Chapter 13「CBSとACTの未来」要約
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を生み出した知的基盤は、CBS(文脈的行動科学)と呼ばれる科学的戦略である。CBSとは、歴史的・状況的に埋め込まれた行動の進化を強調する帰納的アプローチであり、ACTコミュニティはまさにこのCBSコミュニティそのものといえる。
CBSは9つのステップで構成される。第一に哲学的前提の明示であり、CBSは機能的文脈主義を基盤とする。これは「知ること」を変動と選択的保持に基づく実用的活動とみなす立場で、思考や感情が行動の「原因」であるという考えを退け、文脈こそが重要であると主張する。ただし、この前提は「正しい」ものではなく「我々の立場」に過ぎず、他者の前提を評価的に批判することは不誠実だと強調される。
第二は基礎理論の構築であり、進化科学と関係フレーム理論(RFT)が柱となる。RFTは人間の言語・認知を「関係フレーム」という学習された応答単位で説明し、「心」とはこの関係フレーミングのレパートリーに関する言い方に過ぎないとみなす。第三は心理的柔軟性モデルの構築であり、これを病理・介入・健康の統合的モデルとして位置づける。第四から第六は技法とプロセスの連動テスト、理論的プロセスの測定、そして媒介・調整分析の重視である。ACTの効果が心理的柔軟性を通じて媒介されることは20以上の研究で示されており、AAQ(受容・行動質問紙)をはじめ多数の測定尺度が整備されている。
第七の特徴として、ACTの適用領域の広さが際立っている。精神病・慢性疼痛・糖尿病・禁煙・偏見低減・職場ストレス・強迫性障害など、従来の心理療法が踏み込まなかった多様な領域で効果が検証されており、全体の効果量は中程度(d=0.66)と3つの独立したメタ分析が一致して報告している。第八は有効性・普及・訓練の継続的検証であり、実世界での普及可能性を研究の初期段階から重視している点がCBSの実用主義的姿勢を示している。
第九の特徴は、開放的・多様・非階層的な開発コミュニティの構築である。国際学会ACBSは会員4,000名超(半数以上が米国外)を擁し、資格認定を設けず、プロトコルを原則無償公開している。注目すべきは、このコミュニティの運営方針そのものが心理的柔軟性モデルを体現している点であり、アイデアの共有が脱フュージョンに、開放性がアクセプタンスに、組織的コミットメントが価値観と行動に対応している。
また本章では進化科学との接続についても重要な示唆が述べられている。鶏の養殖実験を例に、個体レベルの選択より集団レベルの選択のほうが長期的に生産性が高いことが示される。これと同様に、体験回避や認知的フュージョンといった心理的硬直性のプロセスは「内部闘争」を招くが、ACTのアクセプタンスとマインドフルネスは全体としての人間に選択基準を置き、内的な協調と統合を促す。
最後に著者たちは、CBSの目標は「人間の状況という挑戦に十分に応えうる心理学の創造」であると述べ、これは知識の主張ではなく志であると締めくくる。ACTは現時点での最善の答えであるが、より良い理論が生まれれば積極的に更新されるべきものとして位置づけられており、その謙虚な科学的姿勢こそがCBSの最大の強みといえる。
