Ⅰ 民主主義は市場を制御できるか
1 理論上は可能
歴史的に見れば、民主主義国家は市場を制御してきた。
- 反トラスト法
- 労働法制
- 社会保障制度
- 金融規制(例:1930年代以降の米国改革)
市場は自然状態ではなく、法制度によって成立している。
したがって、法を変えれば市場の形も変わる。
理論上、民主主義は市場を制御できる。
2 現実の制約
しかし現代では三つの制約がある。
(a) 資本の移動性
資本は国境を越えて移動する。
(b) 政策競争
国家間で法人税や規制の「引き下げ競争」が起きる。
(c) 金融市場の即時反応
政策決定が市場によって即座に評価され、通貨・株価が変動する。
その結果、
市場が民主主義を規律する
逆転現象が起きる。
3 条件付きの可能性
民主主義が市場を制御するには、
- 複数国家による協調
- 資本移動への共通ルール
- 国際課税制度
が必要になる。
単独国家では難しい。
Ⅱ 主権を再定義する必要があるか
近代主権は、
一定の領土内で最終決定権を持つこと
であった。
しかし現在は、
- 経済は越境する
- 環境問題も越境する
- 軍事同盟も多国間化する
主権は形式的には残るが、実質的には分有されている。
ここで二つの選択肢がある。
1 主権の回収(ナショナル回帰)
ポピュリズム的方向。
しかし経済的相互依存が深い以上、完全回収は非現実的。
2 主権の共有(分有主権)
超国家機関への部分的移譲。
例として欧州連合。
ただし民主的正統性の問題が生じる。
結論として、
主権は「絶対的支配権」から「調整権限」へ再定義される必要がある。
Ⅲ 市民概念の再構築
近代市民は、
- 権利主体
- 国家構成員
- 投票者
として定義された。
しかし現在の個人は同時に、
- 消費者
- 労働力
- データ提供者
- 投資対象
でもある。
政治的主体が経済的主体に吸収される傾向がある。
ここで必要なのは、
1 多層的市民概念
- 地方市民
- 国家市民
- 地球市民(環境・人権)
の重層化。
2 経済的主体としての自覚
市民は市場の受動的参加者ではなく、
- 投資行動
- 消費行動
- 労働組織
を通じて経済に影響する主体でもある。
政治参加と経済参加を分離しない視点が必要になる。
Ⅳ 国家単位を超えた制度改革
可能性は四つの方向に分かれる。
1 国際課税協定
多国籍企業への最低法人税。
(OECD枠組みなどの試み)
2 超国家議会の強化
EU型モデルの深化。
しかし民主的正統性の確保が課題。
3 グローバル公共財の管理機関
- 気候変動
- 海洋資源
- デジタル空間
これらは国家単位で管理できない。
4 トランスナショナル市民運動
国家を超えた市民連帯。
ただし持続性が課題。
Ⅴ 構造的結論
- 民主主義は理論上、市場を制御可能。
- しかし単独国家では困難。
- 主権は再定義される必要がある。
- 市民概念も国家内個人から多層的主体へ拡張が必要。
- 制度改革は国家単位を超えざるを得ない。
Ⅵ 根本問題
最後に最も重要な点。
民主主義の再設計は制度問題であると同時に、
- 想像力の問題
- 連帯の範囲の問題
でもある。
国家を超える制度は、
国家を超える帰属感なしには機能しない。
ここで再び、あなたの最初の問題、
「自己所属感」
が政治の次元に戻ってくる。
人はどこまでを「われわれ」と感じられるのか。
制度はその限界の内側でしか作動しない。
