戦略的家族療法 よかれと思ってやっていることが、裏目に出るループ(悪循環)

戦略的家族療法は、数ある家族療法の中でも「非常にユニークで、まるでパズルの解き方を変えるようなアプローチ」です。

初心者の方にもわかりやすく、「よかれと思ってやっていることが、裏目に出るループ(悪循環)」という視点から解説します。


1. 世界モデル:「良かれと思った解決策」が「問題」を育てている

戦略的療法士は、家族を「一人ひとりの性格が悪い」とは見ません。代わりに、「良かれと思って繰り返しているルール(世界モデル)」が、バグ(悪動機のない悪循環)を起こしていると考えます。

  • フィードバック・ループ(悪循環)の例:
    不登校の子どもがいるとします。
    • 親のモデル: 「励ませば学校に行くはずだ」と考え、毎日「頑張れ」と声をかけます(良かれと思った解決策)。
    • 子の反応: 励まされるほどプレッシャーを感じ、さらに動けなくなります。
    • ループの完成: 子が動かないので、親は「励ましが足りないんだ」ともっと強く励まします。
    • これが「解決策が問題そのものになっている」状態です。
  • ミラノ派の「汚いゲーム」:
    これは、家族が「誰が主導権を握るか」という無意識のパワーゲームに巻き込まれている状態です。
    • 例えば、夫婦仲が悪いとき、子どもがわざと問題行動を起こすことがあります。すると夫婦はケンカをやめて「子どもの問題」で協力し始めます。
    • 子どもにとって、自分の症状は「家族をバラバラにさせないための武器(悲しい戦略)」になってしまっています。これが「汚いゲーム(誰も幸せにならない、泥沼の戦い)」です。

2. 誤差修正:あえて「常識外れなこと」をして、ループを壊す

通常のカウンセリングは「話し合って理解しましょう」と言いますが、戦略的療法は違います。「今のやり方(モデル)が通用しない状況」をわざと作り出し、システムを強制再起動(リセット)させます。

① 逆説的介入(パラドキシカル・アプローチ)

「症状をやめなさい」と言うのではなく、逆に「もっとやりなさい」や「やめてはいけない」と指示します。

  • 具体例:夜、毎晩ケンカをしてしまう夫婦
    • 療法士の指示: 「明日から1週間、夜の8時から9時まで、必ずリビングで全力でケンカをしてください。それ以外の時間は禁止です」
    • なぜこれが効くのか(誤差修正):
      • 夫婦が指示通りケンカをしたら、それは「自分たちの意志」でコントロールしたことになり、もはや「勝手に起きてしまう制御不能な症状」ではなくなります。
      • もしケンカをしなかったら、それはそれで問題が解決します。
      • どちらに転んでも、これまでの「勝手に始まって止まらない」という古いモデルが壊れます。

② 円環的質問法(サーキュラー・クエスチョニング)

「あなたは、お父さんについてどう思いますか?」と聞くのではなく、「お父さんとお母さんがケンカしている時、妹さんはどんな気持ちでそれを見ていると思いますか?」と、第三者の視点を聞きます。

  • なぜこれが効くのか(誤差修正):
    • 家族は「あいつが悪い」という一直線の思い込み(世界モデル)を持っています。
    • しかし、「AさんがBさんをどう見ているか、をCさんに聞く」という質問を繰り返すと、家族全員が「自分たちはつながっているんだ」「自分の行動が意外なところで誰かに影響しているんだ」という全体図(新しい世界モデル)に気づかされます。

具体的なケーススタディ:眠れない子ども

  • 状況: 7歳の子どもが「怖い夢を見るから」と言って、毎晩親のベッドに来て、親が寝不足になっている。親は「早く自分の部屋で寝なさい!」と怒るが、子どもは泣いてしがみつく(悪循環)。
  • 戦略的療法の介入(逆説):
    療法士は親にこう言います。「お子さんは、お父さんとお母さんが最近疲れているのを察して、夜に様子を見に来てくれている素晴らしい警備員です。明日からは、子どもが部屋に来る前に、お父さんが子どもの部屋に行って『今日も警備をお願いできるかな?』と頼んでください。そして、子どもが来たら『警備ご苦労様』と盛大に感謝してください」
  • 結果:
    子どもにとって、親を困らせる(あるいは関心を引く)ための「怖い」という理由は、親から「警備員」として認められたことで、役割が変わってしまいます。子どもが「もう警備は十分かな」と思ったり、逆に親が「来なさい」と言うことで、子どもが「自分から行くのは面白くない(反抗できない)」と感じたりして、自然と一人で寝るようになります。

まとめ:初心者のためのポイント

  1. 「犯人探し」をしない: 悪い人はいない。ただ、「やり方(ループ)」が悪いだけ。
  2. 正論を言わない: 「話し合いなさい」という正論が効かないから困っている。だから、少しヘンテコな「戦略(課題)」を出して、無理やり悪循環の風向きを変える。
  3. 「変化」が先、「洞察」は後: なぜそうなったかの理由を理解させるより先に、まず「行動」を変えさせて、家族の中に「あ、いつもと違う!」という驚き(誤差)を生み出す。

このように、家族がガチガチに固めてしまった「こうするしかない」という古い世界モデルに、予想外の角度からヒビを入れるのが、戦略的家族療法の真髄です。

タイトルとURLをコピーしました