第3章第7節「強みと資源をアセスメントする」


7. 強みと資源をアセスメントする

前節までで、私たちはACTアセスメントの核心的な三つのプロセス——融合、回避、価値からの乖離——を扱ってきた。これらは、クライアントの苦悩を構成する「問題」の側面に焦点を当てたものである。

しかし、クライアントは問題だけではない。どのようなクライアントにも、既に持っている心理的柔軟性の資源——脱融合の瞬間、受容の経験、今ここへの注意、自己-as-文脈の兆候、価値に沿った行動——が存在する。

本節では、これらの強みと資源をアセスメントする方法を扱う。問題に焦点化しすぎると、クライアントの主体性や可能性が見えなくなる。強みと資源に注目することは、クライアントの「治すべき対象」としてではなく、「既に持っている力を活かす主体」として見ることを可能にする。


なぜ強みと資源をアセスメントするのか

問題焦点化の限界

従来のアセスメント——特に診断的アセスメント——は、問題や症状に焦点を当てる傾向がある。これは、以下のような限界をもたらす。

  • クライアントの主体性の見えにくさ:問題の「被害者」として見え、能動的主体として見えにくくなる
  • 資源の見逃し:既にある強みや対処能力が見逃される
  • 無力感の強化:「自分は問題だらけだ」という自己物語を強化する
  • 変化の可能性の縮小:問題だけを見ていると、変化の手がかりが見えにくくなる

強みに注目することの意義

機能的文脈主義の視点からは、以下の理由で強みと資源のアセスメントが重要である。

  1. 作業可能性の向上:既にある資源を活用することで、治療の効率性が高まる
  2. クライアントの主体性の尊重:クライアントを「治す対象」ではなく「共に考える主体」として位置づける
  3. 変化の手がかりの発見:問題が起きていない「例外」の中に、変化の手がかりが隠れている
  4. 希望の育成:既にある強みに気づくことが、変化への希望を育む

ACTにおける強みの位置づけ

ACTでは、強みを「特定の特性」としてではなく、「心理的柔軟性の既にある現れ」として捉える。

  • 脱融合の強み:思考に飲み込まれずに済んだ瞬間
  • 受容の強み:苦痛とともにいられた瞬間
  • 今ここの強み:現在に注意を向けられた瞬間
  • 自己-as-文脈の強み:自分を客観的に見られた瞬間
  • 価値の強み:大切なことを選べた瞬間
  • コミットされた行動の強み:小さな一歩を踏み出せた瞬間

心理的柔軟性の資源をアセスメントする

六つのコアプロセスのそれぞれについて、既にある心理的柔軟性の資源——健康な極の現れ——をアセスメントする視点を提示する。

1. 脱融合の資源

脱融合の兆候

  • 思考を「ただの思考」として扱えている瞬間
  • 「〜という思考がある」と距離を置いて表現できる
  • 思考があっても、それに従わずに行動を選択できている

アセスメントの問い

  • 「最近、『あ、またこの考えだ』と気づけた時はありましたか?」
  • 「その考えに飲み込まれずに済んだ時は、何が違いましたか?」
  • 「どんな時に、考えても仕方ないと割り切れていますか?」

2. 受容の資源

受容の兆候

  • 苦痛を伴う感情や身体感覚とともにいられた瞬間
  • 感情を消そうとせず、そのままにしておけた
  • 「今はこういう気持ちなんだ」と受け止められた

アセスメントの問い

  • 「苦しい感情があっても、それと一緒にいられた時はありますか?」
  • 「感情を無理に変えようとしなかった時は、どんな時でしたか?」
  • 「『まあ、これも仕方ない』と思えた時はありましたか?」

3. 今ここの資源

今ここの兆候

  • 過去や未来ではなく、現在に注意を向けられた瞬間
  • 何かに集中できている瞬間
  • 身体感覚や周囲の環境に気づけている瞬間

アセスメントの問い

  • 「最近、何かに集中できた時はありましたか?」
  • 「考えごとから離れて、『今、ここ』にいられた時はどんな時ですか?」
  • 「散歩や料理など、何かに没頭できた時はありましたか?」

4. 自己-as-文脈の資源

自己-as-文脈の兆候

  • 自分を客観的に見られた瞬間
  • 「自分にはいろんな側面がある」と感じられた
  • 自分の感情や思考を「持っている」と感じられた

アセスメントの問い

  • 「自分を客観的に見られた時はありましたか?」
  • 「『これが本当の私』というより、『私にはいろんな面がある』と感じられた時は?」
  • 「感情に飲み込まれずに、『今、私は怒っている』と気づけた時は?」

5. 価値の資源

価値の兆候

  • 何が大切かを明確に感じられた瞬間
  • 大切なことを選べた瞬間
  • 「これが自分らしい」と感じられた瞬間

アセスメントの問い

  • 「最近、『これが自分にとって大切だ』と感じられた時は?」
  • 「苦しくても、『これだけはやめられない』と思えたことは?」
  • 「誰かのため、何かのために行動できた時はありましたか?」

6. コミットされた行動の資源

コミットされた行動の兆候

  • 大切なことに向けて小さな一歩を踏み出せた瞬間
  • 障害があっても続けられた
  • 決めたことをやり遂げられた

アセスメントの問い

  • 「最近、『よし、やろう』と思って行動できた時は?」
  • 「難しいことがあっても、続けられたことはありますか?」
  • 「小さなことでも、決めたことをやり遂げられた時は?」

例外の探求:問題が起きなかった時を聴く

強みと資源のアセスメントにおいて重要な方法が、例外の探求である。問題が起きている時だけでなく、問題が起きなかった時——クライアントがうまく対処できた時——に注目する。

例外の探求の問い

時間的例外

  • 「最近、その問題が少しでも和らいだ時はありましたか?」
  • 「その考えに飲み込まれずに済んだ日は、どんな日でしたか?」
  • 「いつもは避けてしまうのに、できてしまった時はどんな時でしたか?」

状況的例外

  • 「どのような状況では、その問題は起きにくいですか?」
  • 「誰と一緒にいる時は、その感情に飲み込まれにくいですか?」
  • 「どこにいる時は、落ち着いていられますか?」

行動的例外

  • 「普段と違うことをしてみたら、何か変わりましたか?」
  • 「何か特別なことをした時は、うまくいきましたか?」
  • 「どんな時に、いつもと違う自分でいられましたか?」

例外から学ぶこと

例外の中には、クライアントが既に持っている資源——使えているが言語化されていない能力——が隠れている。

問いの例

  • 「あの時は、どうやってそれができたのですか?」
  • 「その時にしていたことは、普段と何が違いましたか?」
  • 「その経験から、私たちは何を学べますか?」

過去の対処経験の活用

クライアントは、現在の苦悩に至るまでに、様々な困難を乗り越えてきた。その過去の対処経験の中にも、強みと資源が隠れている。

過去の対処経験を探る問い

人生史的な問い

  • 「これまで生きてきて、一番大変だったことは何ですか?」
  • 「その時、どのように乗り越えましたか?」
  • 「その経験から、何を学びましたか?」

対処資源の問い

  • 「これまでの人生で、あなたを支えてきたものは何ですか?」
  • 「どんな時に、『自分はやれる』と思えましたか?」
  • 「誰かの支えになった経験はありますか?」

強みの言語化

  • 「あなたの強みは何だと思いますか?」
  • 「周りの人は、あなたのどんなところを評価しますか?」
  • 「自分自身で、『ここは人に負けない』と思うことは何ですか?」

サポートシステムのアセスメント

クライアントの強みや資源には、個人内のものだけでなく、周囲のサポートシステムも含まれる。

サポートシステムの領域

領域問いの例
家族「家族の中で、あなたの支えになっている人はいますか?」
友人「話を聴いてくれる友人や知人はいますか?」
コミュニティ「所属しているグループやコミュニティはありますか?」
専門的支援「これまでに、役に立った専門家やサービスはありましたか?」
活動・趣味「生きがいになっている活動や趣味はありますか?」
信念・価値観「あなたを支えている信念や価値観はありますか?」

サポートシステムの質の評価

単に「ある/ない」だけでなく、サポートシステムの質も評価する。

  • 信頼性:「困った時に頼める人はいますか?」
  • ** reciprocity(相互性)**:「あなたも誰かの支えになっていますか?」
  • 安全性:「安心して話せる相手はいますか?」
  • 持続性:「長く続いている関係はありますか?」

強みと資源のアセスメントの実際

ここで、具体的なケースを通じて、強みと資源のアセスメントの流れを示す。

【ケース】(前節のAさん、30代女性、対人場面での不安)

これまでのアセスメント(問題の側面)

  • 融合:「恥をかいてはいけない」「みんなに笑われる」
  • 回避:会議の発言、会議自体の欠席
  • 価値からの乖離:本来は「自分の意見を言える人」でありたいのに、それができていない

強みと資源のアセスメント

セラピスト:「最近、その不安があっても、何とか乗り切れた時はありましたか?」

Aさん:「先週、久しぶりに会議に出たんです。発言はできなかったけど、最後までいることはできました。」

セラピスト:「それはすごいですね。どうやってそれができたのですか?」

Aさん:「部長が『久しぶりだね、無理しなくていいから』と言ってくれて……それで、『今日は発言しなくてもいいんだ』と思えたら、少し楽になって。」

セラピスト:「『発言しなくてもいい』と思えたことが、鍵だったのですね。他に何かありましたか?」

Aさん:「隣の席の同僚が、こっそり『大丈夫?』ってメモをくれて……それで、一人じゃないと思えました。」

セラピスト:「あなたを支えてくれる人がいるのですね。その時の自分を、どう思いましたか?」

Aさん:「……逃げ出さなかった自分を、少しだけ褒めてあげたい気持ちになりました。」

強みと資源の整理

このケースから見える強みと資源を整理する。

資源の種類具体的内容
脱融合の資源「今日は発言しなくてもいい」という思考との距離化
受容の資源発言しなくてもいいと受け入れられた
今ここの資源会議に「いる」ことに集中できた
サポートシステム部長の言葉、同僚のメモ
自己評価の資源「逃げ出さなかった自分を褒めたい」という自己への思いやり

強みと資源の活用:治療への接続

強みと資源のアセスメントで得られた情報は、治療の中でどのように活用するのか。

資源の言語化と共有

クライアント自身が自分の強みや資源を言語化できるようになることが、第一歩である。

問いの例

  • 「今、お話しいただいたことをまとめると、あなたにはこんな力があるように思えます。いかがですか?」
  • 「この強みに、名前をつけるとしたら、何と名付けますか?」
  • 「この力は、他の場面でも使えそうですか?」

資源の拡張

既にある資源を、問題となっている領域にも拡張する。

問いの例

  • 「会議で使えた『発言しなくてもいい』という考え方は、他の場面でも使えそうですか?」
  • 「部長や同僚の支えを、他の場面でも活かす方法はありますか?」
  • 「『逃げ出さなかった自分を褒める』という感覚を、もっと育てていくことはできそうですか?」

資源と問題の統合的アセスメント

問題のアセスメント(融合、回避、乖離)と、強みのアセスメントを統合することで、よりバランスの取れたケース理解が可能になる。

側面アセスメント結果
問題(融合・回避)「恥をかいてはいけない」という融合、会議の回避
問題(乖離)本来の価値(自分の意見を言える人)からの乖離
強み(脱融合)「発言しなくてもいい」という距離化
強み(サポート)部長、同僚の支え
強み(自己評価)自分を褒めることのできる自己関係

この統合的アセスメントは、治療の方向性——「既にある脱融合の資源を強化し、サポートを活用しながら、小さな一歩から価値に沿った行動を再開する」——を導く。


第7節のまとめ

  • 問題だけに焦点化すると、クライアントの主体性や可能性が見えなくなる
  • 強みと資源のアセスメントは、①作業可能性の向上、②クライアントの主体性の尊重、③変化の手がかりの発見、④希望の育成——をもたらす
  • ACTでは、強みを「心理的柔軟性の既にある現れ」として捉える
  • 六つのコアプロセスのそれぞれについて、既にある資源の兆候とアセスメントの問いがある
  • 例外の探求——問題が起きなかった時——に、変化の手がかりが隠れている
  • 過去の対処経験の中にも、強みと資源が隠れている
  • サポートシステム——家族、友人、コミュニティ、専門的支援——も重要な資源である
  • 問題のアセスメントと強みのアセスメントを統合することで、バランスの取れたケース理解が可能になる
  • 強みと資源は、治療の中で活用し、拡張していくことができる

次の第8節では、ここまでのアセスメント情報を統合し、治療の方向性を立てる——ケース定式化——を扱う。そこでは、現象レベル・プロセスレベル・文脈レベルの三層構造と、六次元モデルによるアセスメントを統合し、一貫したケース理解と治療計画を立てる方法を具体的に展開する。


  1. 問題焦点化の限界の明示:診断的アセスメントがもたらす問題点——主体性の見えにくさ、資源の見逃し、無力感の強化——を明確にしました
  2. 強みに注目する意義の提示:作業可能性の向上、主体性の尊重、変化の手がかりの発見、希望の育成——四つの意義を整理しました
  3. 六次元別の資源アセスメント:脱融合、受容、今ここ、自己-as-文脈、価値、コミットされた行動——それぞれの資源の兆候と問いを提示しました
  4. 例外の探求の具体化:時間的例外、状況的例外、行動的例外——三つの視点からの問いを示しました
  5. 過去の対処経験の活用:人生史的な問い、対処資源の問い、強みの言語化——三つの視点を提示しました
  6. サポートシステムの評価:家族、友人、コミュニティ、専門的支援、活動・趣味、信念・価値観——六つの領域と、質の評価の視点を示しました
  7. ケース例の提示:前節のAさんのケースを用いて、強みと資源のアセスメントの実際を示しました
  8. 資源の活用方法:資源の言語化と共有、資源の拡張、問題と資源の統合的アセスメント——三つの活用方法を示しました
  9. 節末のまとめ:要点を箇条書きで整理しました
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