DSM-5-TR(2022年)におけるOCDの診断基準の内容

DSM-5-TR(2022年)におけるOCDの診断基準の内容。診断基準の構造・内容・臨床的意味。以下に、DSM-5-TR「強迫症/強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder)」の診断基準(Criteria A〜E)の内容的概要を、臨床・理論的注釈を付して提示します。


DSM-5-TR:強迫症(OCD)診断基準の構造的解説

基準A:強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在

強迫観念(Obsessions)として定義される要件(2条件)

A-1(侵入性・反復性) 反復的・持続的な思考、衝動、またはイメージが存在し、それらは障害の経過中のある時点で**侵入的かつ不要(intrusive and unwanted)**として体験され、多くの場合、著しい不安または苦痛を引き起こす。

A-2(抑制・無効化の試み) 当人は、その思考・衝動・イメージを無視または抑制しようとするか、他の思考や行為(すなわち強迫行為)によって中和(neutralize)しようとする

強迫行為(Compulsions)として定義される要件(2条件)

A-3(反復的行動または精神的行為) 反復的な行動(手洗い、順序立て、確認など)または精神的行為(祈り、数を数える、言葉を心の中で繰り返すなど)が存在し、それらは強迫観念に対する反応として、あるいは厳密に適用されなければならないルールに従って行われる。

A-4(不安・苦痛の防止・軽減、または恐ろしい出来事・状況の予防) その行動または精神的行為は、不安や苦痛を防止・軽減すること、または何らかの恐ろしい出来事や状況を防止することを目的として行われる。ただしこれらの行動・精神的行為は、それが中和・予防しようとする出来事と現実的なつながりを持たないか、または明らかに過剰である。

注記:幼児では強迫行為の目的を明示できないことがある。


基準B:時間的重篤性(Time criterion)

強迫観念または強迫行為は時間を消耗する(例:1日に1時間以上を占める)か、または臨床的に意味のある苦痛、あるいは社会的・職業的・その他の重要な機能領域における顕著な障害を引き起こす。


基準C:物質・医学的疾患の除外

症状は物質(乱用薬物、医薬品など)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。


基準D:他の精神疾患による説明の除外

症状は他の精神疾患によってより適切に説明されない。DSM-5-TRはここで複数の鑑別疾患を列挙しており、各疾患における「反復的思考」との鑑別点を示している:

鑑別対象強迫症との鑑別点
全般性不安症(GAD)現実的懸念への過剰な心配 vs. 侵入的・ego-dystonicな強迫観念
身体醜形症(BDD)外見への執着に特化
抜毛症・皮膚むしり症反復的身体行動だが強迫観念との連動が異なる
摂食障害食物・体重への観念に特化
物質関連障害・行動嗜癖快楽的側面の有無
秩序・対称性へのこだわり強迫的パーソナリティ障害との鑑別
思考吹入・妄想的思考統合失調症スペクトラムとの鑑別
繰り返し行動パターンASDとの鑑別

特定用語(Specifiers)

DSM-5-TRはOCDに対して以下の特定用語(specifier)を付与する:

1. 病識(Insight)に関する特定用語

これはDSM-5から導入された重要な次元で、3段階に分類される:

  • 良好または十分な病識(Good or fair insight):強迫信念がおそらくまたは確実に真実でないと認識している
  • 乏しい病識(Poor insight):強迫信念がおそらく真実だと思っている
  • 病識なし/妄想的信念(Absent insight/delusional beliefs):強迫信念が完全に真実だと確信している

理論的注記:この次元はpredictive processing観点から見ると、強迫信念に対するmeta-cognitive distancingの程度、すなわち「自分の信念についての信念」の柔軟性を反映しており、先生がご研究されている二次的精度推定の臨床的表現型として読める点で興味深い。

2. チック関連(Tic-related)の特定用語

現在または過去にチック症の診断歴がある場合に付与される。神経発達的基盤の差異、および曝露反応妨害法(ERP)の反応性の違いと関連するとされる。


補足事項(DSM-5-TRにおける追記・改訂点)

DSM-5-TRはDSM-5(2013)に対するテキスト改訂版(2022)であり、診断基準の数値的変更はないが、以下の点が補強されている:

  • 文化的定式化:強迫症状の文化的表現(例:宗教的強迫、汚染恐怖の文化的変異)への注意喚起
  • 有病率・経過に関するデータ更新:世界的有病率は1.1〜1.8%程度。慢性的経過をたどるものが多く、無治療では寛解率が低い
  • 性差と発症年齢:男性は女性より若年発症の傾向(小児〜青年期);女性は成人期発症がより多い
  • 自殺リスク:DSM-5-TRでは自殺念慮・自殺企図のリスク増大が明示的に言及されるようになった

以上がDSM-5-TRにおけるOCD項目の構造的内容です。原典の参照が必要な場合は、American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR) をご確認ください。

何か特定の基準について理論的に掘り下げたい点があればお申し付けください。

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