認知療法の三つの基本構成要素
認知療法は、①理論、②方略(ストラテジー)、③技法(テクニック)という三つの基本構成要素から成り立っている。
第一の構成要素:理論(Theory)
認知療法の理論は、情報処理があらゆる有機体の生存にとって不可欠であるという考えに基づく。環境から関連情報を取り込み、それを統合し、その統合に基づいて行動計画を立てる機能的な装置なしには、生存は不可能である。
生存に関わる各システム、すなわち認知・行動・感情・動機づけのシステムは、スキーマ(schema)と呼ばれる構造から構成される。認知スキーマには、自己と他者に関する認知、目標と期待、記憶、空想、過去の学習が含まれ、情報処理を大きく規定する。
理論の核心は、様々な精神病理的状態において特定の偏りが情報の取り込み方に影響するという点にある。うつ病では自己・世界・未来への否定的な偏り、不安では危険のテーマへの選択的な解釈の偏り、妄想状態では他者からの虐待や干渉への無差別な帰属、躁状態では個人的利得の誇張的解釈がそれぞれ特徴的に認められる。
また、特定の態度やコア信念が認知的脆弱性(cognitive vulnerability)を形成し、特定の生活状況のもとで経験を偏った形で解釈させる素因となる。現代の認知理論では、これらすべてのシステムがモード(mode)として協働するという枠組みで理解される。モードとは認知・感情・動機づけ・行動のスキーマが網状に結合したネットワークであり、パーソナリティを構成し、状況を解釈する。
第二の構成要素:方略(Strategies)
認知療法の全体的な方略は、患者と治療者が協同して機能不全的解釈を探索・修正する共同作業であり、主として論理的検討と行動実験を通じて行われる。
方略の第一は協同的実証主義(collaborative empiricism)である。患者を、刺激を解釈しながら生きている実践的な科学者として捉えるが、その情報収集・統合の装置が一時的に妨げられた状態にあると考える(Kelly, 1955)。治療者は患者の視点を理解するために質問し、患者は積極的な役割を担って変化の方向性とそのための行動を共に模索する(Padesky, 1993)。
方略の第二は導かれた発見(guided discovery)である。患者の現在の誤知覚や信念に通底するテーマを見つけ出し、それを関連する過去の経験と結びつける。治療者は答えを提供するのではなく、データの収集・検討・新たな視点からの意味づけを患者と共に行う好奇心ある探索者として機能する(Padesky, 1993)。
これら二つの方略はいずれもソクラテス的対話(Socratic dialogue)によって実施される。その手順は、①情報を引き出す質問、②傾聴、③要約、④発見された情報を患者の元の信念に照らして統合・分析する質問の四段階からなる。
機能不全的モードへの方略的アプローチとしては、①モードの不活性化、②内容・構造の修正、③より適応的なモードの構築という三つがある。ただし、注意の転換や安心感のみによるモードの不活性化は一時的な対処に過ぎず、コア信念が修正されなければ持続的な変化は得られにくい。
第三の構成要素:技法(Techniques)
認知療法で用いられる技法は、情報処理の誤りと偏りを修正し、誤った結論を促進するコア信念を変容させることを主な目的とする。技法は大きく認知技法と行動技法に分類される。
認知技法の主なものは以下の通りである。
自動思考の同定と検証では、患者は自動思考を記録し、それを検証可能な仮説として扱うよう教えられる。信念の起源・根拠・妥当性・適応性が探索され、実証的・論理的な検定に付される。文化・ジェンダー・宗教・社会経済的地位に関連する信念については、それらが患者に与える影響を理解しながら問題解決的に取り組む。コア信念が不正確であることを発見した患者には、より正確・機能的な信念の試用が促される。
問題の再定義(reframing)では、問題を別の視点から捉え直すことで否定的な固定した解釈を緩める。認知リハーサルでは困難な状況への対処を心の中で段階的に想像・練習する。自己指示訓練では問題状況での内語(self-talk)を変容させる。気晴らし技法では苦悩な感情から一時的に注意をそらす。
行動技法の主なものは以下の通りである。
活動スケジューリング(activity scheduling)では気分の記録と快感・コントロール感をもたらす活動の計画的な組み込みを行う。熟練と喜びの課題(mastery and pleasure tasks)では日常活動における達成感と喜びを評価し否定的自動思考を反証する。漸進的課題設定(graded task assignment)では容易な段階から段階的に困難な課題へと移行し自己効力感を高める。行動リハーサルとロールプレイでは困難な対人場面の練習を行う。曝露療法(exposure therapy)では恐怖状況への段階的な直面を通じて危険の過剰評価と対処能力の過小評価を修正する。さらにリラクゼーション技法・主張訓練・社会的スキル訓練なども含まれる。
純粋な認知技法と行動技法の区別は実際には不明確であり、両者は統合的に用いられる。また、これらの技法を患者自身が習得することで治療終結後も自律的に機能できるよう準備することが、技法使用の究極の目的である。
小括
以上のように、認知療法の三つの基本構成要素は相互に密接に関連している。理論が情報処理・スキーマ・認知的脆弱性・モードという枠組みを提供し、その理論に基づいて方略としての協同的実証主義と導かれた発見が採用され、それらを具体的に実施するための多様な技法が体系的に組み合わされる。この三層構造が認知療法の統合的な治療システムを成り立たせている。
主要文献
Beck, A. T. (1967). Depression: Clinical, experimental, and theoretical aspects. New York: Hoeber.
Beck, A. T., Rush, A. J., Shaw, B. F., & Emery, G. (1979). Cognitive therapy of depression. New York: Guilford Press.
Kelly, G. (1955). The psychology of personal constructs. New York: W. W. Norton.
Padesky, C. A. (1993). Socratic questioning: Changing minds or guiding discovery? Keynote address, European Congress of Behavioural and Cognitive Therapies, London.
Young, J. E., Klosko, J. S., & Weishaar, M. E. (2003). Schema therapy: A practitioner’s guide. New York: Guilford Press.
