猫を観察していた。
何か物音がして、猫の耳が素早く反応した。
物音は二階三回と続いた。
もう猫の耳は反応しなくなった。
外部刺激を感覚するときのフィルター理論などで説明されるところだろう。
正体不明の音がしたら、確認したほうがよい。
しかし、二回三回と続き、正体も分かって無害だと分かったのちは、反応する必要がない。
また躁うつ病で、躁状態のときは、何回刺激されても、反応をエスカレートさせ続ける。
もっともっとと反応し続ける。
強迫性障害の時には、同じ反応を続ける。反復する刺激があって、それが無害だと分かっていて、放置しておいてもよいのだと理解していても、やはり反応し続ける。
うつ状態の時は、刺激があっても反応しない。命の危機があるかどうかだけ確認して、あとは無反応である。
以上は、猫の個体としての反応である。躁状態の時の反応、強迫性障害のときの反応、うつ状態のときの反応が、それぞれ異なる。
これを延長して、一個の神経細胞についても同じことが言えるだろうと考えてみる。
一個の神経細胞をもってきて、刺激を一定時間ごとに反復する。
それに対して神経細胞がどのように反応するかを考えれば、
時間が経過するにつれて、増大する、一定のまま、減少する、の3つがあるはずであり、それ以外にはない。
この組み合わせの可能性はある。たとえば、
反復刺激をしていると、最初の1分は反応が増大、次の1分は反応は一定、その次の一分から減少などと、経過時間にによって反応が異なる方が、生物の反応としては合理的である。
だからも一つの細胞は、MADのいずれかに属し、ぞれぞれの反応だけをするというだけでは済まない。細胞レベルの反応として、時間経過で見れば、いろいろな可能性がある。
そうしたこともひっくるめて考慮して、MAD理論がある。
基本形として、三つを考える。
M 同一刺激に対して、次第に反応を大きくする。
A 同一刺激に対して、反応は一定である。
D 同一刺激に対して、次第に反応を小さくする。
これが、三種の細胞の特性である。
猫の行動で対比すると、
M:刺激が入ると素早く反応して、時間が経過するにつれて、反応は大きくなる。当然、反応には限界が来て、休息を要求するようになる。
A:同じ反応をずっと続ける。
D:その刺激に対しては、これ以上反応しなくても危険はないから、ゆっくり休んでいればよい。
猫の様子から、神経細胞一個の反応を連想するのは、論理的ではなく単なる連想だ。
しかし非常に大雑把に考えて、連続刺激に対しての反応としては、3つの類型が考えられるということは理解できると思う。
それなら、そこから発想して、躁状態先行仮説、病前性格論、バイポーラースペクトラムを中心として、ジャクソニスム、レセプターのレギュレーション仮説なども考慮しつつ、MAD理論が出来上がる。
そしてそこから治療論に及んだのが、温存的精神療法(Preservational Psychotherapy)の理論である。
これは治療者側がリカバリーを掲げて、症状、個人的、社会的リカバリーと、すいすい行けるような幻想を振りまいていることに対しての警鐘である。
うまくいく人もいるが、うまくいかない人も多い。そんな中で、リカバリー外面を押し付けられると、ますますつらい立場に押し込まれてしまう。
それを何とかできないかと思った。
温存的で、非侵襲的で、解釈よりは対人関係、人格構造の変化よりは生活機能の安定を重視する。日本の伝統的精神療法の要素を多く採用している。支持的精神療法、患者中心療法、実存的精神療法などを基盤にしている。
一方、シゾフレニー系に対しての時間遅延理論は、フリストンの自由エネルギー論よりも前に着想はあったが、自由エネルギー論がはっきり理論として提示してくれたので、いまは、それを利用して説明している。
つまり、脳内に世界モデルが形成され、誤差修正システムとして働き、現実世界と世界モデルの誤差が最小化するように作動している、それが自由エネルギー理論の一部である。
精神病論としては、誤差検出機能、世界モデル修正機能、(つまり、比較と修正といっているが)、その部分に障害があった場合、現実と世界モデルの誤差はなくならず、生きるのが大変になるだろう、そして、その時の症状はこんなものがあるだろうというのが、概略となり、さらに治療論が説明されることになる。
私の時間遅延理論は、この、誤差検出機能部分をもっと拡大して精密に検討したものである。
誤差検出の機能として、情報内容を比較するだけではなく、情報が、誤差検出部分に届く時間に注目する。
現実からのフィードバックと、世界モデルからのフィードバックが、誤差検出部分に届く時間が、
1.世界モデルからのほうが、現実からよりも、早い → 通常の能動感
2.世界モデルからのほうが、現実からよりも、遅い → 能動感喪失の病理 させられ体験や幻聴
と、考えた。
背景にはリベットの実験がある。
少し詳しく言えば、世界に働きかける意図を決めて、筋肉を動かしたとする。
1.その結果としての反応が現実から帰っていて、それを感覚する。
2.一方、同じ意図は世界モデルにも伝達されているので、世界モデルからも反応が返ってくる。
そのようにして、現実からの反応と、世界モデルからの反応が誤差検出部分に届く。
リベットの実験からの議論で言われているような議論もできる。
現実からの反応が早く届いて、世界モデルからの反応が遅く届いた場合も、脳内で錯覚を起こして、「実は世界モデルからの反応のほうが早く届いた」と解釈して、能動感が生まれている。
だから、実際に到着した時間差が問題ではなく、「解釈が壊れている」のだとの議論も成り立つ。
私の立場としては、そのような病理もあるだろう、しかし時間遅延理論で言うような病理も考えられるだろう、という立場である。
つまり、時間遅延理論(Time-Delay-THeory)は、背景として、自由エネルギー理論、リベットの実験となを含み、主にシゾフレニーの自我障害を説明する理論である。
