神経現象学の視点に立ち、患者さんの「生きられた経験(Lived Experience)」を深く捉えるための対話用質問リストを作成しました。
このリストは、単に症状の有無を聞くのではなく、経験の「構造」や「質(クオリティ)」、そして「時間的な経過」を本人が再発見できるように導くためのものです 。
神経現象学的な対話のための質問リスト:経験の構造を紐解く
1. 経験への導入(エピソードの特定)
まずは、一般的・抽象的な話ではなく、特定の新しい記憶(エピソード)に焦点を当てます 。
- 「最近の中で、その感覚(あるいは予兆)が一番はっきりしていた時のことを思い出せますか?」
- 「その時、あなたはどこにいて、何をしていましたか? 周りの景色や音はどうでしたか?」
2. 内的な「質」を捉える(現象学的還元)
「主観か客観か」という枠組みを外し、身体感覚や意識の向け方に注目します 。
- 身体的な感覚: 「その感覚が来る直前、体に何か変化はありましたか?(例:胸が締め付けられる、視界が狭くなるなど)」
- 注意の向き: 「その時、あなたの注意は外の世界に向いていましたか? それとも自分の内側の感覚に向いていましたか?」
- 意識の鮮明さ: 「意識のハッキリ具合を波線で書くとしたら、その瞬間はどう動いていましたか?」
3. 「現前性」と「内容」の区別(盲視やDSPの視点)
何が見えるか(内容)だけでなく、「どう感じているか(存在感)」を問います 。
- なにかある感じ: 「はっきりした形は見えなくても、『何かがそこにある、起きている』という気配のようなものは感じましたか?」
- サリエンシー(際立ち): 「その時、一番『強く迫ってくる』ように感じたものは何でしたか?」
4. 経験のダイナミクス(力学系的な推移)
経験を「点」ではなく「流れ(軌道)」として捉えます 。
- 前兆のサイン: 「その爆発や発作が起きる直前に、いつも決まって現れる『小さな変化』はありますか?」
- 引き金と展開: 「何がきっかけでその感覚が強まり、その後どうやって静まっていきましたか?」
5. 共同研究者としての対話(当事者研究の視点)
患者さんを「観察対象」ではなく、共に謎を解く「パートナー」として扱います 。
- 独自の命名: 「その苦労や感覚に、あなたなりの名前をつけるとしたら何と呼びますか?」
- 仮説の検証: 「その感覚が起きた時、もし〇〇(例:深呼吸、場所移動)をしてみたら、感覚の『波』はどう変わると思いますか? 次回実験してみませんか?」
対話の際のポイント(トレーニングと信頼)
- Intimacy(追体験): 患者さんが当時の状況をありありと思い出せるよう、ゆっくりとしたペースで聞き、知覚的な細部(色、温度、感触)を大切にします 。
- Training(繰り返し): このような対話は一度で終わらせず、繰り返し行うことで、患者さん自身が自分の内的過程を言語化するスキルを高めていけるように支援します 。
この質問リストを使って、患者さんと共に「脳の働き(三人称データ)」と「本人の実感(一人称データ)」が交差するポイントを探求してみてください。
