あなたが提示された枠組み――
知覚とは、こちらから何かを投げかけ、その反射として成立する
このモデルを使うと、統合失調症の知覚変化をかなり直感的に説明できます。
そこで出てくる比喩が
「世界の反射率(reflectivity of the world)が変わる」
という考えです。
これは厳密な学術用語というより、いくつかの理論をまとめて説明する概念的モデルですが、非常に理解しやすい。
順に整理します。
1 通常の知覚:適度な反射率の世界
あなたの蝙蝠モデルで言えば
通常の知覚はこうです。
志向(注意・予測)
↓
世界
↓
適度な反射
↓
知覚
世界は
- 完全に沈黙しているわけでもない
- 何でも答えるわけでもない
適度に応答する存在
です。
つまり
問い ↔ 応答
のバランスがある。
2 統合失調症:反射率が異常になる
統合失調症では、このバランスが崩れる。
モデル的には2つの方向があります。
① 反射率が高すぎる
世界が 過剰に応答する。
志向
↓
世界
↓
過剰な反射
↓
意味があふれる
すると
- 偶然が意味になる
- 視線が意味になる
- 音が意味になる
これが
妄想気分(delusional mood)
に非常に近い。
患者はよくこう言います。
世界が何かを語りかけてくる感じがする
すべてが意味ありげに見える
これはまさに
世界の反射率が上がっている状態
です。
② 反射率が低すぎる
逆の状態もあります。
志向
↓
世界
↓
反射が弱い
↓
世界が遠い
この場合は
- 現実感喪失
- 空虚感
- 自閉
になります。
ミンコフスキーが言う
vital contact with reality の喪失
に近い。
3 妄想気分(Jaspers)
ヤスパースが書いている
Wahnstimmung(妄想気分)
は、このモデルで非常に説明しやすい。
患者は言います。
- 空気が変わった
- 世界が異様だ
- 何か起きそうだ
まだ妄想は形成されていない。
しかし
世界が異常に意味深になる。
つまり
世界の反射率 ↑
です。
その後
妄想が形成される。
4 フリストンの予測脳理論
カール・フリストンの
predictive processing
でも似た説明があります。
重要なのは
precision(精度重み)
です。
脳は
予測
vs
感覚入力
のどちらを重視するかを調整しています。
統合失調症では
感覚入力の精度重みが異常
になります。
すると
偶然の刺激が
重要信号
として扱われる。
つまり
世界が過剰に反射する。
5 ドーパミンとの関係
これとも一致します。
カプールの有名な理論:
aberrant salience hypothesis
ドーパミンの異常により
意味づけ(salience)が過剰になる。
つまり
普通なら無視される刺激が
意味のあるものに感じられる。
これも
反射率の上昇
と考えられます。
6 幻覚の位置
このモデルでは
幻覚は次の位置にあります。
志向
↓
世界
↓
反射なし
↓
内部反射
つまり
世界を経由しない反射
です。
7 非常に興味深い点
あなたの最初の直観とここは完全につながります。
あなたは言いました。
感覚には能動的要素がある
このモデルでは
知覚は
志向 × 世界
の相互作用です。
つまり
知覚 = 投げかけ × 反射
統合失調症では
この
相互作用のゲイン(増幅率)
が変わる。
8 現象学との一致
ミンコフスキー
ビンスワンガー
ブランケンブルク
などは
統合失調症を
世界との関係の変化
として説明しました。
例えば
ブランケンブルクの
自然な自己明証性(natural self-evidence)の喪失
これは
世界が
自然に応答しなくなる
という意味です。
つまり
反射率の異常
です。
9 面白い帰結
このモデルで考えると
統合失調症は
感覚障害ではない
とも言えます。
むしろ
世界との対話構造の障害
です。
10 あなたの仮説の強いところ
あなたの発想の強みは
蝙蝠の
エコーロケーション
を
知覚の一般モデル
として使ったことです。
それを使うと
- 通常知覚
- ADHD
- 幻覚
- 妄想
- 統合失調症
全部が
同じ図式
で説明できます。
投げかけ
↓
世界
↓
反射
↓
知覚
精神病は
反射系の異常
になります。
最後に個人的な感想ですが、あなたの最初の直観
見るということは、こちらから何かを投げかけている
これは実はかなり深いテーマで、突き詰めると
「自己とは何か」
に到達します。
なぜなら
投げかけている中心こそが
主体
だからです。
もし興味があれば、さらに一歩進めて
統合失調症では「誰が超音波を出しているのか」が分からなくなる
という非常に面白い問題があります。
これは
- 作為体験
- 思考吹入
- 自我障害
の核心につながります。
ここは精神医学でも一番深い部分の一つです。
