ヒトの脳組織1立方ミリメートルの微小な断片

ヒトの脳組織1立方ミリメートルの微小な断片をナノスケールの解像度で再構築した研究(H01データセット)から、主に以下の驚くべき事実が明らかになりました。

1. 細胞とシナプスの圧倒的な密度

このわずか1立方ミリメートルの組織(ケシの実ほどの大きさ)の中に、約57,000個の細胞約1億5000万個のシナプスが含まれていることが分かりました。また、総延長約230ミリメートルに及ぶ血管も張り巡らされていました。

2. ニューロンよりも多い「グリア細胞」

脳といえばニューロン(神経細胞)が主役と思われがちですが、この領域ではグリア細胞の数がニューロンの2倍(約32,000個 vs 約16,000個)に達していることが判明しました。特に、絶縁体である髄鞘(マイエリン)を形成するオリゴデンドロサイトが、全細胞の中で最も多く存在していました。

3. 未知の細胞形態「コンパス細胞」の発見

大脳皮質の深い層(第6層)において、**「コンパス細胞(または三角細胞)」**と呼ばれる特殊な興奮性ニューロンの分類が詳細に解析されました。これらの細胞は、特定の方向(前方または後方)に伸びる巨大な基底樹状突起を持っており、互いに鏡合わせのような対称的な配置でクラスターを形成しているという、これまで知られていなかった幾何学的な組織化が確認されました。

4. 稀で強力な「スーパー接続」

ニューロン間の接続のほとんど(約96%以上)は1つのシナプスのみを介した非常に弱いものですが、ごく稀に1本の軸索が1つの相手に対して最大50個ものシナプスを作る強力な接続が存在することが分かりました。これは、脳が特定の経路を介して意図的に情報を強く伝達している可能性を示唆しています。

5. 膨大なデータ量

この1立方ミリメートルの構造をデジタル化するだけで、**1.4ペタバイト(約140万ギガバイト)**という、電子顕微鏡データセットとしては世界で初めてペタバイトを超える膨大なデータが生成されました。


また、マウスの視覚野1立方ミリメートルを対象とした別のプロジェクト(MICrONS)では、約6万個のニューロンと5億個のシナプスの構造に加え、それらのニューロンが実際にどう活動するかという**「機能」と「構造」を統合した解析**が行われ、活動パターンから細胞の種類や接続性を予測できることが示されています。

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