眠しました。
エリス以後の発展
デビー・ジョフ・エリス(Debbie Joffe Ellis)
エリスの妻であり、彼の最も近い協力者として:
- コロンビア大学ティーチャーズカレッジの心理学准教授としてREBTを講義
- 世界各地でREBTのワークショップ・講演を継続
- エリスと共同執筆していたREBTと仏教に関する著作を完成
- 悲嘆・苦しみへのREBTの適用について執筆を続けている
組織的継承
- 2006年:REBTネットワーク設立
- 2012年:EllisREBTウェブサイト開設(アルバート・エリス研究所とは無関係)
- 2012年:南オーストラリアに初のアルバート・エリス専門学習センター開設
エリスの学術的評価
- アメリカ心理学会会員に「最も影響力のある心理療法家」を尋ねた調査では、カール・ロジャーズ、アルバート・エリス、ジークムント・フロイドの順で名が挙がった
- 1980年代のカナダの調査ではエリスが第1位
- 2013年のAPA年次大会でエリスは死後に**「心理学への卓越した生涯貢献」APA賞**を受賞(生誕100周年の年)
まとめ:REBTの発展の流れ
古代ストア哲学・東洋哲学
↓
アドラー・デュボワら近代的先駆者
↓
エリスによる精神分析実践と限界の発見(1940〜50年代)
↓
RT(合理療法)として誕生(1955年頃)
↓
APA発表・理論の体系化(1956〜1962年)
↓
RET→REBTへと改名・発展(〜1993年)
↓
CBTへの影響・世界的普及
↓
エリス死後もデビー・ジョフ・エリスらが継承(2007年〜)
REBTは単なる一心理療法技法にとどまらず、哲学・教育・予防にまで応用が広がり、認知行動療法(CBT)全般の先駆けとして現代心理療法に多大な影響を与え続けています。
