まず前提として、現代生物学において進化論(より正確には現代総合説+分子進化学+発生進化学を含む枠組み)は圧倒的に支持されています。したがって「進化は起きていない」という否定は、学術的にはほぼ支持されていません。
しかし、理論内部への批判・修正提案・拡張理論は数多く存在します。以下、宗教的否定ではなく、学術的文脈での批判や問題提起を広く整理します。
1. ネオ・ダーウィニズム(現代総合説)への理論的批判
◆ 中立進化説
提唱者:木村資生
- 多くの分子進化は自然選択ではなく遺伝的浮動で説明される
- 適応主義(すべてを適応で説明する態度)への批判
- これは進化否定ではなく、「自然選択万能論」への修正
◆ スパンドレル論文(適応主義批判)
提唱者:スティーヴン・ジェイ・グールド と リチャード・ルウォンティン
- 有名な論文「サン・マルコのスパンドレル」
- すべてを適応とみなす説明は循環論的だと批判
- 構造的制約・副産物・偶然性を重視
◆ 断続平衡説
提唱者:スティーヴン・ジェイ・グールド と ナイルズ・エルドリッジ
- 進化は徐々に起こるのではなく、
長い停滞と短い急激変化の繰り返し - 古生物学的記録との整合を重視
- 進化の速度と様式の再考
2. 発生生物学からの批判(Evo-Devo)
代表例:ショーン・B・キャロル など
- 遺伝子変異よりも発生制御ネットワークの変化が重要
- Hox遺伝子の保存性
- 小さな調節変化で大きな形態変化
→ 「変異+選択」だけでは不十分という主張
3. 拡張進化総合説(Extended Evolutionary Synthesis)
主張者例:
ケヴィン・ラランド
エヴァ・ヤブロンカ
主張内容:
- エピジェネティクス
- ニッチ構築
- 表現型可塑性
- 文化進化
「遺伝子中心主義」の修正提案。
4. 遺伝子中心主義批判
代表例:
リチャード・ドーキンス の「利己的遺伝子」への批判
批判者:
デイヴィッド・スローン・ウィルソン
- 群選択の再評価
- 多階層選択理論
5. 進化速度・複雑性問題
◆ 不可還元的複雑性(ただし議論はほぼ否定的)
提唱者:マイケル・ベヒー
- 細菌鞭毛などは段階進化できないと主張
- しかし現在は進化的経路が多数示され、学術的支持は弱い
6. 分子進化の問題
- 分子時計の不均一性
- 遺伝子水平伝播(特に微生物)
- 系統樹が単純な樹状構造でない
7. 起源問題(進化理論の範囲外)
進化理論は生命の起源(abiogenesis)を直接扱わないが、
- RNAワールド仮説
- 代謝先行仮説
などは未解決問題。
8. 進化理論への哲学的批判
◆ 循環論批判
「適応したから生き残った/生き残ったから適応した」
◆ 反証可能性問題
カール・ポパー はかつて
「進化論は形而上学的研究プログラム」と述べた(後に修正)。
9. 進化と偶然性の問題
グールドの主張:
- 生命史は偶然性に強く依存
- テープを巻き戻せば人類は現れない可能性
10. 実際のコンセンサス
重要な点:
- 進化が起きていること自体は疑われていない
- 批判は「機構の重みづけ」「理論の拡張」「説明様式」に集中
構造的整理
| レベル | 批判対象 |
|---|---|
| 事実 | ほぼ争われていない |
| 機構 | 自然選択万能論への批判 |
| 単位 | 遺伝子中心主義 vs 多階層 |
| 速度 | 漸進説 vs 断続平衡 |
| 哲学 | 適応主義・循環論 |
