心理療法における治療者の人種的マイクロアグレッションの2つの形態を以下に説明します。
人種的マイクロアグレッションとは
まず、**人種的マイクロアグレッション(racial microaggressions)**とは、人種・肌の色・民族性のみを理由として、個人が日常的に受ける攻撃・侵害のことを指します(Pierce, 1995)。セラピー場面においても、治療者によるマイクロアグレッションが発生することが指摘されています。
心理療法における治療者の2つの形態
1. 文化的盲目性(Cultural Blindness)
治療者が文化的差異の存在を否定・無視する態度です。具体的には以下のような行動が含まれます。
- 文化・人種・民族的側面を「見えない」ものとして扱う
- 人種差別やその他の抑圧の存在を否定する
- 能力主義の神話(myth of meritocracy)に固執し、抑圧や特権の役割を認めない
- すべての人間は同じであるという「普遍主義的」立場をとることで、クライアントの文化的現実を無視する
この態度は、文化的に多様なクライアントに苦痛をもたらし、脆弱な治療同盟を生み出す結果となります(Owen et al., 2014)。
2. 文化的に多様な行動の病理化(Pathologizing Culturally Diverse Behaviors)
治療者が文化的に正常な行動を、問題行動や精神病理として誤って解釈することです。具体的には以下のような場面で生じます。
- 集団主義的文化に基づく行動(例:重要な他者の限界を受け入れること)を、判断力の乏しさや劣性・逸脱として誤解する
- クライアントの文化的規範に基づく感情表現や家族関係のあり方を、病理的症状と混同する
- 誤診(misdiagnosis)を行い、文化的文脈を考慮せずに診断を下す
これらがもたらす影響
この章ではさらに、治療者によるマイクロアグレッションが以下の深刻な結果をもたらすと指摘しています。
- 文化的に多様なクライアントに苦痛と不信感をもたらす
- 治療同盟の破綻を招く
- クライアントが自らの無力感を内在化し、学習性無力感に陥るリスクを高める
- 人種的マイクロアグレッションへの累積的・継続的な暴露が、有色人種の心身の健康問題と相関することが示されている(Comas-Díaz, 2012a)
まとめ
治療者は自らの文化的盲目性や病理化の傾向に気づき、文化的コンピテンスと文化的謙虚さを継続的に発展させることで、これらのマイクロアグレッションを防ぎ、すべてのクライアントに対してより公正で効果的な心理療法を提供することが求められています。
