Ⅰ.問題設定
直観はこうです:
- 弱者を助ける利他性は、人類の生存に資してきた
- しかし現代では、弱者攻撃が快楽化している
- 脳はDNAのために進化したはずなのに、
今やDNAの存続に不利な行動で快を得ている
ここにあるのは、
短期的神経報酬と、長期的進化合理性の乖離
です。
これを理論化します。
Ⅱ.定義の明確化
◆ DNA主義とは何か
DNA主義とは、
行動を「世代を超えた生存可能性」という時間軸で評価する立場
である。
特徴:
- 長期的視点(世代単位)
- 協力の重視
- 集団安定を価値とする
- 関係性を前提とする
進化論的に言えば、
- 親族選択
- 互恵的利他
- 評判システム
に整合的な行動原理。
倫理的に言い換えれば、
惻隠の心は適応的である
という立場。
◆ 脳主義とは何か
脳主義とは、
行動を「現在の神経報酬」で評価する立場
である。
特徴:
- 即時性
- 刺激優位
- 優越感・承認欲求の最大化
- 数値化された評価への依存
進化的に本来は適応的だったが、
- 環境の急激な変化
- SNS的報酬過剰刺激
- 集団規模の拡大
により、誤作動を起こす。
Ⅲ.構造的対立
両者の違いは、時間軸と評価基準にある。
| 観点 | DNA主義 | 脳主義 |
|---|---|---|
| 時間軸 | 長期(世代) | 短期(瞬間) |
| 評価 | 生存可能性 | 快感・承認 |
| 社会像 | 協力的集団 | 競争的舞台 |
| 弱者 | 保護対象 | 比較対象 |
重要なのは、
脳主義は本来DNA主義の下位機構だったという点。
脳は生存を助けるための器官だった。
しかし、
環境変化により、手段が目的化した。
これが核心的直観です。
Ⅳ.なぜ乖離が起きるのか
進化は数万年単位。
SNS環境は十数年。
脳は「過剰刺激環境」に適応していない。
例:
- 砂糖 → 本来は貴重 → 現代では過剰摂取
- 承認欲求 → 小集団で安定化 → SNSでは無限拡張
弱者攻撃は、
脳にとっては高刺激である。
しかし長期的には、
- 集団信頼の低下
- 協力の崩壊
- 繁殖・養育環境の不安定化
を招く。
つまり、
神経報酬の勝利は、進化合理性の敗北である。
Ⅴ.哲学的再定式化
DNA主義を生物学から離して言い換えると、
人間は関係的存在である
という立場になる。
脳主義は、
人間は刺激反応機械である
という立場に近い。
前者は存在論的。
後者は神経還元的。
感じている違和感は、
人間が刺激機械へと縮減されていること
に対する直感的抵抗です。
Ⅵ.より厳密な定式化
概念を抽象化すると:
- DNA主義 = 長期適応合理性モデル
- 脳主義 = 即時報酬最大化モデル
数理的に言えば、
- 割引率が低い社会 → DNA主義優位
- 割引率が高い社会 → 脳主義優位
現代は「極端に割引率が高い社会」です。
未来より現在が価値を持つ。
Ⅶ.重要な補足
脳主義は「悪」ではない。
即時報酬がなければ、
- 学習も起こらない
- 行動も生じない
問題は、
上位目標(長期生存)から切断されたとき
である。
健全な状態とは、
脳主義がDNA主義に従属している状態。
病理とは、
脳主義が主権を握った状態。
Ⅷ.理論の核
言いたいことを、
一文で言えばこうです:
文明は、進化的合理性よりも神経報酬を優先し始めている。
そして、
弱者攻撃はその象徴的現象である。
