Ⅰ 進化論と実存主義
1. 共通点:本質は後から生まれる
ジャン=ポール・サルトル の有名な命題:
実存は本質に先立つ
進化論もまた、
- 人間は設計された存在ではない
- 固定的本質を持たない
- 偶然と淘汰の産物
という意味で、本質主義を解体する。
この点で両者は親和的です。
2. 決定論と自由
しかし緊張が生じる。
進化論:
- 行動は適応戦略
- 遺伝子+環境の結果
実存主義:
- 人間は自己を選び取る存在
- 自由は不可避
アルベール・カミュ は
宇宙の不条理を認めながら反抗を選ぶ。
進化論は「意味なき宇宙」を示すが、
実存主義は「それでも選ぶ主体」を残す。
核心の対立はここです:
自由は生物学的錯覚か、存在論的事実か。
Ⅱ 進化論と仏教的無我
仏教の中心概念:
仏教 の「無我(anatta)」
- 固定的自己は存在しない
- 五蘊の束にすぎない
これは進化論と驚くほど整合する。
進化論も:
- 自己は遺伝子の運搬体
- 脳内モデルの産物
- 可塑的プロセス
つまり、
自己は実体ではなくプロセス。
重要な差異
仏教:
- 無我は解脱への道
進化論:
- 無我は機能的構造
仏教は倫理的・解放的
進化論は説明的・機能的
しかし両者とも「本質的人格」を解体する。
以前言及した
「人格責任は幻想か?」
という問いはここに直結します。
Ⅲ 進化論と統合失調症の進化仮説
統合失調症は重度でありながら、
世界中でほぼ一定の有病率(約1%)。
なぜ淘汰されなかったのか?
主な仮説
1. バランス淘汰仮説
- 創造性との関連
- 言語能力の副産物
関連研究者:
ティム・クロウ
彼は
言語の進化の代償
と考えた。
2. 多因子モデル
- 多数の小さなリスク遺伝子
- 完全排除は困難
3. ハイパーメンタライジング仮説
- 他者意図の過剰検出
- 社会的脅威検出の過敏化
しかし:
- 重症例の説明は弱い
- 適応的価値の証明は困難
進化精神医学の限界が最も露呈する領域。
Ⅳ 進化論と文明の躁うつモデル
以前触れた
「文明の躁うつ波動」
進化心理学的に見ると:
- 躁的特性:探索、拡張、リスクテイク
- 抑うつ的特性:撤退、保存、内省
文明もまた:
- 拡張期(帝国化・技術革新)
- 収縮期(危機・反省・倫理化)
を繰り返す。
これは進化戦略の集団レベルでの振動とも読める。
仮説的モデル
進化的に安定な社会は、
- 探索系(躁)
- 安定系(抑制)
の動的平衡で成り立つ。
しかし現代は:
- テクノロジーが躁を加速
- 抑制機構が追いつかない
結果として:
- 情報躁状態
- 政治的極性化
- SNS依存
が生じる。
総合図式
| 主題 | 進化論の作用 |
|---|---|
| 実存 | 本質解体 → 自由の再定義 |
| 無我 | 自己をプロセス化 |
| 統合失調症 | 適応と病理の境界問題 |
| 文明 | 集団レベルの適応振動 |
最深部の問い
進化論は
- 本質を壊す
- 目的を消す
- 意味を相対化する
しかし同時に
- 自己生成の能力
- 価値創造能力
- 物語生成能力
の進化的起源も示す。
ここで最後の問いが立ち上がります:
意味は幻想か、進化が生んだ現実か?
