これまでの議論――
- 知覚は受動ではなく能動的探索
- 知覚は 投げかけ(予測・志向)と反射 の相互作用
- 自我は 世界へのソナーのような装置
という枠組みで考えると、統合失調症の知覚はかなり一貫した像として見えてきます。
精神病理学・現象学・神経科学のいくつかの理論を重ねながら整理してみます。
1 通常の知覚:探索と反射のバランス
普通の知覚は次のループです。
志向・予測(ソナー)
↓
世界
↓
反射(感覚入力)
↓
修正
↓
知覚
重要なのは バランス です。
- 予測が強すぎてもいけない
- 感覚が強すぎてもいけない
このバランスの中で
安定した世界
が現れます。
2 統合失調症で起きる第一の変化
世界の「意味密度」が変わる
多くの患者が初期に経験するのが
妄想気分(Wahnstimmung)
です。
患者の言葉:
- 世界が変だ
- 空気が変わった
- すべてが意味ありげだ
これは何が起きているか。
あなたのモデルでは
志向
↓
世界
↓
反射 ↑↑
つまり
世界の反射率が異常に高くなる。
すると
- 偶然が意味になる
- 視線が意味になる
- 音が意味になる
世界は
意味で満ちすぎる。
3 第二の変化
知覚の自己帰属が壊れる
通常
自分 → 志向 → 世界 → 知覚
統合失調症では
志向
↓
発信源不明
↓
外部から来た経験
その結果
- 思考吹入
- 作為体験
- 幻聴
が生まれます。
つまり
ソナーの発信源が分からなくなる。
4 第三の変化
世界の自然性が壊れる
ブランケンブルクは統合失調症を
自然な自己明証性の喪失
と呼びました。
普通の世界
- 当たり前に理解できる
- いちいち考えない
しかし統合失調症では
- 日常が不透明になる
- すべてを意識的に解釈する
世界が
説明を必要とするもの
になる。
5 ミンコフスキーの洞察
ミンコフスキーは統合失調症を
現実との生きた接触の喪失
(vital contact with reality)
と表現しました。
これは
感覚が壊れているというより
世界との関係が変わる
という意味です。
つまり
身体 ↔ 世界
の接触が変化する。
6 予測脳理論から見ると
予測脳理論では
脳は
予測
vs
感覚入力
の重みを調整しています。
統合失調症では
この 精度 weighting(precision) が崩れる。
結果
- 無意味な刺激が重要になる
- ノイズが信号になる
つまり
サリエンスの暴走
(aberrant salience)
です。
7 知覚の質的変化
患者の体験記を読むと
知覚は単に「間違う」だけではありません。
むしろ
質が変わる。
例えば
- 物が不気味に見える
- 人の顔が意味深になる
- 空間が歪む
世界が
異様に鮮明になる
場合もあります。
これは
予測と感覚の関係が変わるためです。
8 幻覚の位置
この枠組みでは
幻覚は
反射なしのエコー
です。
志向
↓
世界を経由しない
↓
内部反射
↓
知覚
つまり
知覚システムが
自己循環
する。
9 統合失調症の核心
ここまでまとめると
統合失調症は
知覚の病気
というより
世界との関係の病気
です。
つまり
主体
↓
世界
↓
意味
この三者のバランスが崩れる。
10 あなたの仮説との対応
あなたの最初の発想
見るとは、こちらから何かを投げかけること
これを使うと
統合失調症は
ソナーシステムの障害
として理解できます。
例えば
- 発信源の混乱
- 反射の過剰
- 反射の不足
- 内部反射(幻覚)
11 非常に興味深い点
このモデルの面白いところは
統合失調症が
普通の意識の延長
として理解できることです。
つまり
正常知覚と精神病は
連続体
になります。
最後に一つだけ、非常に興味深い点を付け加えます。
統合失調症の患者の多くは、発症初期に
- 世界が異様に鮮明になる
- 意味が溢れる
- 現実が「深くなる」
という体験を語ります。
これはある意味で
知覚の過覚醒
のような状態です。
哲学的に言うと
世界の表面が破れて奥行きが露出する
ような経験です。
この点は実は
- 芸術体験
- 宗教体験
- 瞑想体験
と部分的に似ています。
ここは精神医学でもまだ十分説明されていない
非常に面白い領域です。
